[Serial Edition] I nearly got killed in the dungeon depths by the people I believed in, but I got my Level 9999 buddies with the gift Infinite Gacha to avenge the world with former party members & "Za! 'I will!
Thirty-five stories. I haven't seen you in about three years.
――少しだけ時間を戻す。
サーシャとその婚約者ミカエルは、転移した状況を確かめるように慎重に左右を見渡す。
「まさかシャープハットがトラップを見抜けないとは驚きですね……」
「ここは……まだ『巨塔』の内部でしょうか?」
「……ですね。材質からしてまだ『巨塔』内部でしょう」
サーシャはミカエルに抱きかかえられて移動していたため、転移トラップに引っかかっても2人一緒の場所へと移動する。
……実際は例え2人が抱き合っていなくても同じ場所に転移するように、エリーが調整していた。
転移トラップによって飛ばされたが、『白の騎士団』副団長と元『種族の集い』メンバーだけあり取り乱さず冷静に周囲を観察する余裕を持っていた。
2人の指摘通り、『巨塔』と同じ材質で作られた廊下が真っ直ぐ続いている。緩やかに右曲がりを描いているが、見る限り障害物は一つもない。
幅は2人が並び、両手を広げても余裕がある。
壁には見える範囲で扉も、窓一つなかった。
天井に埋め込まれた魔術によって作られた光が煌々と廊下を照らしている。
「……このまま止まっていても無意味です。進みましょう」
「斥候ならあたしが」
「いえ、トラップがあるかもしれないし、どんなモンスターが奇襲をしかけてくるか分かりません。なのでワタシが前に。シャープハットほどではありませんが、斥候のマネごとぐらいは出来ますから。サーシャ殿はいつでも伯爵家からお借りした幻想級(ファンタズマ・クラス)を使えるよう準備していてください」
「分かりました」
ミカエルの提案は現状の最適解のためサーシャはそれ以上反論せず、指示通り伯爵家から託された幻想級(ファンタズマ・クラス)の武器……見た目は完全に『オカリナ』を片手に持つ。
空いたもう片方は、後ろからミカエルのマントを掴む。
転移トラップに再度引っかかって飛ぶ際、分断されないための処置だ。
ミカエルも宰相から借り受けた盾……こちらも幻想級(ファンタズマ・クラス)で、女神の息吹と苦悶の表情を浮かべるモンスターの図柄が描かれていた。
盾のデザインというより、一枚の絵画と言っても通じるような芸術性がある。
彼は剣を抜き、歩き出す。
剣で床をコツコツと叩き、罠が無いかの確認をしながら進む。
「サーシャ殿、ワタシが踏む床以外の場所を踏まないように気を付けてください」
「もちろんです、ミカエル様」
2人はまるで極悪なダンジョンに挑むような真剣さで、廊下を歩き始める。
……タネを明かせばライト達が待つ王座の間まで罠ひとつ、モンスターの1匹も居ない。
2人の転移先を直接、王座の間にすることも出来たが、長い廊下へとわざと飛ぶよう設定されていた。
理由は、ただの嫌がらせだ。
転移トラップで飛ばされた直後、一見何も無い廊下が延々と続く。罠を警戒し、無駄に緊張しながら進むのは当然の帰結。
サーシャに嫌がらせをするためわざわざ、こんな回りくどいことをしているだけに過ぎない。
そうとも知らず2人は決死の表情でのろのろと進む。
時間をかけて慎重に、何も無い廊下を進み続けると――廊下の行き止まりに辿り着く。
出入口は一つ。
巨大な扉が待ち構えていた。
例え4mを越えるゴーレムでも楽々通りそうな巨大な扉だ。
サーシャがぽつりと漏らす。
「まるでダンジョン奥地で待ち構えるボス部屋のようですね」
「『巨塔』のボス、ですか……。そのボスがレッドドラゴンで、倒せばワタシ達が外に無事、出られるといいのですが」
ミカエルが微苦笑を漏らし、肩をすくめる。
彼の反応にサーシャも笑みを零した。
2人は一通り笑い終えると、表情を引き締める。
「……中に入るしかなさそうですね」
「ミカエル様、いつでも『オカリナ』を使う準備は出来ています」
「危険を感じたらすぐにお願いします」
2人は他にも簡単な対応についてやりとりを終わらせると、ミカエルがそっと扉に触れて力を込めた。
触れると、自動的に扉が開く。
音もなくゆっくり丁寧に、まるで専用の巨人が開閉しているのかと思うほどスムーズにだ。
