Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit

In the Great Forest Part IX

 猫の大精霊様の誘導で大森林の中を進んでいく。

 だんだんと魔物が強くなっているような気がして、不安だ。

 戦闘を終えるごとに、みんなの疲弊する様子がいつもと段違いのように思える。

 こまめに休みを取って、ちょっとした飲み物や軽食で疲労回復してもらった。

 川沿いを行き、途中から森のほうへと戻っていく。

 だんだんと、霧の深い場所へと足を踏み入れた。

 平坦な道から、岩から岩へと登る険しい道のりになる。

 なんと、世界樹は山を越えた先にある平原に生えているらしい。

 ここからが体力勝負だろう。

 猫の大精霊様は、軽々と跳んで登っていた。

 隊長も続く。ベルリー副隊長も遅れを取らない。

 遅れ気味のウルガスの腰にスラちゃんが巻き付く。ガルさんがスラちゃんを引き、手助けしていた。

 自分でなんとかするというリーゼロッテの上着を、アメリアが嘴で引いて手伝ってくれる。ステラも私のお尻を額で押し上げ、登るのを手伝ってくれた。

 最後に、ザラさんが登る。

「ちょっとザラ・アート! 下からわたくしを覗かないで!」

「あなたのスカートの中なんて、興味ないから大丈夫よ」

 リーゼロッテは叫ぶ元気があるので、意外と大丈夫そうだ。

 体力がない私やリーゼロッテを心配してか、隊長は開けた場所で休憩を入れてくれた。

 リーゼロッテが背中を預けた樹には、桑の実(マルベリー)が実っている。

 アルブムが樹に登って、革袋に詰めてくれた。

『コレ、スッゴク、甘カッタヨ!』

「期待が高まりますね」

 鍋に桑の実を入れ、強火で加熱する。ある程度火が通ったら、砂糖を入れてトロトロになるまで煮込む。

 桑の実の形がちょっと崩れてきたら、『桑の実のとろとろ甘露煮』の完成!

 これを、クラッカーに載せて食べるのだ。

「あら、良い香り」

「桑の実を甘露煮にしてみました。じっくり煮込む砂糖煮込み(メルメラーダ)より、甘さは控えめですが、素材がいいのでおいしいかなと」

「いいわね」

 桑の実には体の免疫力を高める効果や、むくみの改善が期待できる。

 岩を登ってくたくたな私達にぴったりの食材かもしれない。

 他に、スラちゃん用に甘露煮をお湯で割ったジュースも用意してみた。

 甘い物が苦手な隊長には、クラッカーにチーズとレバーペーストを載せたものを出す。

 桑の実の甘露煮を入れた皿に匙を入れ、各々好きな量を載せてもらう。

 猫の手では難しいだろうと思って、猫の大精霊様にはあらかじめ甘露煮を載せたクラッカーを用意した。

 アメリアとステラは、生の桑の実を楽しんでいただく。

「準備ができたので、食べましょう」

 桑の実の甘露煮を、たっぷりクラッカーに載せた。そして、一口で食べてしまう。

 果肉の触感が残る桑の実が、口の中でプチプチと弾ける。クラッカーのサクサク感と相俟って、絶妙な触感となる。

 甘酸っぱくて、とろとろで、とってもおいしい。

「メル、これ、すごいわ。今まで食べたことのないくらいジューシーで、甘いの」

「大森林の特別な桑の実ですからね」

 大森林の恵みに感謝だ。

 そして、私達は世界樹を目指す歩みを再開させる。

 険しい道のりだった。山頂へとたどり着いたころには、すっかり夜となる。

 山頂は風が強く、霧が深い。

 そして何より、寒かった。うっすらと雪が残っているのだ。

「さ、さささ、寒い!!」

 アルブムを首に巻き、暖を取る。

 今日は野宿では厳しいので、天幕を張ることにしたようだ。

 強風のせいで、天幕作りをするザラさんとガルさん、ウルガスの表情は険しい。

 隊長とベルリー副隊長、猫の大精霊様は角灯を囲んで作戦会議をしていた。

 その間、私は夕食の準備を行う。

 何か温かいものを食べて、体をポカポカにしなければならなかった。

 ホロホロ鳥と玉ねぎ(ルーク)を使ってスープを作ることにした。

 薄切りにした玉ねぎを、鍋に落としたバターで炒める。

 塩を軽くパッパと振るい、飴色になるまでじっくり火を通すのだ。

 焦げないよう、注意をしなければ。ヘラでタマネギを炒め続ける。

 面倒だけれど、ここは妥協してはいけない。おいしいスープを完成させるために、必要な手順だった。

 アメリアが角灯を嘴で銜え、鍋の中を照らしてくれる。

「アメリア、ありがとうございます」

『フエ~~』

 優しい子だ。ステラも、パンを切るリーゼロッテの手元を照らしてくれる。

 リーゼロッテは不器用ながら、パンをスライスしてくれていた。

 頑張れ、リーゼロッテ!

 飴色になった玉ねぎにホロホロ鳥で出汁を取ったスープを入れて、煮込んでいく。

 塩と胡椒で味を調えたら、スープのできあがり。

 これで、終わりではない。

「きゃあ!」

『クウ!』

 リーゼロッテとステラのいる方向から、火柱が立ち上がる。

「ど、どうしたんですか!?」

「ご、ごめんなさい! パンを焼こうとしたら、失敗しちゃって!」

「わ~~!!」

 炎上する炎は、大きくなりすぎてリーゼロッテの手に負えなくなったようだ。

『炎から離れろ!』

 猫の大精霊様がやって来て、魔法で氷の礫を飛ばしてくる。

 大きな炎なのに、氷の粒でどんどん火の勢いは小さくなっていく。

 炎は消火され、炭になったパンだけが残った。

 猫の大精霊様はくるりとふり返り、毛を逆立たせてリーゼロッテを怒る。

『君は、どうして自分の魔力の制御ができないのに、魔法を使っているんだ!』

「ご、ごめんなさい!」

 それからしばらく、リーゼロッテは猫の大精霊様に説教されていた。

 なんていうか、猫の大精霊様、とっても怖い。