Self-proclaimed! An Ordinary Demonic Hero’s life ~ The Result of Creating a Cheat Dungeon Despite Being a B-class Demon

Episode 24: The name of the game of killing a stick or searching for treasures in a sand pile varies widely

森林地帯は四層から七層まで続いた。

ただ、階層が進んでも特段、変化はなく。足場の悪さと、毒持ちモンスターに気を付ければいいだけのフロアだったので、比較的苦労することなく俺達は七層までをクリアした。

そして今、八層に着地した訳なのだけれども、

「森林地帯のあとは砂漠かあ。真逆な環境に来たなあ」

緑豊かな景色は一変した。

そこは黄色と茶色が混じる砂と砂山、ゴロゴロとした白い巨岩、そして眩いばかりの陽ざしが目に入る土地だった、

「ここが八階層で合っているんだよな、ミスラ」

「うん。ここと九階層が砂漠地帯で……前回ボクたちが倒れた場所だよ」

ミスラの表情はいつになく厳しいものになっていた。

先日のようなボロボロになった状態で倒れたのがここであるのだから、当然と言えば当然なのだが。

「……って、そういえば、ミスラたちはこの覇竜のダンジョンの中で倒れたんだよな?」

「そうだよ。完全に意識を失っちゃってたね」

「どうやってこのダンジョンから脱出したんだ?」

このダンジョンは二十歳の者しか入れないのだ。

リザさんは当然入れないし、教授だって無理だ。

救助に入れる人も限られているだろうに、何をどうして、ここから出られたんだろう。

そう尋ねると、ミスラは地面を指さして、

「このダンジョンはね。転送ポイントの仕組みを応用しているのか、床に十分以上倒れ続けると強制的にダンジョンの外に排出されるんだ」

「え、そんなルールがあるのか」

「うん。始祖の天竜王の報告書にも書いてあるんだ。だから十分以上このダンジョンで眠ったり横になって休んだりすることは出来ないんだ、ともね」

「あー……本来は長時間の休息を封じるための仕組みなのか。厳しいなこのダンジョン」

ちょっと疲れたから横になって休もう、なんていう事が出来ないのは中々辛い。

ただ、その厳しさを利用することで、脱出装置代わりに使えるのであれば、良い事なのかもしれないけれども。

「というか、つまりミスラたちはこの砂漠地帯で十分以上ぶっ倒れる何かを味わったって事だけど、一体何があったんだ?」

その問いかけに、ミスラは再び足元を指さした。

「えっと……この地面に何かやられたのか?」

「違うんだ。砂地の下に転送ポイントが埋まっているんだよ。黒色をした大きな岩に張り付けたような状態でね。ここのフロアを突破するには、それを探し出す必要があるんだ。この炎天下の中、広大な砂漠の中を掘り続けて、ね」

ふう、とミスラは額に浮かんだ汗を手でぬぐいながら言う。

「あー……それで体力を消耗して、ぶっ倒れた、と?」

「そうだね。前回はクロノ君たちもいなかったから体力の温存なんてできなかったし、そもそもゴーレムやモンスターたちに傷を付けられていたから、さ。この砂漠にもモンスターはうろちょろしているだろう?」

ミスラが周囲を見ながら言うように、この砂漠にはモンスターの姿が多い。

今は襲い掛かって来る奴らは俺や、超特進クラスのメンバーで追い払う事が出来ているからマシだろうが、

……もしもミスラたち二人でやったら、とんでもない疲労をするし、時間もかかるよな……。

この覇竜のダンジョンの特徴的な所ともいえるが、頭数がいればある程度楽にクリアできる場所が多い気がする。

つまり、逆に言えば、

……ここは頭数がいない状態で挑むと、いくら天竜が二人でも、最下層にすら辿りつけないダンジョン、なんだな。

いつも俺達が入っている魔王のダンジョンとはまた趣が違う感じがした。

魔王のダンジョンはあれでもヒトが住んでいた場所で、ある程度の生活の痕はあったし、なにより一人で挑んでもそこまで疲れないような構造になっている。

しかしこの覇竜のダンジョンは、個人で攻略させる気なんて更々ないと言わんばかりの造りだ。

思い違いかも知れないが、何となく意図的な物を感じてしまうなあ、と顎に手を当てて砂漠の風景を見ていると、

「ふう……やっぱりここは、森林地帯以上にきつい環境だけど、頑張って掘ろうかな」

俺の隣を歩くミスラは額に浮かんだ汗を拭いながら地面に手を当てる。そして、

「来たれ《水竜の波動》……!」

彼女の手から、水が発射され、砂の地面を削り取っていく。

ただ、砂地故に、放たれた水は数メートルを削った後、砂に吸収されるようにして消えた。

「へえ、そうやって砂地を削って見つけていたのか」

「うん、魔法一発で数メートル分しか掘れないのは辛いけどね。でも、転送ポイントはある程度の大きさがある岩だから。この水なり衝撃波なりが掠る位置にあれば、それでいいからね」

