とある日。

珍しく急ぎの仕事もなく、『奈落』最下層で久しぶりの休日を得る。

折角の休日だから、普段かまってあげられない実妹ユメと一緒に過ごそうと彼女の元へ向かうと――ユメは『SUR、真祖ヴァンパイア騎士(ナイト)ナズナ レベル9999』と楽しく人形遊びをしていた。

邪魔するのも悪いので、ユメに許可を取り、彼女達の遊びを眺めながら妖精メイドが淹れてくれたお茶を楽しむ。

一通り遊び終えると、2人も喉が乾き、小腹がすいたのかテーブルへと腰を下ろす。

2人は良い遊びが出来たと言いたげに笑顔で話をする。

「まさか妹様の人形が、自爆技であたいのを道連れにするとは思わなかったぞ」

「ナズナちゃんの絶対無敵スーパー超凄い盾の防御を抜くには、あれしかなかったの!」

「…………」

2人はどんな人形遊びをしていたのだろうか?

遠目に見る限り、2人が人形を持ち、玩具のテーブルや食器、椅子、食材などが並べられたごく普通の人形遊びをしていたと思うのだが……。

もしかしたら最近の少女達の人形遊びはこういうモノなのかもしれない。

(農村時代、遊ぶにしても同世代は男ばかりで、女の子の遊びなんて殆ど知らないからな……)

ユメと同年代の少女達の面倒を見た覚えもあるが、外で普通に体を動かす遊びをした記憶しかない。

(もしかしたら彼女達も、自宅とかで似たような人形遊びをしているのかもしれないけど、当時あくまで村の一員としての付き合いで特別深い仲とかではないから、詳しくは知らないな……)

胸中でそんなことを考えていると、ふと気になったことを口にする。

「そういえばユメは、ナズナ以外に仲良くなった人達はいるのかい?」

「仲良くなった人? もちろん居るよ! えっと、まずね……エリー先生!」

最初にエリーの名前が出る。

「エリー先生は色々な魔術を教えてくれるから好き! 机に座ってお勉強はまだ苦手だけど……訓練所で色々魔術を使うのはとっても楽しいの!」

ユメはどうもじっと座って勉強するより、実際に体を動かす方が好きなようだ。

気持ちは分かるため思わず微苦笑を漏らしてしまう。

彼女は話を続けた。

「後はね、アオユキちゃん。アオユキちゃんは耳や尻尾を触らせてくれるから好き!」

「えぇぇ! 本当か妹様! アオユキの奴、あたいが触ると怒る癖に!」

ナズナが不満そうに唇を尖らせる。

彼女はよくアオユキを構っている。構い過ぎて、アオユキが苛立ちを募らせて反撃し、喧嘩を引き起こすことがままあった。

ナズナ的にはコミュニケーションと考えているようだが、アオユキ的にはストレスになっているようだ。

にも関わらず、ユメには無条件で耳や尻尾を触らせることが気に食わなかったらしい。

ナズナの憤慨をユメは流し、次を聞かせてくれる。

「妖精メイドさん達に、メラお姉ちゃんとスズお姉ちゃんでしょ。それにゴールドおじさんとネムムお姉ちゃんとも仲が良いよ!」

妖精メイド達は何となく理解できるが……メラお姉ちゃんとスズお姉ちゃん、ゴールドおじさんとネムムお姉ちゃんという呼び方には若干困惑を覚えてしまう。特にゴールドはおじさんという年齢ではまだないと思うんだが……。

「でも、ちょっと意外だね。スズ、ゴールド、ネムムはともかく、メラは背丈が大きくて威圧感があるから、ユメは怖がると思ったんだけど……」

メラは見た目威圧感があるが、僕に対する忠誠心が高く、言動に反して『奈落』最下層の皆を気遣い、守ろうとする意識も高い娘だ。

付き合いがまだ浅いユメは距離を取ってしまうかと心配していたのだが……。

僕の心配を余所に、ユメは瞳をキラキラと輝かせてメラについて語る。

「メラお姉ちゃんは最初、にーちゃんの言う通り大きくて怖かったけど。裾からね、モフモフの角があるウサギさんやふわふわの羽根のフクロウさんなんかを出してくれたの! 本当にモフモフで、ふわふわで、とっても可愛いの!」

