Reincarnation Monarch

Episode 840: Another Worship

「……わかりました。とはいえ事は重大ですし、そもそもこの件に関しましては我らの一存で出来ることではございません」

シェスターがゆっくりとした口調で深く考察しながらそう言うと、すかさずミュラーが大きくうなずきながら答えた。

「無論だ。コメットの同意がなければこの件、一歩たりとも動けんのだからな」

「はい。ですのでまずはわたしが彼らに話しをしてみたいと思いますが?」

「うむ。そうしてくれ。ロンバルドがああなってしまった以上、もはやレノン一派の脅威はあるまい。だがだからといってもはや不必要だからと元親衛隊の者たちを放り出すような真似は出来ん。そんなことをすればロンバルドの遺志に背くこととなろう。それに栄光あるシュナイダー家の名声にも傷が付こうというものだ。断じてそのようなことはすべきではない。だがそうなるとレノン一派に替わって教皇の脅威を受けることとなる。これは大変に憂慮すべき事だといえる。シェスター、この辺りの事を上手くコメットたちに話をして、同意を得られるよう説得してくれ」

「はい。かしこまりました」

「それと……アルス、オルテス両名の件だが……」

ミュラーが険しい表情で、少々言い難そうに言った。

シェスターはそれを察し、同じく険しい表情ながら素早く答えた。

「はい。その件につきましては、残念ながら諦めるべきかと……」

「……うむ、そうだな。今更危険を押してタルカの町の地下水路を探索したとて、何か見つかるとも思えん。それよりも、そのオーガ神の究極魔法とやらをさらに深く研究した方がいいだろう……」

「……はい……」

シェスターは無念の思いを胸に、ゆっくりとうなずいた。

ミュラーはそんなシェスターの気持ちを慮(おもんぱか)り、優しく声をかけたのだった。

「これは仕方のないことだシェスター。ロンバルドの事も、アルス、オルテス両名の事も、どちらも人智を越えた出来事の末だ。お前が先程申したように、諦めるより他あるまい……」

「……はい。わかっております……」

シェスターは自らの思いを断ち切らんとするかの如く、静かにうなずきながら答えたのだった。

するとミュラーがそんなシェスターの様子を見て、おもむろに立ち上がった。

そしてゆっくりとした歩様でシェスターに近づいたのだった。

「……シェスター苦労をかけるが万事よろしく頼む……」

そう言ってミュラーは、様々な歴戦をくぐり抜けてきたとても分厚い掌で、シェスターの肩をポンと叩いた。

シェスターは大きくうなずき、敬愛する上司に対して力強く返答したのだった。

「かしこまりました。万事お任せを」

ミュラーは大きくうなずき、にこりと微笑んだ。

対するシェスターもまた、静かに微笑み返した。

二人はそうしてしばらくの間、互いの顔を見つめ合い、うなずきあった。

それは彼らが愛して止まない、今は亡き戦友へ送る惜別の挨拶の様にも見えたのであった。