「なるほど……衝撃波、か……」

ミスラの言葉で、俺はなんとなくひらめいたことがあった。

「つまり、この砂地を出来るだけ広範囲で吹き飛ばせば、見つけやすいんだよな」

「うん、そうだけど……何か方法があるの?」

「ああ、一応な。砂の中に隠れているってことは、要するに山崩しの要領で出せばいいって思ったんだよ」

「山崩しって……あの、砂の山に棒を立てて、棒を倒さないようにする遊び?」

「そうそう。まあ、俺の故郷では少しだけやり方が違うんだけどな」

言いながら俺は周囲に転がっている白い岩に目を付ける。

やや風化したような色合いの石は、どれも数メートル単位の大きさがあった。

「手ごろな凹凸があるのがいいんだが……ああ、この岩でいいや。これに鎖を巻き付けてっと……」

俺はそんな白い岩に支配の鎖を巻き付けていく。

出来るだけ凹凸があり、引っ掛かりの良い岩を二つほど鎖で縛った後、

「あの、クロノ君。それで、何をするつもり?」

「だから、山崩しだよ。――ってことで、前からちょっと退いていてくれよー」

俺は言いながら、鎖を肩に担ぐ。そして―― 

「――とりゃあ!」

鎖が巻き付いた岩を、身体を回転させながら前方の砂山に向けて放った。

瞬間、岩は前方に突き進み、その勢いで豪風が生まれた。

鎖付きの岩は周辺の砂を巻き上げ、吹き飛ばしながら突き進み、やがて、

――ドバッ。

という、軽快な音を立てて砂山に激突し、吹っ飛ばした。

結果、俺と砂山の間に在った砂は大分削り取られており、前方に合った砂山は激突の衝撃でほぼ無くなっていた。

そして出来上がった砂の抉れ跡に、僅かに黒い突起が飛び出しているのが分かった。

「お、黒い岩ってことは、もしや……。二投目を放る前に見つかったかな」

俺はその黒い突起に駆け寄り、周辺の砂を鎖で軽く散らす。

その上で黒岩に触れると、ふわっとした光が、砂地に魔法陣を描いた。

どうやら正解だったようだ。

「おー、本当に砂山に埋まってるんだな。ってなわけで、皆。転送用の魔法陣、出てきたぞー!」

声を上げて結果を報告すると、皆はこっちに集まって来る。

これで砂漠階層もどうにか突破出来そうだ。思いついた策が上手い事行って良かったなあ、と思っていると、

「あの、クロノ君?」

一番近くにいたミスラが、疑問符で頭をいっぱいにしたような表情で俺に声を掛けてきた。

「どうした、ミスラ。何だか瞬きが多いけど、砂でも目に入ったか。だとしたら派手に砂を巻き上げちまってすまんな」

「いや、それは大丈夫だし、派手に砂を巻き上げても魔法陣の張り付いた岩が見つかったからそれも良いんだけど。……えっと、さっきのが山崩し、なの? 何か、クロノ君、勘違いをしてない、よね?」

「勘違いはしてないつもりなんだが……。ああ、でも、やっぱりあのやり方はウチの村のローカルルールだったのかもしれないな」

田舎で遊びが少なくて、普通の棒倒しでは直ぐに終わってしまう。

その事に対して不満を言っていた俺に対して、近所の爺さんが考えてくれたルールの山崩しこそ、先ほどやった行動なのだけれども。

「ローカルルール? というか、どんな風にしてクロノ君は山崩しを遊んでいたのさ」

「いや、基本的に普通だぞ。ただ、棒を倒さないようにするだけじゃ短時間で終わっちゃって勿体ないから、色々なアイテムを、五十メートルくらいの砂と土の山で埋めた状態にしてくれてな。俺が棒なり石なりを投げて、砂と土を弾き飛ばして探すっていうルールでやっていたんだよ」

「五十メートルくらいの山……? 砂と土で、作られた?」

「おう、そうだぞ」

それなりに大きな砂山だが、勢いよく砂を取ると、アイテムを傷つける事がある。

だから壊さない程度の力加減とかも必要で、中々楽しかった記憶があるなあ、と思っていたら、

「うん、あのね。それ、ボクが知っている山崩しと違うね。本当に文字通り山を崩しているようなものだね」

そんな風にミスラが、疲れたように言ってきた。更にはそんな彼女の肩に、ポンと同級生の手が置かれた。

「ミスラルト。気持ちは分かるわ。うん、クロノに対しては大体そうなるからね」 

「そ、そうなんだ……皆、こうなっているんだね……」

「大体その辺りは皆平等に思う事だから仕方ないさ、ミスラルトさん。ただ、クロノはすげえなあとも思うけれどさ」

「そうね。相変わらずというか、鍛えれば鍛えるほど遠く見えるわ。だからこそ頑張りがいがあるって考えられるんだけれどね」

なにやら同級生たちとミスラは意気投合しているようだった。

数日前と比べたら距離感の詰め方が全然違うというか、かなり近しいモノになったと思う。

話題が何故か俺なのが微妙に気になるけれども。

「うん。よく分からんが、皆のやる気に繋がって、その上仲良くなる事が出来ているなら良いかな」

「く、クロノさんは、そういう所、さっぱりしてますよねえ……」

そんな風に喋りながら俺達は、ミスラとアリアのトラウマ階層である八層の砂漠地帯を抜けるのであった。