Reworld•Frontier-Saijakuni Shite Saikyou no Shien Jutsu Shiki Tsukai [Enhancer]

● 46 final showdown - just one second difference 4

剣術式〈ドリルブレイク〉の一斉発動と同時に、ゴルサウアの背中の噴射孔に突っ込んだ〈如意伸刀〉のトリガーをオンにする。

液体金属の刃が伸び上がるのと、ディープパープルの螺旋衝角(ドリル)が形成されるのが、並列で処理された。

また時を同じくして、バギンッ、とゴルサウアの角が音を立てて砕け折れた。僕の五指が奴の極太の一本角へとめり込み、握り潰し、大部分を抉り取った結果である。

「――――――――――――――――!?」

そうして勢いよく伸長する〈如意伸刀〉の刀身に突き上げられて、ゴルサウアの体が空へと発射された。次いで〈ドリルブレイク〉の形状が安定し、猛烈な回転を開始する。背中の噴射孔の内部を直接抉る螺旋衝角に対し、極彩色の怪物は為す術もない。『フリーズ』を受けた肉体は、あと十秒ほど時が経たねば絶対に動くことはないのだ。

そして、僕の前でその十秒は、あまりにも致命的な十秒だった。

左手に握った〈如意伸刀〉を釣り竿の要領で、クンッ、と上向きに持ち上げる。斜め上に飛んでいっていたゴルサウアの進行方向が、ほぼ真上へと修正された。いつかのシグロスとの戦いを思い出す。そういえば、あの時もこんな風にしたな、と。

「〈フレイボム〉」

だが、あの時には出来なかったことが今なら可能だ。かつての戦いではシグロスに〝SEAL〟をハッキングされ、〈フレイボム〉のデータをクラックされていた。だから止(どど)めに重複〈フレイボム〉を放つことが出来なかった。

「〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉」

強化係数一〇二四倍の僕が発動させた二十連〈ドリルブレイク〉に体内を抉り削られながら、どこまでも伸長していく〈如意伸刀〉の刀身によって、ゴルサウアの肉体は空を高く高く昇っていく。その姿は、ディープパープルの噴射光によって宇宙(そら)を目指すロケットのようにも見えた。

――残り九秒。

「〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉」

僕に人外であるゴルサウアの気持ちなどわかろうはずもない。慮(おもんぱか)ることなど意味のない、無駄に過ぎる行為だ。

それでも想像せずにはいられない。

ゴルサウアは今、どんな気分だろうか――と。

――残り八秒。

「〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉、〈フレイボム〉」

高く、どこまでも高く昇っていくゴルサウアの姿は、早くも僕の目には豆粒のようにしか映らなくなっている。

僕が奴を送る先は、どう言い繕(つくろ)うとも『処刑場』以外の何物でもない。空の高い場所であればどれほどの爆発が起ころうとも、誰にも影響を与えない。また、エイジャがどれほどのイレギュラーを用意してようとも、容易にはゴルサウアを救出することなどできまい。また、エイジャ自身が奴を助けに来ることは絶対にないと言い切っていい。彼はGM(ゲームマスター)だ。そこまで無粋な真似はするまい、と変なところだけは信頼できる。

つまり、ゴルサウアにとっては絶体絶命の極み、というわけだ。

――残り七秒。

「〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉」

人間のそれとは違うかもしれないが、それでも僕だったら果てしない絶望を味わっている頃だ。身動き一つ取れず、生殺与奪の権を敵に握られ、こうして体の真ん中を抉られながら遠ざけられている。現在進行形で〈如意伸刀〉の刀身を伝って奴の元へと届けられている〈フレイボム〉のアイコンには見覚えがあるだろうし、今だけは先程のように全身を膨張させて〝核〟を逃すことも出来やしない。そして、何をどう計算しても『フリーズ』の効果が切れるにはあと五秒以上が必要だ。

――残り六秒。

「〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボム〉〈フレイボムフレイボムフレイボムフレイボム」

僕だったらどうするだろう。かつては目を瞑って諦めたこともあったし、または眼(まなこ)を見開いて最後の最後まで足掻(あが)いた時もあった。

絶望、恐怖、諦め、執着、切望――それらを一通り味わった後にやってくる憤怒、克己(こっき)、希望、期待、願望。負の感情と正のそれが行ったり来たりして、やがては自分でもわからなくなるほど高速の循環を繰り返す。その中で勝機が見えればいいが――

――残り五秒。

「フレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボム」

そんなもの見させやしない。奴に信じる神様がいるかどうかは知らないが、その手は決して届かせやしない。僕が絶対に阻んでみせる。

――残り四秒。

「フレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボムフレイボム」

今度という今度こそ、本当の詰み(チェックメイト)だ。

――残り三秒。

「ボボムフムムムレレレムフフレムフレイフイムムムイフイボボレボムムイイボボフレムイボイフムイムフイムレイムレレフレレムフボレムイイレイボイレフムイフボムボムレムムレレムボレムイレイイレムイフムレレレイフイフボフレイイボレレフフレムレフボフムフフフボイレボボボレフボボレボムボレボボフイフボボムフボイフボレムイイボボイイレイレフレレボフイボムレレイボボフレボイフムイフボイフボムレフムボムイムフイイフムムボフイボフムムイフフ」

