「ひぃ!? に、にーちゃん!」

「大丈夫、大丈夫だから! ただ眠っただけで、後ろの彼女達は僕の味方だから!」

メイド3名、女性騎士1名が『無限ガチャ』カード『SR、睡眠』で眠らされる。

不意打ちだったのと、たいしたレベルではなかったため殊の外良く効いた。

ぐにゃりと人形のように体が折れて床に倒れそうになった所を、妖精メイド2名が2人ずつ抱き止める。

妖精メイド達はそのままゆっくりと彼女達を床へ寝かせた。

突然、知り合い達が倒れたことでユメが怯えて、しがみついてくる。

僕は彼女を落ち着かせながら、メイ達が味方だと伝えた。

改めてメイ、妖精メイドがその場で跪き、挨拶をする。

「ユメ様、申し遅れた非礼をどうかお許し下さいませ。私(わたくし)はライト様にお仕えする家臣の1人、『SUR、探求者メイドのメイ レベル9999』と申します。以後、お見知りおきを」

妖精メイド達もメイに習ってその場で膝を突き頭を垂れた。

突然の事態に、ユメが僕に抱きついたまま目を白黒させる。

「に、にーちゃん、家臣? 様? レベル9999ってどういうこと? ……あれ? よく見るとにーちゃんも変わってない?」

「村を出てから色々あったんだ……色々ね」

過去を思い出し、声音が沈む。

ユメが僕が3年前と変わらないことに困惑しているのを気配で感じ取り、慌てて誤魔化すため笑顔を作る。

「とりあえずお互いに詳しい話をするためにも、ゆっくり出来る場所へ移動しようか」

「で、でもユメ、姫さまのメイドとして来ているから、勝手には移動できないよ。メイド長達に怒られちゃうし……」

「大丈夫、その心配は無いよ」

僕は懐から1枚のカードを取り出す。

「ユメ、これを持って」

「う、うん」

ユメは渡されたカードを手にする。

「そのカードを持って、『解放(リリース)』って言ってもらえるかな?」

「り、りりーす?」

彼女の声音に反応し、カードが力を解放する。

気付くとユメの目の前に、『もう1人のユメ』が立っていた。

彼女は『もう1人のユメ』の存在に気付くと、怯えた表情で僕に抱きついてくる。

「に、にーちゃん!?」

「大丈夫だよ、あのユメはマジックアイテムで作り出したもう1人のユメだから。敵じゃないよ」

「はい、ユメは『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』で作られたもう1人のユメ様です。どうかご指示を」

『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』――使用者に姿形そっくりな状態で現れる影。着ている衣服も再現し、言動、癖も本人そのもので見分けはつかない。

僕が地上に居ても『奈落』で恩恵(ギフト)『無限ガチャ』カードを排出している。その裏技がこの『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』の力だ。

『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』は本人そっくりになるだけではなく、劣化だが恩恵すら模範する。

なので当時、『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』が出ると、僕がカードを使い『もう1人の僕』を作り出し、ひたすら『無限ガチャ』を連打させ続けた。

とはいえ、この『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』も完璧ではない。どうやら『無限ガチャ』カードの高いランクの排出率は、僕がやるより落ちるようだ。だが、そこは数でカバーすればいい。

