Reincarnation Monarch
Episode 880: Panicking
「ちょっと待って下さいよ、シェスターさん。僕は二人が仲良くなる事に不満なんかないです。それどころかむしろ大歓迎ですよ。決まっているじゃないですか」
アジオは大いに慌てた様子で、両手を顔の前で激しく左右に振りながら言った。
シェスターはその様を見てただならぬものをアジオから感じ取った。
「……慌てすぎだな。そういった反応は多くの場合、図星を当てられた際に取るものだ」
「ちょっと待って下さいって…………シェスターさんは考えすぎですよ。本当に僕はそんな事は思っていません。確かに慌てたのは事実ですが、いきなりそんな思ってもみない事をいわれたら、身に覚えがなくったって慌てますよ。冤罪事件なんかの犯人にされてしまった人なんて、まさにこれですよ。人間は突然言いがかりをつけられたら慌てるもんです。今の僕の反応がまさにそれです。図星なんかじゃありませんよ」
アジオはかなりの早口で慌てた様子ながら、理路整然とした自己弁護を長広舌で述べた。
だがシェスターはまったく納得いった様子もなく、難しい表情はそのままに、さらに追及しようと試みたのだった。
「そうだろうか?確かに冤罪事件の際に容疑者扱いされた者が、気が動転して慌てふためいてしまうケースはある。だがその多くはその容疑者とされてしまった人物が気が弱かった場合だ。しかし君はそういった人物ではない。実に肝の据わった歴戦の者だ。故に君の言うケースには到底当てはまるものではないと思うぞ?」
シェスターもまた、中々の長広舌でもって舌鋒鋭くアジオへと襲いかかった。
だがアジオもここは引けないとばかりに、さらなる反駁を試みるのだった。
「いやいやいや、僕はそんな大層な者じゃありませんよ。シェスターさんの買い被りです。僕は本当に普通の一般人に毛が生えた程度の者なんですってば……」
アジオの懸命な弁解であったが、シェスターの追及は構わず続けられた。
「いや、君は間違いなく歴戦の強者だよ。それは君の身のこなしを見れば判る事だ。少なくともわたしの言葉が単なる言いがかりだったとしたなら、そんな言葉に大きく心を乱される様な者ではないはずだ」
するとこれにアジオが大きくかぶりを振った。
「そんなことはありませんって……僕はエルバ嬢の単なる使いっ走りですよ」
するとそこでシェスターが、アジオの言を聞いて考え込んだ。
「……ふむ。そういえば君はエルバ嬢の命でコメットに近づくためにゴルコス将軍の親衛隊へ入ったのだったな?」
突然の話題の転換に、アジオは一瞬戸惑いながら答えた。
「……ええ、まあそうです……」
するとシェスターがにやりと笑みを零した。
「それは本当かね?君たちが親衛隊に入隊した時、またエルバ嬢は大分若かったと思うが?」
するとアジオはまたも慌てた様子で自らの言を訂正した。
「あっ、いや、そうです。実際はその側近の方たちの命ですが……」
するとシェスターの笑みはさらに深みを増すのであった。