エルフ女王国からさほど離れていない原生森林近くに冒険者や商人、兵士達が多数集まっていた。
彼らが寝起きするテントスペース、煮炊きや臨時トイレ場などがあり、人々が集まりそこそこの規模のコロニーを作り出している。
現在、エルフ女王国首都冒険者ギルドで最も参加者の多いクエストが『謎の巨塔調査』である。
そのために多くの冒険者が原生森林に足を踏み入れているが、いちいちエルフ女王国首都まで戻るのが面倒なためテントを設営し野営していた。
気付くと似たような者達が集まり、最終的に商人、街道警備の兵士、移動娼婦館まで集まりコロニーを作り出したのだ。
「へっへっへっ、オヤジ! 今日も戦利品の買い取りを頼むぜ!」
「はい、毎度ありがとうございます」
メンバー全員がモヒカンの人種(ヒューマン)パーティーが、同じく人種商人に保護した人種少女を引き渡す。
この世界6ヶ国奴隷法では、主を失った奴隷は、一番最初に保護した者が所有権利を得る。そのまま奴隷として雇うか、解放を選択できる。
とはいえ奴隷に堕ちた者が解放されたとしても、まともに生きていく宛などない。また奴隷になるか、餓死するか、犯罪を犯して捕まるのがオチだ。
犯罪奴隷の場合、法が違うためまた扱いが異なる。
奴隷を発見・保護した場合は、奴隷商人に売って金銭を得るのが一般的だ。大抵奴隷を発見・保護した者は複数人数になるため金銭で等分した方がトラブルは少ないためだ。
ちなみに保護して得た所有権を奴隷商人に売るのは合法である。
6ヶ国が認めた正式な権利のため誰に文句を言われる筋合いは無い。
少女は恰幅の良い人種(ヒューマン)商人に権利を金銭で譲渡され、保護される。
似たような人種(ヒューマン)少女が数名、荷台に引かれた商品の移動、陳列、販売を手伝う丁稚のような真似事をしていた。彼女達の顔色は良く、待遇は良さげだ。
保護された少女も数日後には似たような役割を与えられるだろう。
商人が、モヒカン達に金銭を渡すと丁寧に頭を下げる。
「また機会がありましたらどうぞよろしくお願い致します」
「おう! また頼むぜ!」
モヒカン達は下品に笑いながら煮炊きスペースに移動。
少女を売った際、ついでに食料品を商人から買い求めた。その食材を使って料理を始める。
皆で料理をしながら、周囲を気にしつつ音量を落として愚痴を零す。
「今日も無事に仲間の商人に女の子を預けることが出来たな」
「しかしマジで人種(ヒューマン)の扱いはどこも悪すぎて笑えない、笑えなくないか?」
「分かるわ~。普通、あんな先導役兼エサに使おうとするとか……まずその発想にビビるわ」
商人、モヒカン達は、ライトが恩恵(ギフト)『無限ガチャ』から排出したカードから召喚された人物だ。
商人がレベル15で、彼らがレベル20~25の人種である。
彼らの目的は地上へ散らばり、情報を集めることだ。
商人は商人ルートから、モヒカン達は底辺冒険者として情報収集に努めている。
こうした人材はモヒカン達以外にも存在し、現在進行形で人種(ヒューマン)王国、獣人連合国、竜人(ドラゴンニュート)帝国、ドワーフ王国、魔人国などでも情報収集活動をおこなっていた。
彼らはライトが『奈落』から出る約1年前から、商人や冒険者として活動して情報を集めていた。
ちなみにモヒカン達の冒険者ランクは E級(半人前)である。
これでも人種として相当速いペースで上がっている方だ。
そんなモヒカン達が鍋を囲み、野菜を入れて、灰汁を取り、肉を入れるタイミングを見計らいながら雑談を交わす。
「いくら何でも人種(ヒューマン)への差別は酷すぎるだろ。いくら6種で一番能力が低いからってよ」
「だよな。俺ら、この1年で結構色々な国や街、村とか見て回ったけど本当に酷い扱いだよな。そんなに嫌いならむしろ無視すりゃいいのに」
「あー、好きの反対は無関心ってやつか」
モヒカン達自身、差別的扱いや因縁を付けられたのは数え切れないほどある。