「あれは可愛かったよな! あたいと妹様2人でいっぱいモフモフ、ふわふわしたよなぁ」

「ねぇー!」

どうやらメラは自身の能力――『多数の生物によって構築された体。細胞ひとつひとつが独立した生物となっている』を利用して、見た目が可愛らしく少女に受けが良い生物を選んで生み出し、ユメの歓心を買ったようだ。

他ユメと仲が良い者達の話を聞く。

「スズお姉ちゃんはユメが今まで見た人で一番可愛くて、手に持っている喋る棒がカタカタして面白いから好きなの。ゴールドおじさんは騎士で格好いいし、ネムムお姉ちゃんはよく美味しいお菓子やジュースをくれるから好き!」

「ネムムは妹様だけじゃなくて、あたいが居る時はあたいの分まで買ってきてくれるから良い奴だよな!」

2人はネムムからプレゼントされたお菓子で何が美味しかったのか話をし出す。

スズが持つ『インテリジェンスウェポン』をユメが欲しがっていると知った。一応恩恵(ギフト)『無限ガチャ』カードで『インテリジェンスウェポン』は排出されているが、渡して問題が起きた時の事を考えると流石に躊躇う。

またゴールドはともかくネムムに関しては、あまり甘いお菓子など間食をさせるのはユメの健康上問題がある。

(後でネムムにあまりお菓子を買い与えないよう、釘を刺しておかないと)と僕は胸中にメモを書く。

ネムムのお菓子問題も気になるが……この段階でユメの口から上がらない人物との関係も心配になる。

僕は恐る恐る窺うように尋ねた。

「ところでユメ、アイスヒートとメイの名前は出ていないようだけど……」

「あー……」

ナズナと楽しそうに美味しいお菓子トークをしていたユメが、話を振られて微妙そうな声音を上げる。

ユメは僕の妹だから彼女達も蔑ろにはしないし、嫌うことも無いはずだ。

なのに微妙な態度に若干驚いてしまう。

ユメは言いにくそうに感想を告げた。

「アイスヒートさんは……美人さんだけどピリピリした雰囲気がして苦手……」

「あー、なるほどね」

アイスヒートは立場上、『奈落』最下層で僕の護衛をしている。

『奈落』最下層に誰にも気付かれず入り込める侵入者など、この世に居るはずがない。

しかし、万が一に備えて彼女が護衛に付いているのだ。

護衛の立場上、周囲を警戒してピリピリしてしまうのは、仕方がない面があるが……。

ユメにそんな説明をしても、ピリピリが解消されない限り難しい。

次にメイだが……。

ユメは珍しく眉根を寄せる。

「あの人は……なんか嫌」

「嫌ってメイが? なんで? メイは優しいだろ」

「嫌なモノは嫌なの!」

機嫌を損ねたのか片頬をぷっくりと膨らませてそっぽを向いてしまう。

僕がこれ以上、何か言ってもさらに機嫌を悪くするだけだ。

ナズナが代わりにフォローしてくれる。

「妹様、メイは良い奴だぞ? たまにナズナにお菓子買ってくれるし」

「ぶぅー」

ナズナがフォローするが、ユメの機嫌は直らない。

まさかユメがこれほど一方的にメイを嫌っているとは……予想外だ。

(どこかのタイミングで2人の仲を取り持った方がよさそうだな……)

なぜユメがメイを一方的に嫌っているのか理由が分からなければ、解決のしようがない。

とはいえここで強く聞いてもヘソを曲げるだけだ。

なのでじっくり時間をかけて理由を聞き出そうと、僕は胸中で考える。

途中でユメがヘソを曲げてしまったが、僕とナズナで機嫌を取りをする。

お陰で彼女の機嫌が直り、お茶会は最後まで和やかな雰囲気で楽しむことが出来たのだった。