Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
In Antiques City Part III
任務地であるモンテリテールに入る森の中で、身支度を行う。
男性陣は外で、女性陣は馬車の中で。
互いに邪魔にならないよう、ごそごそと着替えた。
「それにしても、メルは目立ちそうね」
「そ、そういえば、そうですね」
いや、目立つというのは可愛いとか、綺麗とかそういうのではなくて、エルフのメイドというのが珍しいというだけだ。
自分で弁解して、空しくなるけれど。
「大丈夫ですかね。不安になりました」
「リスリス衛生兵、安心しろ。私も変装について、ルードティンク隊長に聞いたのだが──」
さすが、ベルリー副隊長だ。任務に支障がないか、確認していたらしい。
「ベルリー副隊長、それで、隊長はなんと……!」
ベルリー副隊長は着替えが終わったようで、昼用礼装(フロックコート)の襟をピッと両手で伸ばした。そんなベルリー副隊長を見て、ハッとなる。
「ベルリー副隊長、かっこいい……!」
「ん?」
「あ、いや、なんでもないです」
礼服姿のベルリー副隊長は、すごく男前な雰囲気だった。
しかし、これは男性にしか見えない男装ではない。女性が男性の服を着たように見える男装姿である。
それが、なんとも言えない魅力をかもしだしているのだろう。
「それで、隊長はなんと?」
「ルードティンク隊長は、私の傍にリスリス衛生兵を侍らせておけば問題ないと言っていた」
「わかります」
礼装姿のベルリー副隊長は、なんだか色っぽいし、かっこいいし、視線はすべて一点に集まるだろう。私なんか、周囲の人混みに紛れて目につかないはずだ。
隊長には、これがわかっていたのかもしれない。さすがだ。
一方、リーゼロッテは本物のお嬢様なだけあって、ドレス姿が似合う。
しかし、時代遅れだの、生地が薄っぺらいだの、いろいろ文句を言っている。
「みなさん、よくお似合いで」
「リスリス衛生兵も、よく似合っているぞ」
「本当ですか!?」
そういえば、こんな風にレースやフリル、リボンがたっぷりな服を着て外を出歩くのは初めてかもしれない。
ちょっと楽しい気分になりかけていたけれど、これは任務だ。気を引き締めて参加をせねば。
男性陣も準備ができたらしい。外に出てみると、まずガルさんが目に付く。
帽子を被り、礼服を纏って、左手にステッキ、右手にワイングラスを持った紳士的な出で立ちだ。
よくよく見たら、ワイングラスの中で揺れているのはワインではなく──スラちゃんだ。
なんという、自然な変装!
目が合ったスラちゃんは、パチンとウィンクしてきた。
「ガルさん、よくお似合いです。スラちゃんも、素敵な変装ですね!」
ガルさんは成金商人という設定らしい。素敵な貴族紳士にしか見えないけれど、まあ、なんとかなるだろう。
「あら、メルちゃん、可愛いじゃない!」
ザラさんが褒めてくれる。
「ありがとうございま──うっ!!」
「やだ、メルちゃん、どうしたの?」
ザラさんの礼装姿がカッコよすぎて、直視できなかったのだ。
紺の昼用礼装に、灰色のタイがよく似合っている。
「私、変だった?」
「いえいえ! カッコイイですよ!」
「カッコイイとか、初めて言われたわ」
「今まではなんと?」
「自分で言うのは図々しい話なんだけれど……美人とか」
「あ~~」
確かに、髪が長い時代のザラさんは、カッコイイというより美人に見えていたような気がする。髪の毛を切ったら、凛々しくなったというか、なんというか。
「でも、嬉しい」
と、そんな話をしていたら、ゲホンゲホン! と隊長が咳ばらいをする。
従僕用の服を着た隊長と、ウルガスのコンビだ。
礼服に着せられている感があるウルガスと、従僕の格好が似合わず、更生した山賊がまっとうな仕事に就き始めたみたいな隊長の姿はなんとも言えない。
「おい、ウルガス、俺の後ろに立つな。お前が主人という設定なんだからな」
「でも、背後にいる隊長の殺気がすごくて、背中がぞわぞわするんですよ」
「失礼だな!」
「リスリス衛生兵と交代してもらえませんか?」
「ダメだ。戦力と見た目のバランスがおかしくなる」
「見た目、ですか?」
「例えばだ」
隊長はベルリー副隊長の背後に移動する。
「俺とベルリーがいたら、どう思う?」
「き、危険な取引をしているっぽい、怪しい二人組に見えます」
「だろう? お前とリスリスが並んだ場合──お前の影が薄いから、リスリスが目立って注目を集めてしまう」
「それ、酷くないですか!?」
なるほど。隊長はよく考えて組み合わせを考えていたようだ。
ザラさんとリーゼロッテも、単体だとキラキラしいけれど、二人一緒だったらあまり目立たなくなる。
「そんなわけだから、我慢しろ」
「うう~~……」
隊長の山賊力に負けずに、頑張ってほしい。
こうして、私達は潜入調査を開始することになった。