Shikkaku Mon no Saikyou Kenja~ Sekai Saikyou no Kenja ga Sarani Tsuyoku Naru Tameni Tenseishimashita~
Episode 207: The Most Powerful Wise Man, Seeing
それから数時間後。
俺達は謁見のため、王宮に呼ばれていた。
謁見には普通、大勢の人間が立ち会うものだが……今立ち会っている人間は、たったの5人ほどだ。
その中には、校長も含まれる。
表向きは『国防に深く関わる項目を相談するから』とのことだが、恐らく国の上層部がまだゴタゴタしているのだろう。
国王に直訴して宝物庫の武器を持ちだしたなど、前代未聞だろうからな。
そんな状況の中で報酬を出すとは、俺達はずいぶんと重要視されているようだ。
「こたびの魔族討伐、ご苦労であった。褒美に貴族位を与え、領地を……と言いたいところだが、マティアスは貴族位がいらないのであったか?」
前回に褒美をもらう時に領地をもらうという話があったが、その時に断ったのを覚えていてくれたようだ。
おかげで、領地がいらない理由を説明せずに済んだ。
……まあ要するに、面倒臭いからいらないというだけの話なのだが。
「はい。貴族として領地を治めるより、冒険者として生きたいと思います」
「そうか」
そう言って国王は、少し残念そうな顔をした。
校長の話だと、国王が俺に領地を与えたがるのは、俺を貴族にすることで俺と国のつながりを強めたいという理由があるらしい。
そんなことをしなくても、俺はこの国と仲良くするつもりなのだが。
国という後ろ盾がついていると、何かと動きやすいしな。
「では、他のものを褒美として出そう。……とはいっても、これまでの功績を考えると何を褒美に出していいのか分からん。……とりあえず先ほどルリイ達が取りに来た剣は褒美として取らすが、それだけでは全く足りん」
あの剣を返さなくていいのは助かるな。
というのも、あの魔剣は効果時間が過ぎた後は灰になってしまったので、返しようがないのだ。
もし返せと言われたら、困るところだった。
「いったん、宝物庫を見てみるか? 欲しいものがあれば、それを褒美にしよう。王家の根源にかかわるような品をくれと言われると困るのだが……大抵のものは渡せるぞ。最近手に入った飛行用の魔道具など、城が建つほどの価値があるぞ」
宝物庫か……。
前に入ったときには、あまりめぼしいものがなかったんだよな。
「王家の根源にかかわる品」というのは奥の方に大事にしまってある物のことだろうが、あれはどちらかというと象徴的な意味が強い品のようで、別に魔道具としては強くないし。
魔族を倒すのに使った魔剣のように、最近王都に運び込まれた品があるかもしれないが……掘り出し物が2つもある可能性は低いだろう。
空なら魔法を使えば自分で飛べるので、魔道具に頼る必要はないし。
俺が微妙な顔をしているのを察したのか、国王は言葉を続けた。
「今ほしいものがないのなら、ほしい品が決まった時に取りに来てもいいぞ。許可証を書こう。……あと、迷宮の権利をいくつか渡そう」
「ありがたき幸せ」
国王の提案を聞いて、俺は即答した。
宝物庫には色々と古代遺跡の産物などが運び込まれるので、もしかしたらそのうちいい物が見つかるかもしれない。
まあ本来こういう場では国王の言うままに褒美をもらうものなのだろうが、魔族対策とかで色々と国に関わっているおかげなのか、選ばせてくれるんだよな。
……この後、ルリイとアルマもそれぞれ褒美を受け取った。
宝物庫入りを直訴した件に関しては、校長の言う通りおとがめ無しだったようだ。
二人はもらった報酬を見て恐縮していたが、前の謁見で少しだけ慣れていたのか、以前に比べれば普通に対応していた。
◇
「こちらにどうぞ」
謁見から数十分後。
俺達は王宮の地下にある、宝物庫へと来ていた。
報酬はいつ受け取ってもいいと言われているが、とりあえず見るだけ見に来たのだ。
魔剣の時のように、とても貴重な魔道具がないとも限らないからな。
『うーん……あんまりパッとしないな』
『そうですね……数はけっこう増えてますけど、前からあったのと似たようなものが多いです』
宝物庫に入った俺達の第一声が、これだった。
……宝物庫の中身に文句をつけると不敬罪とかになりそうなので、通信魔法を介してだが。
やはり王宮の宝物庫は、適当にそれっぽいものを運び込んでいるらしい。
運用できれば王都を吹き飛ばせる程度の武器はゴロゴロしているが、今の世界にこれらを扱える人間がいない以上、ガラクタも同然だ。
そして、文字通りガラクタでしかないような代物も沢山ある。たとえば古代文明で使われていた、魔力を流すとカエルの人形が飛び出すおもちゃとか。
……まあ、王宮からすれば古代文明の産物は貴重品なので、ここに収蔵しているのだろう。
古代文明の産物以外にも、今の時代に作られたと思しき武器や魔道具もいくつか増えていたが……全て、ルリイであれば簡単に作れるようなものばかりだ。
