Rice for Enoch’s Second Expeditionary Unit
If you have any troubles, leave it to Sura!
スラちゃんは日課である散歩をしていると、眉間に皺を寄せ、腕組むベルリーを発見した。
あの表情は、何か悩んでいるように見える。
スススと接近し、ベルリーの近くにあった木によじ登って肩を叩いた。
「ああ、スラか。驚いた」
スラちゃんは身振り手振りで、ベルリーに話しかける。
腕を組み、首を傾げる動作をしたあと、指先をくいくいと動かし、耳を傾けた。
「何か悩みがあるのならば、聞かせてほしい、と?」
スラちゃんは手を高く掲げ、丸の形にする。
「そんなにわかりやすく、悩んでいるように見えたか?」
スラちゃんはこくこくと頷いた。
ベルリーはスラちゃんに手を差し伸べる。乗れ、と言いたいのだろう。
スラちゃんはベルリーの手にちょこんと乗り、悩みを聞いてあげることにした。
「実は、先日ザラとリスリス衛生兵が婚約したという話を聞いたのだが、何か、祝いの品を用意しようと思い、街へ買い物に行ったんだ」
雑貨店に輸入商、アンティークショップなど、さまざまな店を回ったのだが、これといった品を発見できなかったのだ。
「ザラとリスリス衛生兵は、何を喜ぶのかまったくわからなかったのだ」
選んだ品はもしかしたら持っているかもしれない。持っていなかったとしても、柄や形は趣味がある。ベルリーが選んだ物を気に入るとは思えなかったのだという。
悩みを聞いたスラちゃんは、自らの胸をどん! と拳で打つ。
「もしや、買い物を手伝ってくれるというのか?」
スラちゃんに任せなさいとばかりに頷き、強い瞳をベルリーに向けていた。
◇◇◇
終業後、ベルリーとスラは街に繰り出し、ザラとメルへ贈るプレゼントを選ぶ。
そこは、いつも通りかかるが可愛らしい外観だったので、ベルリー一人では入れなかった店であった。
店内には、パステルカラーの可愛らしい雑貨が並んでいる。年若い娘向けの商品ばかりで、場違いなのではないかとベルリーは恥ずかしくなる。
「いらっしゃいませ」
二十歳前後の店員が、笑顔で話しかけてくる。ますます、いたたまれない気持ちになってしまった。
「本日は、どういった品をお求めでしょうか?」
「その、婚約祝いを、と思って」
「まあ! そうなのですね! お二人は、どんなご趣味をお持ちなのでしょうか?」
ザラとメルが好きなもの。
「確か、フリルやレースなどの可愛い品を集めたり、作ったり、それから、雑貨屋巡りに……あとは、何があったか」
スラちゃんは挙手し、手先にフライパンを作って炒めるような動作を取る。
「ああ、そうだな。あの二人は、料理が趣味だ」
「でしたら、こちらはどうでしょうか?」
店員が持ってきたのは、縁にレース模様があしらわれた、黄色い鍋である。
「黄色は幸せを運んでくるお色で、婚約祝いにぴったりかと。いかがでしょうか?」
「いいな」
スラちゃんのアドバイスで、鍋の中にさまざまな雑貨を入れて贈ることにした。
「生活必需品がいいな。石鹸に、タオルに……」
店内を歩き回りながら、スラちゃんと商品を吟味する。
鍋にたくさんの雑貨を詰めて、包装してもらった。
満足のいく買い物ができて、ホクホク気分となった。
騎士舎に戻ると、スラちゃんはガルのもとへと戻った。
「ガル、すまなかったな。スラを借りて」
ガルはとんでもないとばかりに、首を横に振っていた。
スラちゃんと別れたあと、ふと思う。
一人でできないことは、誰かを頼ればいいのだな、と。
スラちゃんと一緒に買い物に行き、店員と話しながら品物を探したら、満足のいく贈り物を選べた。
きっと、ザラとメルは喜んでくれるだろう。
◇◇◇
一週間後、ベルリーはザラとメルの自宅を訪ねた。
二人は笑顔で、ベルリーを迎えてくれた。
「ベルリー副隊長、このクッキー、ザラさんと作ったんです」
「自信作なの」
スラちゃんの言っていた通り、ザラとメルは休みが合えば揃って料理を楽しんでいるらしい。
さっそく、スラちゃんと選んだ贈り物を手渡す。
「これは、婚約祝いだ」
「わー、ありがとうございます」
「わざわざ、持ってきてくれたのね」
「ああ。二人一緒のときに、渡したくて」
ザラは別部隊だったので、職場でメルと揃う日はほぼない。
そのため、家に訪問することとなったのだ。
ザラとメルは贈り物の包みを開封する。鍋が出てきた瞬間、笑顔になった。
「わあ! 黄色くて、可愛いお鍋です」
「こんな明るい色の鍋があるのね!」
雑貨屋の店員は、異国から仕入れた新商品だと話していた。どうやら、珍しい品のようだ。
「これを使ったら、ますます料理が楽しくなりそうですね」
「ええ、そうに違いないわ。アンナ、ありがとう」
鍋の中にある品物も、喜んでくれたようだった。
ホッと胸をなで下ろす、ベルリーであった。