まだ見た目が人種(ヒューマン)にしては厳つく、基本的に5人纏まって移動しているため大事には至っていないが。
さらにライトが地上で活動する者達の身を案じていざという時の切り札として、『SSR、転移』を渡されている。
なのでピンチになったらさっさと『奈落』へ避難する手筈になっていた。
自分達の身の安全はほぼ確約されているが、行く先々で人種(ヒューマン)が酷い目に遭う姿を目撃することが多く、気分が良いモノでもない。
「……今回のような現場を見ちゃうと『あの噂』もマジっぽいよな」
「噂ってあの『人種(ヒューマン)王国が自国民を他国に売っている』ってやつか?」
「否定できねぇ……」
野菜に火が通ったところで肉を入れて、丁寧に灰汁を取る。
料理の手際は素晴らしいが、空気は非常に悪かった。
人種(ヒューマン)王国の国民8~9割が農民で残り1~2割が冒険者や商人、他の仕事に就いている。
基本輸出品は農作物となるが単価は低く、自然他の商品で外貨を稼ごうとする。
その商品が自国民、人種(ヒューマン)だ。
人種(ヒューマン)王国が主導でおこなっていたら、上が腐っているだけでまだ救いはあったが……他5ヶ国が意図的に人種(ヒューマン)奴隷を輸出商品に仕向けている意図さえ見え隠れしているとか。
理由は単純奴隷や炭坑夫等ならまだマシ。最悪を想像したら……。
モヒカン達がブルリと震える。
「お、俺、ライト(主)様が主でよかった」
「俺も俺も」
「……でも、なんか意図的に人種(ヒューマン)の境遇が悪い気がしないか?」
「そうか? 単純に地上の人種(ヒューマン)を除く、他5種のモラルが終わっているだけだろ」
「正直、個人的にはさっさとライト(主)様に人種(ヒューマン)以外の種を滅ぼして統治してもらった方がいい気がするんだが」
「分かる」
「分かる」
「分かる」
「分かるが、口に出すなどこで誰が聞いているか分かんねーべ」
「すんません、リーダー。口が滑ったッス」
一応周りと距離を十分にとってはいるが、用心に越したことはない。
やや離れた距離に彼ら同様に煮炊きする冒険者達は居るが、自分達の雑談、今後の計画についてブリーフィングに余念がない。
モヒカン達の会話に耳を澄ましている者達は居ないようだ。
皆、安堵の溜息を漏らす。
ちょうど会話のとぎれを狙ったかのように赤髪モヒカンリーダーの肩に青い小鳥が止まる。
この小鳥は彼の使い魔扱いされているが、実際はアオユキが契約しているモンスターの1匹だ。
小鳥は周囲を見回すと、『ピィ、ピィ、ピィ』と囀り出す。
「はい、はい、はい、了解しました。明日は海方向の西南方向ですね。はい、『スネークヘルハウンド(モンスター)』とかち合った際は、最初は強く当たって、後は流れで、はい、そんな感じでお願いします」
リーダーは小鳥と喋っている訳ではない。
小鳥を通して周囲を確認、アオユキが『無限ガチャ』カード『SR、念話』を使用しモヒカンリーダーに明日の指示を伝えているのだ。
他メンバーは味を調えつつ、会話が終わるのを待つ。
話が終わると小鳥はどこかへ飛んで行ってしまう。
「明日は南西方向を攻めるぜ! 寝坊厳禁、装備の指さし確認を忘れるなよ!」
『了解しましたリーダー!』
リーダーの指示に他メンバーが元気よく答える。
返事を終えると、ちょうど良く煮えた野営鍋を皆で食べ始めたのだった。
☆ ☆ ☆
ほぼ同時期、ドワーフ街にあるダンジョン都市から一組の冒険者たちが旅立とうとしていた。
ドワーフ受付嬢から、涙ながらに惜しまれつつ、見送られる。
道化師の仮面を被り杖を持った少年に、黄金の甲冑を来た偉丈夫。
褐色の肌にマフラーで口元を隠した美少女が歩き出す。
12、3歳の少年が仮面越しに告げる。
「それじゃ、『謎の巨塔』出現で話題のエルフ女王国首都へ向かおうか」
「うむ、では行こうか主よ」
「ダーク様が向かう場所なら、地獄の底だろうとお供します!」
黄金甲冑、褐色美少女の返事をきくと、仮面の少年が歩き出す。
向かう先はエルフ女王国首都だ。