ミスラはアリアと共に、広い円形の部屋で戦っていた。

相手は目の前にいる、炎の翼をもつ巨大な怪鳥だ。そいつは、こちらを楽しそうな物を見る目で眺めながら声を上げてくる。

「はは、天竜の子孫よ。よくぞ妾の前まで――このフェニックスキメラの前までやって来たものだが、ここまでだ。妾はこのダンジョンの最奥を護らねばならん。攻略させるわけにはいかんのでな。倒させて貰う」

フェニックスキメラと自信満々に名を告げてきた巨大な怪鳥は、その翼でこちらを打ち払おうとしてくる。先ほどから繰り返されている攻撃の一つだ。

「まさか、ボクたちがアタリを引くとはね。ある意味皆に迷惑を掛けなくて良かったけれど……」

「ええ、強いわね。この鳥の化け物は!」

ここに転送されるなり、いきなり目の前にいた怪鳥は、笑いながら炎の翼で襲い掛かって来たのだ。

一振りごとに高熱の火の粉が舞い、それだけでこちらの肌が焼けてくるような威力をしていた。だから、

「《水竜の水弾》……!」 

距離を取りながらミスラは水の弾丸を、フェニックスキメラに向けてはなっていた。けれど、

「そのような水鉄砲では効かんぞ、天竜の子孫よ」

まるで効果が無い。

炎の熱の前に蒸発しきってしまうだけだ。その上、

「《火竜の大杭》――って、これも駄目ね!!」

アリアによる炎の魔法も、火力の差があるのか打ち消されてしまう。 

……さて、どうしようかな。

目の前の炎の鳥は、明らかに強かった。正直、どうやって勝てばいいのか、考えるだけでも難しい。

モンスターは、体のどこかにあるコアを砕けばいいのだが、それがどこにあるのかさえもつかめないのだ。

ただ、それでも攻撃を続けていれば、いずれ弱点であるコアの位置を庇う動きをするだろう。そう思って、ミスラはアリアと共に、距離を取り様子見に徹していたのだが、

「ふうむ、持久戦もいいのだが。そんな事では、共にきたあの青年たちは解放されぬぞ?」

フェニックスキメラはそんな事をこちらに言ってきた。

「共に来た青年たち……? どういうこと、だ?」

「言葉通りじゃよ。ほうれ、見よ」

フェニックスキメラは翼を掲げて、透明な水晶で出来ているようような天井を仰いだ。

すると、その水晶は、映像を映し出した。

白い岩石の中で、膝をついている同級生たちの姿を。

「なっ……この映像は一体……」

「皆、妾の檻に閉じ込められておるんじゃよ。ここ以外に転送された者は自動的に入る様になっておってな。徐々にその力を吸い取る、出口のない、脱出不可能な監獄じゃよ」

「力を吸い取る……だって?」

「うむ、転送装置の応用で、力だけをこちらに転送しておるんじゃ。まあ、その間、退屈しないように、この大広間の映像も彼らに見せて上げておるのじゃがな」

かか、とフェニックスキメラは笑う。

「さあ、どうする天竜の子孫らよ。。我が身が可愛ければ、このまま様子見を続けるのも良いと思うぞ。地味に~捕まってしまった彼らを助け出したければ戦った方が良いと思うがの」

かかっと再びあざ笑いながら放たれた言葉。ただ、そのあざ笑いは自分たちだけではなく、ここまで協力してくれた仲間達にも向けられているように感じた。だから、

「言われなくても――!」

「――戦うわよ! 皆を離しなさい!」

瞬間、ミスラとアリアは同時に攻撃を開始した。

……先ほどまでの攻撃で、もう様子見は大分済んでいるのだから……!

