Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit

　許可を得て、村長の家の前に簡易かまどを作らせていただく。

　炊き出し用の大鍋と言っていたが、鼠妖精の鍋なのでそこまで大きくないだろうと思っていた。

　しかし運ばれた鍋は、本当に大きかった。大人数分まとめて作ることができるので、ありがたい。

　アリタからもらった野菜を使って何を作ろうかと考えていたら、エプロンをかけた鼠妖精の女性陣がやってくる。

　なんていうか、可愛すぎやしないか。ぶるぶる震えていたら、真顔のリーゼロッテに「大丈夫？」と心配されてしまった。

「あの、その、鼠妖精さんが、愛らしくて」

「別に、普通の妖精じゃない」

　鼠妖精が、普通の妖精だと！？

　ふかふかの白や茶色、黒などの毛並みに、服を着て、二足歩行でいる鼠妖精の可愛さを理解できないなんて、信じられない。

　と思ったが、ふと我に返る。

　リーゼロッテが幻獣に対して愛ある視線を向けているとき、私も無表情で「大丈夫ですか？」と聞いたことがあったような。

　どうやら私達の嗜好は、かみ合わない運命にあるようだ。

「鼠妖精、何か持ってきているわね」

「ですね」

　カゴに入った野菜や、肉、調理道具など、さまざまな物を運んでいる。

　私達の前にたどり着くと、一列に並んでペコリと頭を下げてくれた。

『勇者様のお食事を作るということで、お手伝いにまいりました』

「わ～、ありがとうございます」

　調味料を持っていないので、いろいろ持参してきてくれて非常に助かる。

　何を作ろうか迷っていたら、鼠妖精の村の伝統スープを教えてくれるらしい。

『甘露芋は、そのまま焼いて食べたほうがおいしいです。スープに適しているのは、飴南瓜のほうですね』

　鼠妖精の奥様が丸い飴南瓜を高く持ち上げ、私に見せてくれる。

『飴南瓜は、ひき肉を包んだお団子を作って、スープに入れるんです』

「おいしそうですね」

『作り方を、お教えしますね』

「はい！」

　まず、皮を剥き、種を取り除いた飴南瓜を煮る。飴南瓜は、眩しいくらいのきれいな黄色だった。普通の南瓜は橙色なので、新鮮である。

　飴南瓜が煮えるのを待つ間に、甘露芋を焼く作業に取りかかった。

　鼠妖精はせっせと落ち葉を回収してくる。

　甘露芋を置いて、その上に落ち葉を被せる。そこに、火を点けて焼くようだ。

「あの、そのまま火を点けたら、甘露芋の表面が焦げてしまうのでは？」

『心配ありませんわ。甘露芋の皮は樹皮のように堅く、真っ黒に燃えても、中が燃えることはないのです』

「へえ、そうなのですね」

　さすが、妖精族が栽培している未知の野菜。その辺に売っているものとは、性質が異なるようだ。

　煮えた飴南瓜は湯を入れて、なめらかになるまですり潰す。そこに、団子粉を入れて、力を込めて捏ねるのだ。

　生地が、飴南瓜のきれいな黄色に染まった。

　大人数用なので、私がせっせと捏ねる。生地はコシがあって、けっこう力がいる。

　その間に、猪豚のひき肉あんを準備してくれたようだ。これを、生地に包み込む。

　せっせ、せっせと包んだお団子は、さっと湯がく。湯にぷかぷか浮いてきたら、火が通った状態らしい。

　これを、鳥ガラと野菜で出汁を取った澄ましスープの中に投下する。

　スープの中には、根菜や葉野菜なども、一緒に煮込まれていた。

『飴南瓜の団子汁の完成です！』

「おおー！」

　鼠妖精の村の名物、『飴南瓜の団子汁』。とってもおいしそうだ。

　甘露芋もいい感じで焼けたらしい。ナイフで切り目を入れると、ホクホクに焼かれた甘露芋が。

　甘みを封じ込めて焼かれたからか、実から蜜が溢れてしっとり感があった。甘い匂いもふんわりと漂ってくる。

　鼠妖精から、どんぶりを借りた。彼らにとっては大きめの器だが、私達にとってはちょうどいい大きさの器である。

　それに、飴南瓜の団子汁を注いだ。

　アルブムが、シエル様を呼んできてくれる。出てきた瞬間、アリタが体を支えていた。

「食事を、作ってくれたのだな」

「はい。鼠妖精のみなさんと作りました。シエル様、もう、起き上がっても大丈夫なのですか？」

「ああ。まだ本調子ではないが、歩き回るのは平気だ」

「よかったです」

　みんなで一生懸命作った飴南瓜の団子汁と焼き甘露芋を食べて、元気になってほしい。

　まずはシエル様に、料理を渡す。

「これは、鼠妖精の村に伝わる、伝統的なスープみたいです」

「おお、なんて色鮮やかなスープなのか。ありがたく、いただくとしよう」

　まずは一口、スープを飲んでいた。

「むうっ！！　これは、なんて深い出汁が溶け込んでいるのか！？」

　続けて、飴南瓜を練り込んだ団子を食べる。

「もちもちで、ほんのり甘い生地の中身は、ひき肉あんか！　肉の旨味を引き立てるような味わいだ！」

　一口一口食べ進めるごとに、だんだんとシエル様の声に張りがでてくる。　

「うまいぞ！」

　シエル様がそう叫ぶと、鼠妖精達はキャッキャと喜んでいた。

　その様子は、あまりにも可愛すぎた。

　食後の甘味的な感じで、焼き甘露芋も食べてもらった。

「驚いた。これが、焼いただけの芋とは。ムースのようになめらかで、品のある甘さがある」

　シエル様は信じられないとばかりに呟き、そのままペロリと完食した。

「皆の者、感謝する！　おかげで、元気になったぞ！」

　鼠妖精の村の野菜と、伝統スープのおかげで、シエル様は完全復活となった。