Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
Master Siel and the mushroom hunt! Two.
「うぎゃっ!!」
落下したわけではなく、綺麗に着地していたが悲鳴をあげてしまった。
「リスリスよ、大事ないか?」
「はい、まったくないデス」
アメリアとステラ、アルブムもきちんと着地していた。コメルヴはきちんと、シエル様の肩に座っている。
周囲を見渡すと、景色が変わっていた。魔法で転移してきたので、当たり前なんだけど。
これでもかと生い茂った木々の葉が重なり合い、森は鬱蒼としている。
キノコの森と呼ばれるだけあって、地面は湿り気候はじめじめしていた。
アメリアとステラは、泥だらけとなってしまった足元を見ている。まさか、汚れるのを気にしているのではと思ったが──杞憂だった。
アメリアは私を呼んで、スタンプを押したように残る足跡を見せてくれた。前足は立派な鷹の足跡。後ろ足は可愛い獅子の足跡である。
ステラも同じように地面を足踏みし、足跡を見せてくれた。
「二人共、素敵な足跡ですね」
『クエ~』
『クウ』
二人共、「それほどでも~」と照れていた。
一方で、アルブムは脚の半分ほどが泥の地面にのめり込んでいる。
『ウワァ……歩キニクイナァ』
私をチラチラ見ながら言っているのが、実にあざとい。
しかし、困った状態なのは確か。だんだんと気の毒になってきたので、前足と後ろ足を拭いて肩に乗せてあげた。
『パンケーキノ娘ェ、助カルゥ』
「その代わり、しっかりキノコを探してくださいね」
『了解!』
シエル様を先頭に、キノコの森の散策を始める。
『ア、見ツケタ!!』
早速、アルブムがキノコを発見した。
私の肩から飛び降り、大きな葉っぱに着地。地面に降りないように葉っぱから葉っぱへ飛び移って、キノコを採取していた。
アルブムが手にしているのは、全体が真っ赤なキノコ──ピリカラ茸だ。
一見して毒キノコのように見えるが、毒性はまったくない。
味わいは唐辛子(ピマン)のようで、スープに入れたらピリカラ風味になる。
フォレ・エルフの村では、大雨が降ったあとに生えることがあった。
世界的に珍しいキノコのようで、商人が高値で買い取ってくれる。
「なるほど、ピリカラ茸か。この森ではよく見かけていたが、色合いから毒キノコだと思っておった」
「わかります。見た目は完全に毒キノコです。けれど、ぴりっとした風味がたまらないキノコなんですよ」
父は薄く切って焼き、お酒と一緒に食べることが一番おいしいと言っていた。
妹達がねだって食べていたけれど、辛かったのか顔を真っ赤にしていた。きっと、大人の味なのだろう。
「たくさんありますね。乾燥させたり、オイル漬けにもできたりするので、採っておきましょう」
ピリカラ茸のオイル漬けは使い勝手がいい。漬けていた油を使ってピリカラ茸と肉を炒め、仕上げに香草をぱらっと振りかけただけで、絶品料理となる。
「──と、こんなものですか」
生えているピリカラ茸を採り尽くし、先へと進む。
それにしても、さすがはキノコの森と呼ばれているだけある。足元を見たらすぐに、キノコが見つかるのだ。
ただ、そのほとんどが毒キノコで、がっかりすることが多いけれど。
「むう、これも毒キノコか」
シエル様は唇を尖らせ、不服そうな顔をしている。
「すまぬな。思っていた以上に食用キノコが少なくて」
「いえいえ。もともと、森に自生するキノコのほとんどは毒キノコで、食用キノコはごく一部なんです」
「そうなのか」
食用キノコか毒キノコか、自ら食べて調べてくれた過去の偉人には頭が下がります。
「一番危険なのは、食用キノコに似た毒キノコなんですよね」
私の足元に生えている、無害そうで肉厚なかさを付けたキノコは毒キノコだ。
「これは、市場でよく見かけるキノコだろう?」
シエル様の最近のブームは市場に出かけることで、周囲の奥様方に紛れるために兜に手巾を巻き顎の下で結んでいる。鎧姿に花柄の手巾を巻いた姿は目立ちまくっていることを、シエル様は気づいていない。
そんなことはさて置いて。
「これは、じくの部分に黒い線が入っているのですが」
「ううむ……難しいな」
本物のキノコを見慣れていないと、なかなか気づかない。
「ちなみにこれは猛毒キノコで、一週間ほど悶え苦しんだあと死に至ります。この、たった一本のキノコが、致死量なんですよ」
「むう。なんと恐ろしい」
人とキノコの歴史は果てしなく長い。
歩いていると、その象徴たるキノコを発見する。
木の根に、どす黒いキノコが生えていた。
『パンケーキノ娘ェ、ソレ、毒キノコダヨ』
「わかっています」
毒キノコだが、これは毒性を抜くことができるキノコなのだ。
「毒性を抜けるキノコとな!?」
「はい」
この毒キノコは、毒性を抜くのに五年もかかる。
「まず、油に一年漬けて、二年目は塩漬けにします、三年目はお酒に漬けて、四年目は乾燥させます。五年目に、もう一度油に漬けたら、毒が抜けるんです」
「すさまじく、手間がかかるのだな」
「そうですね。一部の国で高級品として食べられているようですが」
他にも、茹でたら解毒できたとか、凍らせたら解毒できたとか、さまざまな毒抜きの方法がある。
しかし、毒が抜けきっていない場合もあるという話を聞いたことがあった。恐ろしくて、試そうとも思わない。
「森の奥のほうに行けば、穴場みたいなところもあるかもしれないですね」
この辺は野生動物も多いのか、食用キノコの多くは食べられてしまっているような。
「あ、シエル様、あそこにキノコが──」
一歩足を踏みだした瞬間、ステラが毛を逆立てていた。
この先に、何か(・・)がいるようだ。耳をすませば、ガサゴソと物音が聞こえた。
シエル様も気づいたのか、水晶剣を引き抜く。
『クエエエ!』
アメリアが叫ぶ。キノコ型の魔物が出てきたと。
食用キノコではなく、どうやら魔物キノコの穴場に足を踏み入れてしまったようだ。