フェニックスキメラという大型の鳥型モンスターの全身を攻撃して見て、やけに回避行動が早かったのは頭部付近を攻撃した時だった。

故にそこを今回も狙って氷の弾丸を放った。

アリアも自分と同じだ。

首から上を狙って、炎を纏った腕で飛び掛かっている。 

「かっかっか。殺気が籠った良い狙いだ。正解だ。妾のコアは頭部にあるのでな。が……まだ駄目じゃなあ。――《流動化》」

フェニックスキメラはそんな言葉を吐いた瞬間、その身体をどろりと、溶かした。

それだけで氷の弾丸は首元を突き抜けた。

「なっ!?」

「それでは通らん」

「身体を、液状にしたの……って、あつッ!?」

更に、アリアも首元に炎を纏った腕をぶち込んだが、手ごたえはなさそうだった。そればかりか、その手は火傷したかのように赤く染まっていた。

「アリア!?」

「気を付けて、ミスラ。こいつの体、十一階で見たお湯と同じ液体になっているわ!」

「なんだって……!?」

「おや、見抜くのが早いな。ならば、それで攻撃をしてやろう」

自分たちの攻撃が通じず、僅かに戸惑った瞬間、フェニックスキメラの身体が大きく回転した。その動きに合わせて、鳥の羽の形をした液体が周辺の舞い散ってくる。

慌てて、それを魔法で防護しようとしたが、

「こ、この熱湯は……やはり十一階層の魔法防護を貫通して来るモノ……!!」

魔力で作った防護を乗り越えてきた。

慌てて体を引いたものの、遅かった。

自分の肩に、鳥の羽が降りかかる。

掛かった瞬間、

「っ……!」

皮膚が引きつるような、激痛がした。 

「おや、微妙にかわしたか。おしいな」

それを見て、フェニックスキメラは再度攻撃に入ろうとするが、

「待ちなさい! 液体なら私の炎で全部蒸発させてやるわ!」

そんな怪鳥の背後から、再びアリアが飛び掛かった。

今度は燃え上がるような炎を両手に付けた状態で。

そのままフェニックスキメラの首を捉えようとした。だが、

「ふむ、まずはそっちからか。《流動化解除》」

炎の怪鳥に戻った敵は、その翼をアリアの両腕と激突させた。そして、

「炎に戻った上に……くう……パワーも段違いにあるじゃない」

アリアは思い切り吹き飛ばされた。

「ははは、当然だ。フェニックスの体と巨人族の血と水の精霊の魔力を得た妾に力比べなど挑むのが愚かしい」

「三種類の化け物が混じり合っている。だからキメラって、名前なのか……」

「かっかっか。推理してくれて有難う。では、天竜の子らよ。その力を、振り絞るがいい。その上で、攻略できなかったという事実を与えてやろう……!」

目の前のフェニックスキメラから強烈なプレッシャーが放たれた。

それだけでミスラの顔に汗が浮かぶ。だが、

……ボクらしか、戦える人材はいない…。

ならば、必死に戦おう。これまで超特進クラスの皆に動いてもらって、自分は体力を温存させて貰ってきた。その分を返す。そして、

「お前を倒して皆を助ける……!」

そんな強い気持ちの元、ミスラはアリアと共にフェニックスキメラに挑み続けていく。 

俺はフェニックスキメラとやらが檻と言った場所で、ミスラ達の戦いを見ていた。

「まさか、映像と音声付きであいつらが戦っている所を見せて来るとはな」

「お、落ち着いて見ている場合じゃないですよ、クロノさん! お二人とも不味いです! 私たちの力も、吸い取られているみたいですし……」

「そうなのか? あんまり脱力する感覚は無いし、吸われている感覚もないんだけどな。まあ、でも、まったり見ている場合じゃないってのは賛成だ」

明らかにミスラやアリアはオーバーペースで戦っているし、あのフェニックスキメラとの間には攻撃性能でかなりの差があった。

このままでは、良くない結果が待っている。だから、何とかしなければならないのだが、

……ここからどうやって脱出するかね。

周囲は白い石壁で、手口は勿論ないし、方角も良く分かってない。

一体ここがどこなのかもわかっていないのだ。

この檻という罠を突破するとしたら、現時点の場所の把握が大事だ。

だから俺は周辺の壁を手当たり次第に叩いて、自分たちがいる場所を探ろうと動き回っていた。すると、、

『『たああああああああああああ!』』

画面の中から聞こえる、アリアの裂ぱくの気合。

それが、微妙に画面外からも聞こえてくるようなきがした。

そして、それはソフィアにも言える事らしく、

「あれ、向こうからアリアさん達の声が聞こえて来ますね……?」

画面とは違う方向を指さしながら言った。

やっぱりソフィアも聞こえていたらしい。

「流石は聴覚に敏感な吸血鬼の中でも優秀なヒトだな、ソフィアは」

「あ、ありがとうございます。それにしても、この音と……微妙にやってくる震動を鑑みるに……」

「ああ、アリアとミスラは俺達と同じフロアで戦ってるんだな」

俺の推論に、ソフィアも首を縦に振った。

俺だけの幻聴だったり、幻の振動でないというのであれば、やりようはまだある。

「よし。じゃあ、まずは、ここから出ないとな」

俺は両腕から支配の鎖を垂らして、この部屋の側壁に叩き込んだ。

その後、数秒。

壁面が少し緩くなった気がした。

「これなら……いけるかな」

そして思い切り引っ張ってみると、そのまま壁が直方体の形に抜けた。

「おお、出来た出来た。意外といけるもんだな」

「く、クロノさんのダンジョン操作ってここでも有効なんですね。しかも、土地を引っこ抜くとか言う、割と無茶な支配の仕方なのに……」」

「みたいだな。……まあ、好都合だ。転送での移動が出来ないなら、地道に掘って進むぞ。あの二人に力を貸すためによ」

「は、はい!」

そうして俺は白い地面を削り取りながら、戦闘の音が聞こえる方へと進んでいく。