ドワーフ王国を取り込むため、夜、ドワーフ王ダガンと極秘会議を開いたら――なぜかドワーフ王国に隠されていた『大規模過去文明遺跡』を攻略することになった。

理由は――竜人種(ドラゴンニュート)、魔人種が秘匿しているだろう『技術を加速させると世界が滅ぶのか?』、『ますたー以外に危険視する存在』等について、2国に攻め入らなくても『大規模過去文明遺跡』を探れば判明するかもしれないからだ。

竜人種(ドラゴンニュート)や魔人種のみが秘匿しているかもしれない情報やヒントを得られるかもしれない上に、技術の発展抑制に不満を持っているドワーフ王国をこちら側に取り込み、さらに過去文明遺跡から様々なものが手に入る可能性があるとなれば、手を出さないはずがない。

「他にもドワーフ王ダガンから無事に『大規模過去文明遺跡』を攻略したら、僕達に協力するという契約書も貰えたし。これでナーノへの復讐も、リリス姫の人種(ヒューマン)王国王女推薦も問題なく進行できるね」

「さすがライト様です。素晴らしい結果かと」

『奈落』執務室で、僕はメイと2人で昨夜のドワーフ王国の国王ダガンとの極秘会議を振り返り、会話をかわす。

人種(ヒューマン)王国第一王女リリスの言葉通り、幻想級(ファンタズマ・クラス)のアイテム一つでドワーフ王ダガンはあっさりと会談会場である『巨塔』へ移動。

ダガンは技術の発展を他4種から止められているという現状にも不満を抱いていたため、すんなりと話を纏めることが出来た。

唯一、問題があるとするなら――。

「攻略する予定の『大規模過去文明遺跡』の規模がまったく分からない点くらいか……。まあ、これは実際に試してみるしかないか」

「ダガン王も『一目見れば、大規模過去文明遺跡だと分かる』としか仰りませんでしたからね……」

細々と条件を詰めて、2枚の契約書を交わし、互いに所持しあった後、『大規模過去文明遺跡』について触れた。

場所はドワーフ王国首都西南の試掘跡の一つで、作業中に発見したらしい。

発見後、一目で『大規模過去文明遺跡』と理解し、技術の加速を禁止している他種にばれないよう隠蔽し続けてきた。

発見から千年以上経ち、当時の腕利き冒険者に最新ドワーフ製武具を持たせ何度か送り出していたが、未だ誰1人帰還したモノはいないらしい。

そのため他に情報が無いのだとか。

「言いたいことは分かるけど……言われる側としては困ったものだよね」

「『これ以上は、現地を見てもらわないと説明のしようがない』としか返答されませんでしたからね」

あの場で給仕を務めていたメイも、ドワーフ王ダガンの言葉を思い出し、軽い溜息を漏らす。

他に情報が無いか尋ねても彼女の指摘通り、『とにかく、現地を見てもらわないと説明のしようがない』としか言われなかった。

結果、遺跡の地図はもちろん、敵の傾向などが一切分からない。

「まあ、ドワーフは腹芸に向く種族ではないから、罠の可能性は低いとは思うけど……。とりあえず『奈落』以上の可能性も考慮して、全力で挑もうか。当日はドワーフ王ダガンや他ドワーフ種達も連れて潜らないといけないしね」

「私(わたくし)達だけなら、気を使う必要もないのでメイドの私としては楽でしたが……。どうしても付いて行きたい、とのことでしたからね……」

メイが再び軽い溜息を漏らす。

ダガンを長距離転移させたマジックアイテムを僕達が多数持つことを知った彼は、『儂も遺跡に連れて行ってくれ!』と言い出したのである。

ダガン曰く、長距離転移マジックアイテムは希少品で過去、遺跡に送り出した腕利き冒険者達にも無理をして数百mも移動できるのを持たせたが、戻ってきていないらしい。

つまり、数百m程度では危機を回避できず、一人も戻ることが出来ないほどなのだ。

だが、今回僕達が国を跨ぐほど余裕で移動できる長距離転移マジックアイテムを所持していると知った。

『危なくなったら逃げればいいから、安全は保証されているのでは?』と気付き、長年秘匿されてきた過去文明遺跡内部を『是非自分の目で確かめてみたい』と考えるのは必然である。

強く言えば断ることも出来ただろうが、ドワーフ王国内に秘匿していた過去文明遺跡ということを考えて、初回は受け入れることにした。厳しければ一度戻って僕達だけで潜り直せばいい。

故に今回ドワーフ王ダガンと、調査員として複数のドワーフ種を同行させることになったのだ。

「僕自身、秘匿され続けてきた大規模過去文明遺跡に浪漫を感じるから気持ちは分かるけどね……」

彼ら程度の足手まといであれば、気をつければ僕達の安全性には問題ないが……。彼らには敵の迎撃はするが遺跡内部でのことは自己責任とは伝えてあるし、当然そのことは理解しているだろう。

「エリーは『巨塔』周辺に出来つつある街開発の手伝い。アオユキは『奈落』と『巨塔』などの監視、調査で忙しいんだよね? なら僕、メイ、ナズナ、メラ、そしてスズの5人で遺跡に潜ろうか」

エリーとアオユキが動かせないのは残念だが、今回のケースの場合はメラ、スズの方が適任だろう。

……もっとも何があってもナズナが居れば、大抵の問題は力押しでどうにかなってしまうのだが。

「了解致しました。それでは参加者に指示を出しておきますね。参加する者達の業務を引き継ぐ者達の選出は私(わたくし)の方で采配してもよろしいでしょうか?」

「うん、よろしく頼むよ。メイなら安心して任せられるしね」

「ありがとうございます。我がメイド道に懸けて最善最高の仕事を果たしてみせます!」

僕に『メイなら安心して任せられる』と声をかけられ、心底嬉しかったのか彼女が気合の入った返答をする。

メイはそのまま一礼すると執務室を出ていった。

その気合が入った背中を微苦笑混じりで見送る。

執務室に1人残された僕は、これから攻略する『大規模過去文明遺跡』に何があるのか、どんな場所なのか――などを考えて1人笑みを浮かべてしまう。

☆ ☆ ☆

――十数日後、ドワーフ王ダガンが『西方への視察に出る』という偽視察をでっち上げ、『大規模過去文明遺跡』調査に同行する時間を作る。

偽の視察一行は西方にあるドワーフ種港街までだらだらと移動し、時間を潰して戻ってくる手筈になっているとか。

その間に出来れば『大規模過去文明遺跡』の最深部まで到達し、自分の目で見聞きしたいらしい。

同行する専門家ドワーフ種達も、『大規模過去文明遺跡に潜り、調査できる』と聞いて危険は承知しつつも二つ返事で参加に了承した。

ドワーフ種技術者として上から数えた方がいいぐらいお偉方らしいのに、ずいぶんと腰が軽いな……。

正直、色々とドワーフ王国の運営状態について心配になってしまう。

こちらも準備を整えて、西方街道を移動しているドワーフ王達一行と合流し、偽視察一行と別れ、『大規模過去文明遺跡』へと向かう。

「遺跡には一体何があるのか。蛇が出るのか、ドラゴンが出るのか――」

僕は晴れ渡る空を眺めながら、期待に溢れる台詞を呟くのだった。