Saikyou Juzoku Tensei ~Cheat Majutsushi no Slow Life~

Eleven Tales Phage Territory Three Major Weapons ②

『以上が……リーヴァイの槍の、必中魔法陣の解析結果である……』

俺はラルク邸の離れにある倉庫にて、ゾロモニアからリーヴァイの槍の運命歪曲の魔法陣の解析結果を受け取っていた。

俺はぐったりと床に横たわり息を荒げるゾロモニアの横で、オーテムを椅子にして渡された資料を受け取っていた。

俺は資料を見ていて、思わず「おぉ、凄いじゃん」と感嘆の声を漏らした。

正直、俺はゾロモニアにここまで期待はしていなかったのだ。

「ゾロモニアって実は結構頭いいよな」

『……ひょっとしてそち、妾が知恵の大悪魔と恐れられていたことを忘れておらんか?』

ペテロの金で、好き放題に全世界中から希少な魔導書を買い漁ってもらったのがよかったのかもしれない。

この調子ならば、リーヴァイの槍の運命歪曲の魔法陣を完全にものにすることができる日も、そう遠くはないはずだ。

俺は資料を読み終える。

ゾロモニアが、チラチラと俺の反応を窺っていた。

少し長い間ここに押し込み過ぎたかもしれない。そろそろ外に出たいのだろう。

「で……この資料はどうやら途中までの様だが、続きは?」

『うん?』

ゾロモニアが硬直した後、身体を起き上がらせてその場に立ち上がり、俺を非難する様に指を差した。

『こっ、ここより先は、現状の資料からは知りようもない! 元々この魔法陣は、妾がリーヴァイ教の神殿で見つけたものでろう! リーヴァイ教の神殿に行けば何かしら追加の情報が得られるかもしれぬが、現時点では、ここが限界である!』

「ええ……そう? ここまで来たら、こう、一応の結論みたいなの出ない? 時間はいくらでもあっただろ?」

概ね外枠は埋まっている。

後は考察とトライアンドエラーでどうにかできるところまで来ているはずだと、俺としては思うのだが……。

ゾロモニアには一応、リーヴァイの槍をちょっと削った粉だってサンプルとして渡しているのだ。

『むっ、無理なものは、無理である! リーヴァラス教国の教皇と繋がりがあるのであろう? そこから探り直せばよいではないか! とにかく、無理である!』

「下手にサーテリアに貸し作るのは止めてくれって、ペテロがうるさくてな……。いや、ここまで来たら多分できると思うぞ。もうちょっとだけ頑張ってみてくれないか?」

『嫌である、こんな狭い部屋で魔導書漬けなど、もう限界である!』

終いには地面に寝転がって駄々をこね始めた。

「だがゾロモニア、お前は以前こんなことを言っていなかったか?」

『むう?』

俺はゾロモニアと出会った、悪魔の杖騒動の一件を思い返す。

『強き魔術師に仕え、世に変革を齎すことこそが妾の喜び! それが達成できるのならば、妾の封印などさしたる問題ではない』

そう、あのときゾロモニアは、確かにこう言っていたはずなのだ。

「……だから杖への封印に比べたら、倉庫に閉じ込められるくらいなんてことでもなくないか? それにほら、一番大事な目的も果たせている。何の問題があるんだ?」

『嫌なものは嫌なのだ! 身体が自由か否かという問題ではない! もっと妾に構うのだ! かつては妾は、どこに行ってもちょっと知識を出し惜しみしていただけで神様扱いであったというのに、アベルは淡白すぎる! 倉庫にぶち込んで魔導書だけ読ませておこうなどと言い始める輩は、幾千年生きて来た妾にとっても初めてであるぞ!』

実際、一番有効な活用方法だったので仕方がない。

俺は資料へと目を落とす。

しかし、リーヴァイの槍の魔法陣の解析は大分進んでいることに間違いはない。

ゾロモニアがお手上げだというのならば、ここから先は俺が直接やった方がいいかもしれない。

「……わかった、よくやってくれた。後は、実際に槍を所有している俺が解析を行おう。ゾロモニアも、倉庫の中からは出してやる」

『ほっ、本当か!? 本当であるな!?』

ゾロモニアが跳ね起きて俺の目を見る。

俺は大きく頷いた。

「ああ、これ以上は魔導書倉庫に閉じ込めておく意義はあまりないからな。槍の解析については、俺も本当に感謝している」

『む……? そち、本当にアベルか? 今日は随分と優しいことではないか。これはこれで、少し調子が狂うというか……物足りないというか……』

ゾロモニアがどこか気落ちした表情で答える。

この悪魔は俺をなんだと思っているんだ。

しかし、データを見ているだけで、思わず顔がニヤけてくる。

運命歪曲を解析してリーヴァイの槍の扱いに応用が利く様になれば、かなり悪いことができる。

木偶竜ケツァルコアトルと組み合わせて使えば、クゥドルでさえも相手取れるかもしれない……いや、かなり現実的なところまで来ているといっていいだろう。

――二日後、運命歪曲の魔術式の魔改造を行った俺は、試験のためにメアを連れ、ファージ領の離れへと馬車で向かっていた。

もう少し村の近くでやってもよかったのだが、領民がパニックになる上にペテロも色々と煩そうだったので、リーヴァラス教国との国境に近い、海岸で行うことにした。

「お客さん、随分とコソコソしてたみたいだけど、また何か妙なことするの?」

御者台に座るエリアが、無表情で俺とメアを振り返る。

「妙なことじゃありませんよ、必要な実験です」

「そうですよ! アベルは、国の命運を託されているんですから!」

なぜかメアが得意気に答える。

「そう……私は、どっちでもいいんだけど……そっちの呪具も、実験に必要なものなの?」

「いえ、これは実験に必要だったものです」

馬車に積まれている青いオーテムが、奇妙な踊りに興じている。

恐らく、中に封印しておいたゾロモニアが、激しく身体を揺さぶって暴れているのだろう。

全体的にゾロモニアをモチーフにしたデザインにしておいてやったのだが、何か気に食わなかったのだろうか?

