Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
Lislis, I'm going to Zara's home! That twenty.
山猫の赤ちゃんのお世話は、ザラさんのお母さんがしてくれると。申し訳ないと思ったが、山猫が大好きなようで「任せて!」と胸をドン! と打っていた。
ブランシュも、子猫のときはザラさんのお母さんがお世話をしていたらしい。慣れているというので、ザラさんの「甘えましょう」という言葉もあり、お願いした。
それから、私は勧められるがまま、お酒を飲んだ。
正直お酒は強いほうではなかったが、雪国名物のベリー酒が驚くほどおいしかったのだ。
ザラさんのお父さんがどんどんカップに注ぐので、ごくごく飲んでしまった。
初めは「がはは!」と豪快に笑っていたお父さんだったが、お酒が深くなるにつれて涙ぐむ。
ザラさんの幼少期の話をするときには、ポロポロ涙を流していた。
「ザラはなあ、怖い姉ちゃん達に虐げられてなあ、主張の一つもまともにできないような、大人しい子に育ってしまったんだよお!! 俺も、注意はしていたんだが、姉ちゃん共は怖くてなあ!」
父親に恐れられる、お姉さん達とはいったい。
「都会にいって好きな娘ができても、結局言い出せないんじゃないかって、思っていたんだよお。でも、よかったなあ! こんな、可愛くて、優しくて、可愛い娘と、結婚できるんだから」
「そうなの!! メルちゃんみたいな、可愛くて、優しくて、可愛い娘が結婚してくれるなんて、奇跡なのよ!!」
ザラさんも、ポロポロ涙を流している。なんなんだ、この親子は。
可愛いも二回言っているし。
お母さんは部屋の端で、山猫の赤ちゃんのお世話を笑顔でしているし。
アルブムは、料理をまだ食べているし。
みんな、自由だ。
「ほら、メルさん、もっと飲んで」
「父さん、止めて。メルちゃんに、あんまりお酒を飲ませないで」
「むうううう」
こんな感じで、楽しい夜を過ごした。
――朝、カーテンの隙間から、太陽の光がこれでもかと目元に差し込む。
「ん、眩しい」
なんだか片方の耳だけ暖かいと思っていたら、アルブムが私の耳を枕にして眠っていた。
どこで眠っているのか。指先で弾く。
もう片方の耳には、絹みたいななめらかな手触りのものが触れている。いったい、なんなのか。
触れてみたら、思った通りサラサラだ。
「サラサラ!?」
慌てて起き上がり、隣を見る。
ザラさんが、背中を向けてスヤスヤと眠っていた。
「うっわ!!」
驚きすぎて、寝台から転げ落ちてしまった。
どたん! と大きな音を立てたからか、ザラさんのお母さんがやってくる。
「どうかしたの?」
「あ、す、すみません……。その、おはようございます」
「おはようって、メルさん!?」
「えっと、はい……」
昨日の就寝前の記憶がまったくなかった。
なぜ、私はザラさんの隣でアルブムと一緒に眠っていたのか。
「あの、私、昨晩、酔い潰れていました?」
「酔い潰れていたというより、疲れ果てて眠っていた感じだったわ」
「お恥ずかしい限りで」
「いいのよ。だって、うちの人が、つまらない自分の幼少期の話をしていたんだもの。旅疲れもあったし、我慢も限界よね」
「は、はあ」
まったく記憶になかった。
「眠ったメルさんを、ザラが抱きかかえて連れて行ったの。てっきり客間に連れて行ったと思っていたら、自分の部屋に連れ帰っていたなんて。ごめんなさいねえ」
「い、いえ……」
優しいお母さんは、お風呂を勧めてくれた。そういえば、入っていない。
「ゆっくりお湯に浸かったら、すっきりするから」
「ありがとうございます」
森の薬草を煎じて作った、薬草湯らしい。なんだか良い匂いがして、癒やされる。
さっぱりしたところで、玄関先が賑やかなことに気づいた。
誰かお客さんだろうか。
「母さん、ねえ、ザラの彼女はどこにいるの!?」
「早く見せてちょうだい!」
「どんな子なの!?」
「ちょっと待ちなさい。一気に押しかけたら、メルさんが驚くでしょう」
会話から、なんとなくザラさんのお姉さん達かな、と察する。
ひょっこり顔を覗かせると、背の高い迫力系美人なお姉さんが三人並んでいた。
「ねえ、いたわ!!」
「嘘でしょう!? 森のリスみたいな子よ!!」
「やだ、フォレ・エルフじゃない!!」
ザラさんのお姉さんらしき女性達は、ズンズン接近し、キラキラした瞳で私を見る。
「可愛いわ!」
「すごく可愛い!」
「可愛いわね!」
口々に言って、私をぎゅーっと抱きしめる。
なんだか、以前にもこんなことがあったような……?
アレだ。ザラさんと王都のレストランで初めて会ったときだ。
ザラさんも、私を一目見て「可愛い!」と言って抱きしめたのだ。
今思えば、あのときのザラさんは、明るいお姉さん達の言動や行動を真似して、接客に努めていたのかもしれない。
「ねえ、ちょっと待って!!!!」
ザラさんの叫びが聞こえる。
「姉さん達、メルちゃんに近づかないでちょうだい!!」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「こんな可愛い子を、独り占めしないでちょうだい」
「そうよ、そうよ」
ザラさんはお姉さん達を一人一人引き離す。
すると、お姉さん達は怒るどころか、けらけらと笑い始めた。
「やだ、ザラ、すっぴんじゃない!」
「あはは、うける!」
「ちょっと、久しぶりに見たわ」
ザラさんのすっぴんとは……!? 見ていいものか、悪いものか。
そう思っていたら、ザラさんが私のほうへと回り込んでくる。
「へ!?」
ザラさんのすっぴんを見て、驚いた。
なんていうか――化粧しているときよりも、迫力のある美人なんですけれどー!!
いったい、どうなっているのか。普段のザラさんの化粧は、意味があるものなのか。
そもそもザラさんの美意識とはいったい? と、頭を抱え込んでしまった。