「……? あのヒューマン(劣等種)がなぜここに……?」
「サーシャ殿?」
扉が開くと、薄ぼんやりとした廊下とは一転、太陽光の下に顔を出したのかと疑いたくなるほど明るい空間が広がる。
『巨塔』1階のものよりは細いが規則的に柱が並び、赤い絨毯が玉座に向かって一直線に伸びる。
広さも体育館並に大きかった。
天井も高く、窓はやはり一つもないが閉塞感は一切ない。
玉座の間としてはシンプル過ぎるが、玉座の手前に立つ魔術師風衣装を来た美少女、ネコ耳フードを被った青い髪の美少女の2名の美しさで十分お釣りが来る。
彼女達2人のエルフ種すら越える美。
いくら金に飽かせて、熟練の職人を手配し、デザインをしても、2人の美しさが彩る空間を越えることは出来ない――そんな強い印象すら与えた。
彼女達をひとつの美術品、玉座の間を彩る存在だととらえれば、エルフ女王国宮殿の宝すらも楽に超えるであろう気品を放っていた。
問題は、その玉座にサーシャにとって見覚えのある人種(ヒューマン)が座っていることだ。
遠目でもすぐに分かる。
道化師の仮面に黒いマント、手には杖を握っている。
以前、『巨塔』調査初日に『ライト』と勘違いして声をかけた、人種(ヒューマン)の子供だ。
いくらサーシャが人種をヒューマン(劣等種)と見下し、基本的に歯牙にもかけず忘れるとしても、彼の印象は非常に強かった。
あの仮面の下には、彼女がすぐさま視線を逸らすほどの火傷がある。
『ライトかもしれない』と声をかけて、仮面を取るよう命じた。その際、サーシャはばっちりと火傷を見てしまい思わず悲鳴をあげてしまった。
故に彼女の記憶に深く刻まれていたのだ。
「サーシャ殿、あの玉座に座る者とは知り合いなのですか?」
「知り合いというほどでは……。ただ『巨塔』調査当日に、目にした覚えがある冒険者というだけです」
「…………」
彼らは自分達に気付いているが、微動だにしない。
ただジッと、こちらが部屋に入るのを待っているようだ。
ミカエル、サーシャが視線を走らせるが、玉座の間に彼ら以外の姿はなく、レッドドラゴンが隠れているスペースも無かった。
「……どうやら部屋に入るしかなさそうですね。行きましょう、サーシャ殿」
「はい、ミカエル様」
2人が部屋に入ると、扉が閉まる。
当然、予想していたため2人は動揺せず、前に進む。
一定距離に近付くと、玉座に座る少年から声を掛けてきた。
「久しぶりだね、サーシャ」
「? 確かにこうして顔を合わせるのは『巨塔』調査当日以来だけど、そんな気安く声をかけられる仲じゃないでしょ。むしろヒューマン(劣等種)ごときが、気安く声をかけないでちょうだい。気持ち悪い!」
サーシャが一息で吐き捨てる。
玉座の手前に立つ美少女2人が、『イラっ』とした表情を作るが、あまりに顔立ちが整っているため苛立つ表情すら美しく、愛らしかった。
サーシャの前に立っているため、ミカエルの表情は婚約者に盗み見られることはなかった。そのため、彼が2人の少女に見惚れる姿は婚約者であるサーシャに見られることはなかった。
仮面の少年は可笑しそうに――サーシャの背筋が冷たくなる声音で笑い出す。
「はははは、酷いな。昔は一緒にパーティーを組んで仲良くダンジョンにも潜ったこともあるのに」
「はぁ? 他のエルフ種と勘違いしているんじゃないの。あたしがどうしてヒューマン(劣等種)と仲良くダンジョンに潜らないといけない……」
最初、サーシャは出鱈目と思われる発言に苛立ち、声を荒げるが台詞を吐き出している途中で気付く。
確かに自分は一時、人種(ヒューマン)と一緒にダンジョンに潜った経験がある。その事実に気付き、後半の言葉はだんだんと尻すぼみになっていった。
だが目の前に座る少年の顔は確認済みだ。
彼ではない。
しかし『巨塔で待つ』という紙によってサーシャ自身は何度も命の危機に遭いつつ、なんとか指示通り『巨塔』奥地まで辿り着いたのだ。
紙が指示通りなら、その場に居るのは1人の人種(ヒューマン)しかありえない。
玉座に座る人種(ヒューマン)が、仮面に手をかける。
サーシャはその下に酷い火傷が、自分が最も嫌う醜いモノがあるということを自分の目で見たことがありがらも、絶対に目が離せなかった。
この時、側に居る婚約者、自分の栄光の未来そのものとも言えるミカエルの存在すら忘れて、食い入るように見入ってしまう。
少年が完全に仮面を取る。
サーシャは無意識に醜い声をあげていた。
「あっ、あああああ゛あ゛!!」
「もう一度言おう。久しぶりだね、サーシャ」
ライトは笑う。
獰猛に笑う。
飛びかかる直前の獰猛な猛獣の如く心底楽しげに笑う。
「3年前の復讐に来たよ、サーシャ……ッ」