今頃は死に物狂いで状況を計算して活路を見出そうとしているだろうか。僕ならそうしている。あの極彩色の怪物だってそうに違いあるまい。

だから、ここで終わりだ。

僕はとにかくありったけの、起動出来るだけの〈フレイボム〉を起動しまくった。起動音声(コール)の整合性などどうでもいい。ともかく処理できれば何でもいい。

――残り二秒。

「――――」

全〈フレイボム〉を一斉発動。

起爆コマンドをまとめてキックする。

ほんの僅かなタイムラグ。

僕の〝SEAL〟が全ての演算処理を終え、それが空の遙か彼方へと飛び去っていったゴルサウアのもとに届くまで、瞬きにも満たない刹那。

――残り一秒といくらか。

結果として『蒼き紅炎の騎士団《ノーブル・プロミネンス・ナイツ》』と『探検者狩り(レッドラム)』の大半を〝死亡〟させた怪物に、慈悲などかける必要はない。

因果応報。

全てはゴルサウア自身のやったことが還ってきただけのこと。そこに関してだけは、きっと僕だって他の人だって例外ではない。何事も、いつかは何かしらの報いが還ってくるものなのだ。

――残り一秒。

全〈フレイボム〉が起爆した。

あと一秒だった。

たったの一秒だった。

たかが一秒で、されどの一秒だった。

タイムを競うアスリートの世界ではたとえ0.1秒であっても致命的な差となる。

あと一秒が足りなかったゴルサウアは、つまりはどうしようもなく時間が足りなかったのだ。

浮遊大島から遠く、それはもう遠く離れた空の彼方で、強烈な爆発が起こった。

明けの明星にも似た煌めきが、蒼穹の一点で激しく瞬いた。

小さな太陽が一つ、そこに現れたかのようだった。

――ゼロ。

極彩色の怪物――〝妖鬼王ゴルサウア〟は『フリーズ』によって身動き一つ取れないまま、誰もいない高空でただ独り、重複〈フレイボム〉の直撃によって、爆死した。

手応えあり、だった。

その証拠に、一拍を置いてから、巨大な青白い情報具現化コンポーネントが、彗星のごとく凄い勢いで落ちてきた。

無論、僕めがけて。

これにてフロアマスターを活動停止(シャットダウン)させたことを確認した僕は、巨大なコンポーネントを〝SEAL〟に吸収しながら、各種の術式をキャンセル。〈如意伸刀〉のトリガーを離し、液体金属の刃を本体内に収納させる。

「…………」

残心。

勝った時ほど奢るな。油断するな。警戒を解かず、周囲に気を配れ――そう、ロゼさんからも、アシュリーさんからも、ヴィリーさんからも習った。

だから僕は心を途切れさせず、不意の事態にも対応できるよう

くらっ、ときた。

「――……っ……」

一瞬だけ意識が、けれど完全に遠のいた。足元がふらつき、思わずたたらを踏む。

――あれ? そういえば僕、いくつ〈フレイボム〉を発動させたっけ……?

半ば無意識だったせいか、どれだけの数の〈フレイボム〉を並列処理したのか全く思い出せない。相当な数を〝SEAL〟の出力スロットに突っ込んでは起動させ、待機状態に移行させていた気はするのだけど。

「……あっ、と、と……」

ダメだった。何とか踏ん張ろうとしたけれど、足から力が抜けていくのが止められなかった。結局、僕は足をもつれさせ、へなへなと情けなく尻餅をつく。先に両手を地面についたので特にダメージはなかったけれども。

「……あちゃぁ……」

みっともない話であった。せっかく敵の〝ラスボス〟を倒したというのに、残心もそこそこに腰が抜けてしまうだなんて。格好がつかないにも程がある。

――でも、やっと倒せた……

完膚なきまでに、フロアマスターを打倒した。これにはもうエイジャとて文句はつけるまい。だけど、ここでさらに『お疲れ様、マイマスター。じゃあ〝裏ボス〟の追加だ』なんて言い出そうものなら、一体どうしてくれようか。

――……ありそうで怖い……

想像してみて何だが、エイジャなら本当にそんなことを言い出しそうだ。ここはルナティック・バベル、悪魔のごとき悪辣さを誇る凶悪な遺跡(レリクス)――僕ごときが思い浮かべるような無体さは、当然のごとく用意しているに違いないのだから。

だから、その時はその時だ。

結局は目の前に提示された試練を乗り越えることしか、僕達には出来ない。

とはいえ、いくらエイジャでも休む時間ぐらいはくれるだろう。先日、海辺でのバカンスをくれたように。

ちゃんと体を休めれば、きっとみんなだってすぐ回復するだろうし、万全の態勢となれば、何が来たって負ける気はしない。

僕達は      必 

ず 元いた   場所 へ¥ か

えって

※  §

みせ        ∑