Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
Lislis, I'm going to Zara's home! The Ten
両思いというのは、なんてすばらしいものなのか。
幸せな気持ちで、心が満たされる。
「昨日、レストランで、メルちゃんにこれを渡そうと思っていたの」
差し出されたのは、ベルベットのリボンで結ばれた精緻な細工が施された小箱だった。
「これは?」
「婚約指輪なの」
「え!?」
まさか、婚約指輪まで用意してくれていたなんて。
「雰囲気がいい場所で、ロマンチックに渡したかったんだけれど……」
強盗が押し入り、邪魔されてしまったのだ。
「なんていうか、計算して、そういうことをしようとしていたのが、よくなかったのかもしれないわ。今までも、そう」
以前、ザラさんは私に何度も告白しようとして、いろんな人に邪魔された、なんて話をしていた。
これに関しては、気付かなかった私も悪いのだけれど。
「さっき言えたのは、奇跡かもしれないわね。一緒においしいものを食べて、微笑んだときに、ずっと、メルちゃんと一緒にこうして過ごしたいと思ったのよね」
「私もです」
「ありがとう、メルちゃん」
いただいた婚約指輪を、拝見させていただく。リボンを解き、木箱の蓋を開いた。
「わ!」
納められていたのは、深い緑色の宝石があしらわれた指輪だ。
半円状に磨かれており、周囲を蔦飾りの銀細工が囲んである。
「きれい……です!」
「よかった。フォレ・エルフの森をイメージした指輪なの」
ザラさんも、お揃いで作ったらしい。
「とても、嬉しいです……!」
「私も、受け取ってくれて、とっても嬉しいわ」
ザラさんは私の手のひらから指輪を取り、左手の薬指にはめてくれた。
ぶかぶかだったが、宝石がきらりと光る。小さな魔法陣が浮かび上がり、ぴったりの寸法になった。
「わっ、これ、魔法の指輪なんですか?」
「ええ。リヒテンベルガー侯爵に、魔法の道具を売るお店を、紹介していただいたの」
「侯爵様に、ですか?」
意外な組み合わせである。
二人の仲は、正直よくなかったはずだが……。
「ええ。一応、メルちゃんに結婚を申し込んでもいいか、聞きに行ったのよ」
「そうだったのですね」
「過去のことは水に流して、仲良くしましょうと言ってきたわ」
「お、おお……」
たしか、アメリアを巡る騒ぎのときに、リヒテンベルガー侯爵はザラさんに喧嘩を売っていたのだ。
許してくれるなんて、ザラさんはなんて寛大なのか。
「人生、いろいろあるものよね」
「本当に」
あのとき、いけすかないおじさんだと思っていたリヒテンベルガー侯爵と養子縁組みを結び、親子になるなんて夢にも思っていなかった。
リーゼロッテだって、牢獄での出会いから、親友になれるなんて想像もしていなかっただろう。
さらに、ザラさんは私と結婚してくれるという。とんでもない奇跡である。
「ザラさん、これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
そんなわけで、私はザラさんと婚約を結んだのだった。
◇◇◇
それから、私とザラさんはいちゃいちゃすることなく、真面目に手仕事をしながら過ごす。
ザラさんはともかくとして、私は雪国に入る前にどうしても完成させたかったのだ。
到着する日の朝、やっと仕上げることができた。
「で、できたー!」
「メルちゃん、おめでとう」
「ありがとうございます」
達成感で、心が満たされる。そのままザラさんのほうに接近し、抱きつくふりをして首に巻いてあげた。
「――え!?」
「この襟巻き、ザラさんへの、贈り物だったんです」
「そうだったの!?」
ザラさんは襟巻きをもふもふと握り、触り心地を確認していた。
「ありがとう、メルちゃん。すごく、嬉しいわ」
「喜んでいただけて、嬉しいです」
ザラさんのこの笑顔を見るために、ここまで頑張っていたのだ。
間に合って、本当によかった。
自分は関係ないと、テーブルの上で横たわっているアルブムにも、襟巻きを巻いてあげた。
雪の中でも目立つように、黄色の毛糸で作ったのだ。
「これは、アルブムの分です」
『エ!? アルブムチャンノ分モ、アルノ?』
「ええ」
アルブムは姿見の前に走り、襟巻きを確認していた。
『エエエ~~!! カワイイジャン!!』
「メルちゃん、すごいわね。アルブムの分まで作っていたなんて」
「アルブムは、小さいですからね。わりと、すぐにできました」
アルブムは振り返り、目を細めながらお礼を言ってくれた。
『パンケーキノ娘ェ、アリガトウネエ』
「いえいえ」
アルブムだけではない。ニクスにも、毛糸で作った毛玉の飾りを作っていたのだ。
「これは、ニクスの分ですよ」
『わー、ありがとうねん』
アルブムと同じように姿見で見せてあげると、耳をピコピコ動かして喜んでいるように見えた。
「実は私も、これを、メルちゃんに作っていたの」
差し出されたのは、レースの肩掛けである。花模様が描かれていて、見ているだけでうっとりしてしまいそうだ。
「これを、私に?」
「ええ。外套の上にかけていたら、可愛いと思って」
「いいのですか!?」
「ええ。受け取ってくれたら、嬉しいわ」
「ありがとうございます」
さっそく、肩にかけてみる。ザラさんは、「さすが、私のメルちゃん。世界一可愛いわ」と言ってくれた。