ミサンガの一件で改めてミヤとクオーネは友達同士になった。

クオーネの部屋でシックス公国魔術師学園の話だけではなく、魔術やミサンガのこと、ミヤの冒険者生活など、多岐に渡って話をした。

あまりにも盛り上がったせいで、その日はクオーネの自宅にミヤがお泊まりすることになったほどだ。

ここまでなら女子同士の和やかな交流で済んだのだが、初めて同世代人種の友達が出来たことでクオーネのテンションが爆上がり。

「ミヤにワタクシの、『紅蓮の片翼天使《ヴァイオレット・フォーリンエンジェル》』の深淵に至る力を見せてあげるわ!」

つまりミヤに魔術師として良い所を見せたいということだ。

ミヤも最初こそ驚いたが、クオーネの実力……『シックス公国魔術師学園4級魔術師』がどの程度なのか気になり了承する。

クオーネ自身も、ミヤがどんな攻撃魔術を使うのか見てみたいという思いがあった。

そのため街の外に出て、互いに攻撃魔術を見せ合うことになった。

とはいえ無断で行くわけにいかないのとしっかりと準備を整えるため、ミヤはクオーネの自宅に一泊した後、兄エリオが泊まる宿屋へと帰宅。

事情を話してエリオの了承を得た。

準備を整えてクオーネと合流し、街の外へと出る。

向かう先は街の裏手にある森だ。

森の手前の木々を的にして、互いに攻撃魔術を見せ合おうというのだ。

この内容にクオーネが不満そうに愚痴をこぼす。

「本当なら森の奥まで行って、ゴブリンやオークなどを退治して見せてあげたいのに……」

「森の奥までなんて、遠くていちいち行っていられないでしょ。野営の荷物や準備も無しに森の奥地に行くとか、自殺行為だからね?」

クオーネはミヤに良い所を見せたくて、派手にモンスターを倒すことを希望し森の奥へ行くことを提案する。

しかしミヤが一瞬で却下。

クオーネ自身、学園で魔術の勉強をしてきたが、逆に言えばそれしかしてきていない。

森の移動、警戒、野生準備、休憩の取り方、いざという時のサバイバル方法など何一つ知らないのだ。

反対にミヤは冒険者として少なからず経験がある。

故に準備も無しに森の奥へ進むことがどれほど危険か理解し強く否定したのだ。

友達となったミヤに理由を述べられて反対されたため、クオーネは大人しく従う。

2人は雑談を交わしつつ、街裏手の森へと到着。

この森は薪、薬草、飲食となる獣(猪、鳥類、兎など)、etcを得るためわざと開発せず残されていた。

そのため森の反対側には大きな川が流れ、人種(ヒューマン)王国領土として森から少し離れた場所には小さな街や村なども存在する。

とはいえ鬱蒼と茂った濃い森林の奥に、野営やサバイバル装備もなくレベルの低い者が突撃すれば、モンスターや獣などに襲われて命を落とす危険が高い。

そのため奥には潜らず、森手前の木々に互いの攻撃魔術を当てて見せ合う予定だ。

冒険者ギルドにも訓練所はあるが、クオーネは冒険者ではないため施設を使用することは出来ない。

故にわざわざ森まで移動してきたのだ。

周りに新人冒険者等がおらず攻撃魔術を使用しても問題無いことを確認してから、クオーネが公国魔術師学園のマントを翻し、右手で左目を押さえて高々と告げる。

「それでは早速、ワタクシの『紅蓮の片翼天使《ヴァイオレット・フォーリンエンジェル》』の攻撃魔術を見せてやりますわ!」

「頑張って、クオーネちゃん!」

ミヤが嬉しそうにパチパチと手を叩き応援する。

クオーネはミヤの拍手に気分を高揚させてテンションを高くし、手にした杖を無意味にクルクルと回す。

「――魔力よ、顕現し炎を作り形をなせ、フレイムランス!」

クオーネが朗々と呪文を唱えクルクル回していた杖を左手に天に向けて突き出すと――攻撃魔術フレイムランス×4本が空中に姿を現す。

杖の先から等間隔に並ぶフレイムランスの姿は、『片翼』に見えなくもなかった。

「敵を穿ち、業火で燃やし尽くしなさい!」

左手で握った杖を森一番手前にある幹に向けて突き出しつつ、右手を交差させる。

台詞、ポーズには何の意味も無い。

クオーネの指示に従いフレイムランスが飛翔。

狙い違わず幹へと突き刺さり、『ジュワァッ』と高温で熱せられる音が響く。

もしモンスターなどの肉体に突き刺されば、内側から焼かれるだろう。

殺害するには十分な威力だ。

ミヤが魔術師としてクオーネの腕前を観察する。

(込める詠唱速度、魔力の量、展開速度も及第点だけど無駄が多い……力を入れすぎている気がする。でも、顕現させた後のコントロールは凄く上手……)

魔術師にとっていかに無駄なく魔力を運用するのかが基本にして、奥義の一つと言われている。

例えばフレイムランスを1本作るのに、通常10必要とした場合、魔力を20注いで作ったら魔力の無駄だ。

威力を高めるために使う場合もあるが、クオーネの場合、ミヤに良い所を見せたくて無駄に張り切ったせいで、余計な魔力を消費してしまったのだ。

しかし、顕現後のフレイムランスの扱いが非常に上手いとミヤは思った。

クオーネは得意気に金髪縦ロールを弾き、ミヤへと振り返る。

「どうだったかしら、ワタクシの腕前は?」

「コントロールが凄かったよ。あれって4本全部操っていたよね? わたしは2つが今のところ限界なのに、本当に凄いよ」

一般的にアイスソード、フレイムランス系統の攻撃魔術は魔術師の意思によって細かく操ることが出来る。

しかし、数が増えればそれだけ細かい動きは不可能だ。数を増やし発射して、放置するのが一般的である。

だが、クオーネは4本全てを自ら操って見せたのだ。

ミヤは彼女の操作技術を素直に勝算する。

クオーネは立派な胸をさらに反らし、

「ワタクシ、攻撃魔術のコントロールには自信があるの。でも、それに気付くミヤもなかなかね! それでこそワタクシの好敵手よ!」

「えぇ……いつの間にわたしはクオーネちゃんの好敵手になったの?」

「今この瞬間よ!」

テンションと勢い、ノリで発言しているクオーネにミヤは『えぇぇぇ』となんとも言えない驚きの声音、表情を作る。

とはいえ、クオーネが心底楽しげに話をする姿を見て、ミヤ自身も楽しくなってついつい笑みを零してしまう。

「それじゃ次はミヤの攻撃魔術を見せて頂戴! ワタクシの好敵手、親友にしてライバルのミヤがどんな攻撃魔術を使うのか興味があるわ」

さらに好敵手から親友、ライバル要素まで追加される。

無茶苦茶な勢いにミヤ自身、もう微苦笑を零すしかない。

彼女はクオーネの言葉に聞いて、手にした杖を握り締め、意識を集中させる。

「――魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」