まあ、材料の関係で作るのが大変なものはあるが。
そんなことを考えつつ、宝物庫の中を見ていると……気になるものがあった。
前世の俺が作ったと思しき、アダマンタイト合金製の弓だ。
『これ、ちょっと気になるな』
『この弓? ボクには重すぎるし、硬すぎると思うんだけど……。こんなのもらっても、使いこなせないよ?』
俺の言葉を聞いて、アルマがそう答える。
確かに、弓自体に関してはアルマの言うとおりだ。
だが、これが出てきた場所には興味がある。
「この弓について聞きたいんだが」
「はい。弓をご所望ですか?」
「いや、この弓自体が欲しいわけじゃないんだが……これと一緒に、矢は出てこなかったか?」
こういった古代文明の産物は、恐らく遺跡などからまとめて出土しているはずだ。
弓が出てきたということは、矢が一緒にあった可能性が高い。
普通、弓と矢は一緒に置いておくものだからな。
弓と違って、矢は強力なものでも扱いやすい。
だから探知用魔道具があった遺跡でも、矢は持って帰ってきた。
この弓と一緒に出てきた矢が手に入れば、アルマの戦力をかなり強化できると思ったのだが……。
「確かにこの弓があった場所では、矢も一緒に出土していますね」
「その矢はどこに行った? この宝物庫にあるのか?」
「残念ながら、矢は錆びていまして……宝物庫に収蔵する価値のある品ではないと判定されてしまったと思います」
なるほど。
カエルの人形が飛び出すオモチャは宝物庫に収蔵する価値があって、魔力や密度などの観点から矢を作るために最適化された金属でできた矢は、宝物庫に収蔵する価値がないのか。
……せめて宝物庫管理人に第二学園生がいれば、矢の価値に気付けたかもしれないのに。
「ちなみに、その矢はどこに行ったんだ? まさか捨てたわけじゃないよな?」
「錆びた矢など使い道もないので、金属屋に売られていったはずです。よく分からない金属だったので値段は安いと思いますが、恐らく引き取ってはもらえたのでしょう」
古代遺跡から出てきた正体不明の金属を、売り飛ばすなよ……。
そんな言葉を飲み込みながら、俺は宝物庫管理人に礼を言う。
「……ありがとう。参考になった。ちなみに矢を買ったのはどこの金属屋だ?」
「王宮から出た金属は、全てイシス商会が買い取っているはずです」
イシス商会というと、王都にある有名な商会だな。俺でも名前を知っている。
……あとでイシス商会を見に行ってみるか、使える金属が、ゴミ同然の扱いを受けているかもしれないし。
そんなことを考えていると……宝物庫管理人が、一つの魔道具を持ってくる。
「こちらが国王様の仰られていた、飛行用の魔道具です」
そう言って差し出されたのは、これまた古代遺跡から掘り出されたと思しき飛行補助魔道具だった。
形からして恐らく、前世の時代の軍で使われていたものだろう。
そう推測を立てている俺の前で、宝物庫管理人は魔道具について説明する。
「王国の研究班による調査の結果、この魔道具は最高到達高度300メートル、最高時速60キロで20分間の連続使用が可能だということが分かりました。魔族との戦いに役に立つかもしれません」
確かに、今の時代で製造可能な飛行用魔道具とは比べものにならないほど性能がいい。
この魔道具は恐らく、世界最高峰の飛行用魔道具として扱われるのだろう。
航空偵察や飛行による移動があるとないとでは、できることの次元が違ってくるからな。
この魔道具は、今の世界での国宝に相応しい。
だが……。
「いや、遠慮しておく」
俺は飛行用魔道具をくれるという申し出を断った。
実のところ、この魔道具の飛行速度は、今の俺に比べてもそう遅くはない。
自分で魔力を使わず、魔道具任せで飛べるのなら上出来だろう。
だが、この飛行用魔道具には致命的な問題点が二つある。
一つは、飛行中は無防備だということ。
この魔道具は空中戦闘より移動に主眼を置いて設計されているのか、急ブレーキや急旋回ができない仕様になっている。
これで飛んでいたら、敵からすればいい的だ。
もう一つは、この魔道具の重さだ。
いちおう魔道具なしでも運べるように、重さは40キロくらいになっているようだが……それでも十分重い。
こんなものを背負って歩く気はないし、収納魔法に入れて運ぶにしても40キロは重すぎる。
「これは俺じゃなくて、騎士団か冒険者に持たせたほうがいい。俺は自分でも飛べるからな」
これも、本当のことだ。
第一学園や第二学園でまともな魔法教育が始まった以上、これから騎士団や冒険者のレベルは飛躍的に上がるだろう。
優秀な卒業生たちに強力な魔道具を持たせられれば、魔族への対応力もだいぶ違ってくる。
「分かりました。ご配慮に感謝します!」
俺の答えを聞いて、宝物庫管理人がそう礼を言った。
……俺はただ使う気がないものを報酬として渡されるのを断っただけなのだが。
◇
こうしてしばらくの間、魔道具の説明が続き……最終的に俺達は、宝物庫から何ももらわずに帰ってきた。