微笑ましいミヤとクオーネのやりとりを見送った後、僕は『奈落』最下層へと戻る。
『奈落』最下層執務室に入り、席に座ると、待ち構えていたメイ、アオユキ、エリーが一礼。
僕が軽く声をかけると、頭を上げる。
僕は向けられる忠誠心に頷きエリーに問いかける。
「エリー、獣人連合国への警告と対象の始末ご苦労様。無事、上手くいって良かったよ」
「勿体ないお言葉ですわ。ですが、ライト神様(しんさま)がお望みであれば、他畜生共の始末もすぐにもつけますが?」
獣人翼人種族長イゴルに比べて罪は軽いが、他消極的に関与した獣人クマ種、獣人ウシ種族長など、命令があれば『今すぐ抹殺に向かう』とエリーが暗に口にした。
僕は軽く首を横に振る。
「積極的に今回の一件に関与した獣人種は一通り消えて貰った。これ以上居なくなると国家運営が成り立たなくなる。その場合、僕達が面倒を見なければならないが、そこまでやってあげる義理はないからね」
獣人連合国の上層部の首をはねて直接統治することは出来なくはないが、少なくないリソースを裂かなければならないし、面倒が多い割に実入りが少なすぎる。
僕は別に虐殺をしたい訳ではないし、獣人連合国を手に入れたいほど魅力も無いからな……。
「むしろガムの頭を覗いた結果だけど……本当にあの『人種(ヒューマン)ヒソミ』と話をしていたのかい?」
「はい、ですわ。記憶を読む限り、顔、仕草、動作、声音――全てドワーフ王国でライト神様(しんさま)が倒したあの『人種(ヒューマン)ヒソミ』で間違いないですの。わたくしも驚いて何度も確認してしまいましたわ」
エリーが再度思い出し、驚きの表情を作る。
獣人連合国との戦いで、『乖離世界の世界《ワールド・イズ・ワールド》』によって戦場を隔離。
アオユキの練習台としてモンスター達を指揮して殲滅した。
途中、獣人ウルフ種族長ガムが命乞いした際、『――た、た、助け! 助けてくれ! 話す、全部話すから! 自分はヒソミっていうヒューマン(劣等種)に騙されただけなんだ! だから自分だけは助けてくれぇ!』と騒ぎ出す。
確認を取るため獣人ウルフ種、獣人タイガ種族長2人を捕らえて『奈落』最下層へ。
エリーに彼らの記憶を読まさせた。
結果、彼女曰く『あのドワーフ王国でナーノを唆し、戦闘の末死亡したはずの人種(ヒューマン)ヒソミだ』と断言したのである。
ちなみにガムとレバドは文字通り『死んだ方がマシ』という苦痛を受け、廃人化。一度精神を修復した後に再度処刑した。
一度回復させたのは、ヒソミ関連以外で人種(ヒューマン)に対して気まぐれに殺害するなど様々な罪を犯していたため、それらを直接供述させ記録する必要があったのと、少しでも犠牲になった人種(ヒューマン)の苦しみを与えるためだ。
2人は最後まで必死に命乞いをして死亡した。
話を戻す。
「なぜドワーフ王国で倒したはずのヒソミが生きていて、獣人ウルフ種族長ガムと接触しているんだ? まさか双子だったってオチ?」
「いえ、ソレはないかと。双子にしてはあまりに似すぎています。容姿もですが、口調、癖や声音、仕草が同じでしたから」
エリーは僕の意見をすぐさま否定する。
記憶力が高いエリーが断言するなら双子説はあり得ないか……。
「あの倒されたのは演技で実は生きていた――はありえませんね。ライト様の攻撃を受け塵になった姿が演技・幻とは到底思えませんから……」
メイが自分の意見を自身で否定する。
僕自身、メイの意見に賛成だ。
途中で暴走気味に襲いかかってきたヒソミに対して、僕は『SSR 爆豪火炎』99枚全部を一斉解放。
その攻撃を受けて、ヒソミの全身を覆っていた背中の触手はほぼ消失。
口から出ていたミミズ触手も千切れて、消滅した。
ヒソミ自身も全身にダメージを負って、手足の一部など失い一目見て瀕死だと分かる姿だった。
さらに体が塵となって消滅したのだ。
あれが演技、偽者、幻だとは到底思えない。
「……相手は恐らく『ますたー』だろう。何かしらの僕の恩恵(ギフト)『無限ガチャ』のような力で、自分と同一人物を作り出しているのかもしれないな。まぁ現状、情報が無い状態で考えても詮無きことだが……。とりあえずアオユキ、獣人連合国に集中していた調査、監視のモンスターを再度世界に配置。今後は竜人帝国、商人ヒソミについて調査を頼むよ」
「にゃ!」
アオユキが力強く声をあげる。
とはいえ、一度アオユキの情報網を獣人連合国に集中した。それを再配置するには若干時間がかかってしまう。
獣人種達に囚われた人種(ヒューマン)を救出するための措置だったから、不満はないが。
「アオユキの他にも、地上で活動している者達に『竜人帝国の商人ヒソミ』について調査するよう指示を頼むよ」
「畏まりました、すぐに指示を出させて頂きます」
メイが力強く答える。
竜人帝国といえば、確かモヒカンさん達が入国しているはずだ。
彼らにも連絡が行き『竜人帝国の商人ヒソミ』について調査することになるのだろうが、あまり強い者達ではないので無理はして欲しくないな。
「他に僕に報告することはないかな?」
「今の所『奈落』内部に問題はありません」
「『巨塔』周辺に関しても、獣人連合国から解放した人種(ヒューマン)の受け入れは既に終えている上、物資もライト神様(しんさま)の寛大なるお心のお陰で十全に受けているため特別問題はありませんわ」
「にゃ~」
メイ、エリー、最後にアオユキが気の抜けた声で問題ないと告げる
一通りの報告が終わった事で、僕は解散を宣言するため声を上げようとするが――。
「ん? 念話だ――リリス様からだ。もしもし?」
人種(ヒューマン)王国第一王女リリスから、念話が贈られてくる。
彼女には『SR、念話』を渡しているため、念話を送られて来ても問題は無いのだが……。
その内容にやや問題があった。
「え? 獣人種を僕らが殲滅したせいで……まだ数年猶予がある筈だったシックス公国会議が近日中に開かれる?」
どうやら『獣人大虐殺』は僕達の想像以上に衝撃を与え、世界を動かしてしまったようだ。