『当たり前であろうが! 妾を、妾を本当に何だと思っておるのだ!』

ゾロモニアの童女の姿が、オーテムの横へと浮かび上がる。

これは大杖のときにも使っていた化身であって、本体ではない。

正確に言うのならば、ゾロモニアが魔法によって、大気中の精霊から簡易的に姿を構築したものだ。

一度でもオーテムに直接触らなければゾロモニアの姿が見えないため、エリアからは何も見えていない。

俺は別にどうでもよかったのだが、ペテロが、危ないからそのまま倉庫に押し込むかどこかに封印しておいてほしいと頼んできたのだ。

なのでオーテムに封印しておいた。

マーレン族は元々、こういうオーテムを介した精霊に関する儀式的な魔術が主流なのだ。

海岸に着いた俺は、土の巨大な腕を造り出し、リーヴァイの槍を呼び出して握らせた。

俺の横には、メア、エリア、そしてゾロモニアオーテムが並んでいる。

オーテムの上にはゾロモニアが不貞腐れた表情で座っていた。

『アベルよ、魔法陣を改造して何の性能を足したというのだ? 結局ある程度弄ったとしても、あまり大きな昇華は持たせられそうにないと、妾は早々から指摘していたと思うのだが……』

「まぁ、見てろって。それっ!」

巨大な土の腕を振るい、海面に向けて勢いよく槍を投擲させる。

巨大な槍が、海面を抉り、山の如く巨大な飛沫を上げる。

ギリギリ目視できる程度のかなり遠くへやったのだが、それでも海岸まで飛沫が雨の様に掛かってきた。

俺は構えていた杖をそのままに、六つの巨大な魔法陣を展開する。

「ভাগ্য(運命)নড়ন(歪曲)!」

槍の姿がブレ、間隔を開けて三本の槍が現れ、海に巨大な三本の柱を突き立てた。

轟音と共に海水が舞い、海岸まで激しい雨が降り注ぐ。

すぐに三本の槍の姿がブレて、一本に戻る。

「よし……上手く行った……!」

俺が満足げに頷く横で、エリア、ゾロモニアが、呆然と口を開けて海面を眺めていた。

簡単に説明するのならば、『運命歪曲』が事象の改変保存ならば、俺の応用技は事象の改変重複保存である。

通常の『運命歪曲』が槍が当たる様に事象を改変するものだとすれば、こちらは槍が当たる様に改変した事象を複数通り用意し、それを同時に実現することができるのだ。

もっとも槍が実際に増えたわけではなく、あくまで同時に三か所に存在するよう空間を歪めているだけである。

その分の空間を歪め続ける魔力は使用者持ちとなるため、増えた槍はすぐに消し去らなければ、俺でも魔力切れでバテてしまう。

この魔術を使えば、クゥドルの身体に同時に三か所の槍をぶっ刺し、風通しのいい身体にしてやることだって可能なはずだ。

木偶竜ケツァルコアトルで安全な間合いから神火球を連射しつつ、このリーヴァイの槍の応用技で、常時身体を三か所……いや、四か所同時に攻撃し続ければ、如何にクゥドルとて無事ではいられないだろう。

いや、それだけじゃない。

リーヴァイの槍の事象改変能力は、まだまだ悪用できる余地がある。

ゾロモニアが口を閉じて目を細め、神妙な顔で俺を睨む。

『……アベルよ、そちは、神にでもなるつもりか? この槍の魔法陣は、リーヴァイが全盛期に編み出したものであり、妾もあれ以上複雑な魔術など、一切目にしたことがない。これは流石に……世の理を、超えておるぞ。妾も知恵と破滅の悪魔など呼ばれてきたが、それでも、だからこそ言わせてもらう。この魔術は、多用すべきものではない』

わかってはいる。

だが、クゥドルは最悪の場合、メアを殺すことを選択肢として残している。

ならば俺も、クゥドルを殺す手段を用意しておかねばならない。

そうでなくとも、ジュレム伯爵自体、底が知れない魔人なのだ。

どこまで用意しておけば安全、といったものは存在しない。

俺にメアをむざむざ死なせる選択肢はない。

そっちをクゥドルが取るならば、全力で抗わせてもらうだけだ。

俺はちらりと、メアへ目を向けた。

「凄い! 槍が増えましたよ! 槍が! よくわからないけど、アベル凄い!」

メアが無邪気にきゃっきゃと燥いでいる。

「ああ、そうだろ?」

俺は胸を張って答える。

『……そち、ちょっと大物が過ぎぬか?』

……なお、槍の魔術については、俺が自慢げにアルタミアに話したところ、錬金術師団に触れ回られ、しっかりとペテロの耳にまで届くことになった。

木偶竜ケツァルコアトルのときには怒っていたペテロだったが、今回は声を上げて泣きつかれ、『その魔術は絶対に使わないでちょうだい! できればメモを焼き払って一片たりとも情報を残さないで!』とまで懇願された。

正直、もう王家から反乱を疑われるだとか、国際問題に発展しかねないだのの次元を超えてしまった気がするので、もうどうでもいいと思うのだが、ダメなのだろうか?

大のオカマがみっともないので止めてほしいと思ったが、当然口には出さなかった。

俺は表面上適当に謝りつつも、腹の中ではリーヴァイの槍を溶かして変形させたり複製できないかどうか、アルタミアの口をどうやったら塞げるかを考えていた。