Reincarnation Monarch
Episode 617: Glenn's Character
「そうなんですよね……だから皆疑うんです。『土着神大全』は偽書だって……」
グレンが顔を歪めながら、さも悔しそうに言った。
するとシェスターが眉を寄せて渋い顔を作り、自らの顎をさすりさすりしながら静かに言った。
「……君には悪いが、君の同僚たちの意見にもうなずけるところがあると思うぞ?……なにせあまりにも特異な話だし、他の古文書には一切記載されていないとなると……やはり偽書の疑いはぬぐい去れないと思ってしまうのだが……」
シェスターから呈された疑義にグレンは大いにうなだれてしまい、しばらくの間じっと黙りこくってしまった。
「……やっぱり『土着神大全』は偽書なんでしょうかねえ?……」
グレンは首をガクッと落とした姿勢のまま、消え入りそうな声で呟いた。
するとグレンを気の毒に思ったシェスターが、優しくポンと肩に手を置いていった。
「そう気を落とさないでくれ。わたしはただ偽書だという同僚たちの意見にも耳を傾けるべきところがあるのではないか?と言っただけで、『土着神大全』を偽書だと断定したわけではない。そもそも我々は古文書解読においてはズブの素人なわけだし、君が気に病むことはないだろう」
するとそんなシェスターのなぐさめに勇気づけられたのか、グレンがむくっと頭をもたげた。
「……そう……ですね。僕は専門家なわけだし……」
するとシェスターがグレンの背中を押すかのように同意した。
「その通りだ。所詮我々は素人で、君は玄人だ。しかも同じく玄人である君の同僚たちよりも国や時代がピタリと一致した完全な専門家なのだろう?ならばそんなに気を落とすことなく堂々と主張すればいいのではないかな?」
するとグレンの顔にほのかな笑みが浮かび上がった。
「そうですよね!僕は完璧にこの書に関する専門家ですもんね?他の皆の意見なんて聞く必要ないですよね?」
急に勢い込んでしゃべりだしたグレンに、シェスターは若干戸惑い気味ながらもその言い分に注意を促すべく、顔を引き締めて反論した。
「……いやグレン逆だ。わたしは先程から、たとえ君が完全な専門家であったとしても周囲の意見には耳を傾けないといけないと言っているんだよ。もちろん君は他の学芸員たちよりはこの書に関して、より専門家なわけだから、君の意見はもちろん最重要ではある。だが他の学芸員たちの意見も一旦意見として聞き入れるべきだろう。無論その上で自らの知識と教養に照らし合わせた結果、その意見を否定するというのならばなんら構わない。だが、周囲の者は完全な専門家でないからという理由で意見すらも聞かないというのは大いに問題だと言っているんだよ」
「……ああ、そうですね。たしかにそれはそうですよね……でもそれだと僕、多勢に無勢で……心が折れちゃいそうなんですよね……」
「君はどうやらその辺のバランスの取り方が悪いようだな?自分に自信がなさすぎるんだ。もう少し自信を持ったらどうだ?もちろん先程のように突然大いに持ちすぎるのも問題だがね?」
シェスターは心中ではグレンの性格をかなり面倒に思いながらも、それを決して顔に出すことなく、丁寧に諭すように告げるのであった。