今も『奈落』地下深く――ダンジョンコアルームで『無限ガチャ』を連打し続けている。

「言動、癖も一緒の『ダブルのユメ』に後を任せれば、偽者だとバレる心配も無いから問題無いよ。だからユメ、彼女に『後は任せた』って指示を出して」

「う、うん、『あ、後は任せた』」

「了解しました。『ユメ』として彼女達の元で働きます」

2つ目の影(ダブル・シャドー)のユメが、指示に従い頷く。

僕はそれを見送って、メイ達に指示を残す。

「メイ、後の処理は頼む」

「了解致しました」

『後の処理』とは――別に眠っているメイド達を始末する訳ではない。

前に助けたミヤに施したように『SR、催眠』で記憶を操作するだけだ。

僕がユメと出会い、再会したシーンを忘れてもらうだけである。

僕は『SSR、転移』カードを取り出し、ユメの肩を掴む。

「それじゃユメ、移動するよ。僕から離れないでね?」

「う、うん、分かった」

混乱しつつも素直に僕の言うことを聞き、ギュッと抱きついてくる。

僕は『奈落』をイメージして、カードを使用する。

「『SSR、転移』、解放(リリース)」

視界が一瞬で切り替わる。

その瞬間までずっとメイ達は頭を下げ続けていた。

『奈落』訓練場へ無事に移動を終える。

訓練所には僕の妹であるユメを一目見ようと仲間達が集まっていた。

一応、ユメを怖がらせないようにあまりモンスター寄りの仲間は申し訳ないが避けてもらった。

故に訓練所に集まったのは人種タイプが多い。

ユメは目の前に広がる光景――集まった仲間達の存在に驚き、固まってしまう。

代表してアオユキ、ナズナが声をかけてくる。

「にゃ~」

「お帰り、ご主人様! その娘(こ)がご主人様の妹様?」

「うん、そうだよ。ユメ、こっちのネコミミはアオユキで、この銀髪の子がナズナっていうんだ。2人とも僕の大切な仲間だから、ちゃんと挨拶をするんだよ?」

「お、お兄ちゃんの妹のゆ、ユメです。こんにちは」

おずおずとユメがアオユキ、ナズナに挨拶をする。

「うにゃぁ~」とアオユキは鳴き声をあげて、ユメの体に自身のを擦りつける。

アオユキはユメより見た目の年齢が高いが、『うわぁ、可愛い。本物のネコさんみたい』と気に入ったようだ。

ユメがアオユキを顎下や頬を撫でても、彼女は逆らわず身を任せる。

他の仲間などが触ろうとすると嫌がるため、結構珍しい光景だ。

「ご主人様の妹様ならあたいのご主人様みたいなもんだな! 何か困ったこととかあったら遠慮無く命令してくれよな!」

「うん、ありがとうナズナお姉ちゃん」

「な、ナズナお姉ちゃん……むふぅッ、ナズナお姉ちゃん……!」

ナズナはモチモチのほっぺをニマニマ緩ませ『ナズナお姉ちゃん』というユメの台詞を反芻する。

外見年齢ならユメよりナズナの方が上だ。ユメがナズナを『お姉ちゃん』呼びしてもおかしくない。

ナズナも今まで『お姉ちゃん』と呼ばれた経験が無かったため、心底嬉しかったらしい。

彼女は大きな瞳をキラキラと輝かせて断言した。

「妹様! 遠慮無く、何でもあたいに! このナズナお姉ちゃんに言ってくれよな!」

「う、うん」

ハイテンションになったナズナに気圧されつつも、ユメは笑顔で頷く。

他にも妖精メイド達やゴールド、ネムム、メラ、スズなどが挨拶をしてたがっているが――全員に挨拶をさせていたらいくら時間があっても足りないし、ユメが疲労してしまう。

僕は皆に声をかける。

「挨拶はまた後ほど、まずユメを落ち着かせるために部屋へ移動しよう。アイスヒート、案内を頼むよ」

「了解致しました。ご主人様の忠実なる下僕である『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』と申します。妹姫様、以後お見知りおきを。妹姫様のお部屋へとご案内させて頂きます」

「う、うん、ありがとうございます」

傅かれるのに慣れていないユメは戸惑いつつもお礼を告げる

『昔は僕もこんな感じだったな』と微苦笑を漏らしつつ、ユメの手を取りアイスヒートの案内に従う。

向かう先はユメのために準備した彼女の部屋だ。

とりあえず一度、ここに移動して気持ちを落ち着け、色々話を聞くつもりである。

こうしてユメと再会し、この世界で一番安全な『奈落』へと、彼女を保護することを完了させたのだった。