Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
About helping with summer festivals
「リスリス衛生兵が遠征先で作っている食事のようなものを、提供したいと考えているのだ」
「え!? で、ですが、そんな大量の食事を、私だけで用意できるのかが……」
作れる量的には、今の第二遠征部隊のメンバー分──七人分で精一杯だ。これ以上作るとなったら、他に手を借りなければならない。
「ああ、当日作ることは心配しないでくれ。調理は食堂で料理をする者達がする。リスリス衛生兵は、現場監督者としているだけでいい」
「げ、現場監督……ですか」
びっくりした。巡回する騎士の食事を一人で作れと指示する命令かと思った。
食堂のおばちゃんが一緒なら、安心だろう。
「もちろん、これは強制ではない。リスリス衛生兵が断っても、食堂で普段出している物を提供するだけだから」
ただ、食堂のおばちゃん達に話を聞いたところ、夏祭りの日に、巡回に行って戻ってきた騎士の食欲はもれなく下がっているらしい。
毎年、そのような傾向があるのだとか。
「警邏部隊の総隊長に頼み込まれ、年に一度任務を請け負っているものの、慣れない巡回は騎士達の負担になっていてな。どうにかできないかと思っていた折に、ルードティンク隊長から預かっていた報告書に書かれていたリスリス衛生兵の遠征ごはんを思い出して」
現地で作る料理の数々は、素晴らしいものであったとお褒めの言葉をいただいた。
こんなふうに褒めてもらうことはないので、くすぐったいやら恥ずかしいやらである。
しかしここまで言われてしまったら、話を受けないわけにはいかないだろう。
「どうにか、騎士達のために、一肌脱いでくれないだろうか?」
「ええ、わかりました。ぜひとも、お受けいたします」
「本当か?」
「はい、お任せを」
というわけで、夏祭りの日の騎士達への軽食を考案し監督することになった
夏祭りの開催は一週間後。それまでに、料理を考えて、試作品を作らなければならないらしい。怒涛の予定である。
「第二部隊は幻獣保護局から良い施設を作ってもらったそうで、試作品の調理等はそこで構わないだろうか?」
「はい」
「試作品の材料など、必要な物はなんでも言ってほしい」
「了解です」
夏祭り開催日まで、第二部隊は遠征任務を入れないようにしてくれるようだ。
「今、第二部隊をモデルとした、少数精鋭部隊を増やそうと試していて、もしも第二部隊に頼むような任務が発生したら、試作部隊を派遣しようと思っている。だから、その辺は心配しないでほしい」
新しい少数部隊にも驚いたけれど、私達第二部隊が精鋭部隊のモデルケースになっていたなんて。びっくりだ。
たぶん、私やウルガスが調子に乗るので、隊長は敢えて言わなかったのだろう。
「今回、夏祭りでの騎士達の体調について話し合ったところ、遠征中の不調も話題に上がってな。後日、兵糧食などの調査を行ってみたところ不満も多く、もしかしたら、騎士隊独自の保存食の開発を行うかもしれん。その時は、協力してくれるだろうか?」
「もちろんです。私にできることがあれば、ぜひ!」
森育ちの知識が役に立てば、これ以上嬉しいことはない。
私は遠征部隊の総隊長とがっつり握手を交わし、第二部隊の騎士舎に戻ることになった。
◇◇◇
第二部隊の騎士舎へ戻ったら、すぐに隊長に報告に行った。
「正直びっくりな申し出でしたが、受けることにしました」
「そうか」
それにしても、どうして上層部からの依頼を言ってくれなかったのか。
私は隊長に抗議する。
「いや、総隊長がお前に直接話をしたいと言っていたからだ。別に、意地悪で言ったわけではない」
「怖い顔で言うので、警戒したじゃありませんか」
「怖い顔は地顔だ」
「そ、そうでした……か?」
「今まで、散々人を山賊だの何だのと言っていただろう」
「すみません、本当に。心から反省しています」
「怪しいな」
と、ここで隊長と遊んでいる場合ではない。騎士達に提供する料理を考えなければ。
「隊長、アルブムを借りますね」
「ああ、好きにしろ」
アルブムは自分には関係ないと思っていたのか、執務室の陽当たりが良い窓辺で昼寝をしようとしていた。
すぐさまガバリと起き上がり、私のほうを見る。
『エ、アルブムチャン、何カ、オ仕事スルノ?』
「あなたの得意なことですよ」
『ナ、ナンダロウ?』
すぐ気づくと思ったが、ピンときていないようだ。
手を差し伸べるとアルブムは窓辺から飛び降り、テテテと駆けてくる。
「アルブムの仕事は、料理の試食です」
『ソレ、アルブムチャンノ、得意ナヤツダ!』
「でしょう?」
アルブムを抱き上げたところで、籠の中で眠っていたエスメラルダも仕事を手伝うと言いだした。
「え、あなた、好き嫌いするでしょう?」
『キュキュウ!』
仕事は仕事、プライベートはプライベートだと言っている。
本当なのか……怪しい。
まあ、騎士隊に慣れていないエスメラルダを置き去りにすることもできないので、一緒に連れてくことにした。
最後に、首からぶら下げていたスラちゃんがドコドコと蓋を叩いて主張する。
「え、スラちゃんも手伝ってくれるのですか?」
スラちゃんは胸を張り、任せろと言わんばかりにドン! と叩いている。
アルブムにエスメラルダ、スラちゃんと思いがけない仲間を得た。
このメンバーで、夏祭りで提供する軽食を考えることとなる。