大きな湖の真ん中に浮かぶように見える遺跡に、それを照らす暖かな光。

今ここが地下だと言う事を忘れてしまいそうな光景だ。

「凄い……」

側にいたベルナデットが思わず、と言う様子で小さく呟いた。

「……この二十一階から三十階は『水底の遺跡』と言われているわ」

「『水底の遺跡』……なるほど、言い得て妙だな」

湖を覗き込むと、湖上に見える遺跡から下に延びるように遺跡が続いている。

「あの遺跡みたいのが入り口か……なるほど、初っ端から濡れなきゃいけないわけだ」

辺りを軽く見まわしてみても湖上の遺跡へ伸びる橋なんてなく、泳いで渡るしか手段がない。

「目測で二百メートルくらい……助走つければ……いや、微妙に距離が足らないか」

「いやいや、もし飛べたとしてもそんなことできるのヤシロさんくらいですから」

「だよなぁ」

となるとやはり泳ぐしかないわけで、泳ぐためには今の格好じゃ良くないわけで……くふふ。

「その気持ち悪い笑みをやめてくれる?」

「ぐはっ!?」

まるで豚を見るような目で俺の心を言葉で抉ってくるフィオナ。相変わらずの切れ味と言わせて貰おうか。

「こ、こんのっ……もうちょっとオブラートに包んだ言い方はできんのか」

「する必要があるならするわよ……で、何かあるの?」

「ああ」

フィオナの問いに俺は即答で返す。そう、我に秘策ありだ。俺はフィオナやベルナデット達に説明を始める。

「濡れてもいい服に着替えれば問題無だぜ」

「……さて……そろそろ行くか」

「何が「そろそろ行くか」ですか! ちゃんとした説明を要求しますっ!」

一通りの説明も終わり、迷宮踏破へ向け進もうとした時だった。頬を赤くし、モジモジと身体をくねらせベルナデットが叫んだ。

「なんだよ、ちゃんと説明したじゃんか。水に濡れるのを防ぐ事はできないだろうから、逆に濡れても良いようにって」

「えぇえぇ、その説明はされました。されましたけど!」

そう言ってベルナデットは手にしていた布……いや、水着を俺に突きつけた。

「こ、ここ、こんなの水着じゃないです! ただの紐じゃないですか!」

ベルナデットの手に握られている水着は黒のマイクロビキニ。アルティエラにいたアルケニー、アリアドネから俺が秘密裏に購入しておいた水着だ。

「水着って言うのは、こんな飛び込んだら脱げてしまいそうなものではなくてっ! ほ、ほら、前に私着たじゃないですか! あんな感じの、首もとから足の付け根までを覆うようなもので……っ」

「しかし俺の元いた世界じゃこれくらい普通だったぞ? もっとすごいのとかあるし」

ちなみに俺の普通と言うのは、いわゆるグラビア雑誌などでグラビアアイドルが良く着ているか否かで判断されている。

「こ、これ以上!? ……と、ともかく、私はこんな破廉恥な水着は着ません! こんなの着るくらいなら濡れた方がマシです!」

「ううむ。……頑固だな。しかしこれに代わるベルナデットの水着は無いし……と言うか代わりがあっても俺が嫌だ」

「? なんでですか?」

「エロいから」

「元の姿に戻ったらお仕置きさせて貰います」

なるほど、ショタ化してると制裁されんのか……もう少しこのままでいようかな。

「しかし……ううむ、今のメンツじゃあベルナデットが一番巨乳だし……」

「……勇、これで良いの?」

「ん? ……おぉ! 良いじゃんかフィオナ! 似合ってるぜ!」

俺がどうやってベルナデットにマイクロビキニを着せようかと悩んでいるとフィオナから声を掛けられ、振り返ると白のセパレートタイプの水着を着たフィオナが頬を少し赤らめながら立っていた。

ふむふむ……胸こそないが手足の長いモデル体型のフィオナ、腰のくびれがセクシーだ。元々エルフって言うのは容姿に関しては無敵を誇る種族だ。

目に隈を溜めようが髪はボサボサだろうが貧乳だろうと人を惹きつける容姿に変わりはない。むしろ少しのマイナスがあった方がアクセントになって良い位だ。

「勇、今アンタ失礼な事考えてたわね?」

「ハハハ、まさか。すっごく可愛いぞ」

フィオナの勘の鋭さに俺は戦慄した。なんでこう俺の周りには勘の鋭い奴らしかいないんだ?

「ヤシロのアニキ! これで良いのか?」

「お! ……うむ、やはりクオンには競泳水着だな」

フィオナの次に現れたのはクオンだ。彼女は所謂競泳用の水着を着ていた。

スクール水着以上に身体のラインが見えるそれは、筋肉が絞まり、それでいて胸や太ももに程よい肉付きのあるクオンが着ることで一種の凛々しさとエロスを醸し出す。

(くふふ、我ながら良い目利きだ)

実はこの競泳水着だけは俺が考案したものじゃあない。

アリアドネがスクール水着の発展を狙い行き着いた場所が、この競泳用水着だった。

当時の俺にしてみれば競泳用水着になんら興味を抱けずにいてスク水やビキニのように設計図を書かずにいたのだが、独力でここにたどり着ける辺りアリアドネも相当の強者だ。何の、とはあえて言わない。

「にしてもこんな薄い服なのに凄いのな。全然破れる気がしないし、なんつーか……活力を感じる、っつーのかな……」

「多分色々能力が付いてるんだろ。元々水着は能力付与に向いた構造してっからな」

「へー……」

水着の太股の隙間に指を差し込み、食い込みを直しながら呟くクオン。まさかこんな服に能力が付与されてるとは思ってもみなかったんだろう。

「ふふん。こりゃあなかなか良い装備だねぇ。ちょいと肌寒いのが難点っちゃあ難点だけど」

海賊帽に腰のベルトはそのままに、真っ赤なビキニを着て満足そうに笑うアンジェリカ。

長身故か一番肉付きとスレンダーさが共存しているスタイルだ。良い物をお持ちで。

「…………」

「……ベルナデット?」

ふと視線を感じ振り返ると不機嫌そうに頬をプクーっと膨らませて俺をジト目で睨むベルナデットさん。え、俺なんか悪いことした?

「……わかりました」

「……え?」

「少し待っててください」

そう言うや物陰に隠れ何やらゴソゴソと始めたベルナデット。……一体なんなんだ?

それから五分くらい経った頃だろうか。物陰からベルナデットが現れたのを見て、俺のテンションは急激に上昇することとなった。

「べ、ベッ、ベルベル、ベルナデットっ!?」

「……ど、どうでしょうか……」

頬を羞恥に赤く染め、自分の腕で身体を隠しながらも、その布面積の少ないマイクロビキニ姿を見せるベルナデット。

こ、これはっ……遂に……俺の時代が……、

「キターーーーっ!!」

トーレさんほどではないが片手では包めない程の巨乳に瑞々しく肉付きの良い脚。そこらのグラビアモデルが裸足で逃げ出す魅惑のダイナマイトボディが目の前に!!

「や、ヤシロさん? 目が怖いですよ?」

「ハァ……ハァッ、しんぼうたまらんっ……うげぇっ!?」

思わずベルナデットに向けダイブしかけた俺の首に突如激痛が走る。

「当身! ……これでいいのか?エルフの姉ちゃん」

「ええ。見事よ」

「うぐっ……何させてんだよフィオナ!」

「ういっさい、早く進むわよ」

昏睡しかけたが瞬時に回復した俺はフィオナに詰め寄るが、その凍るような眼差しに無言でうなずくのだった。