前世で俺とザドキルギアスが戦った頃、まだ俺は若かった。

純粋な戦闘技術では、まだザドキルギアスの方が上だったくらいだ。

そのため、正面から普通に戦ったのでは、勝つのは困難だった。

そこで開発したのが、この『共振剣』だ。

俺の魔法はことごとく回避され、俺の剣はことごとく受け止められる。

だが、俺の剣を受け止めるザドキルギアスの体自体は、そこまで頑丈ではない。

だからこそ、あえて剣を受け止めさせることで体を壊せる『共振剣』が、非常に有効だった。

いわば『共振剣』は、ザドキルギアスのように技に特化した魔族を殺すために特化した魔法なのだ。

「……まさか今の世界で、その魔法を使う者と出会うとはな」

ザドキルギアスはそう言って、先ほどまでより少し距離を取った形で俺と対峙する。

失格紋相手には、距離を取るのがセオリーだ。

特に『共振剣』のせいで斬り合いを避けたいザドキルギアスとしては、遠距離での魔法戦闘が最適解となる。

だが、それはイリスがいなければの話だ。

俺から距離が離れるということは、イリスが攻撃しやすくなるということでもある。

『離れました! やっちゃいますね!』

俺とザドキルギアスの距離が離れたのを見て、イリスは爪を振り下ろした。

先ほど俺が距離を詰められたのも、イリスがザドキルギアスを強制的に跳ばせたからだ。

それを、もう一度やろうというわけだ。

ザドキルギアスはそれに対して、あらかじめ空中に結界魔法を展開し、足場とすることで回避した。

先ほどよりも距離があるので、それで間に合うという訳だ。

だが――それでも結界魔法を展開する瞬間、わずかに隙はできる。

技術の問題ではなく、単純な魔法出力の問題だ。

攻撃を当てられるレベルの隙ではないが――距離を詰めるくらいはできる。

その隙を利用して、俺は近距離戦という状況を作り出す。

「……面倒な手を」

俺が『共振剣』を付加しながら振る剣を、ザドキルギアスが自分の剣で受け止める。

すると――剣と剣がぶつかりあう直前で、俺の剣が後ろへと跳ね返された。

――『反射撃』。

剣から大量の魔力を一気に放出し、その圧力によって敵の剣を瞬間的に弾き返す魔法だ。

敵の剣にどんな魔法が付与されていようと問答無用に弾き返すこの魔法は、近距離での斬り合いにおいて無類の強さを誇る。

生半可な剣の使い手であれば、剣を弾かれた隙にとどめを刺せるくらいだ。

前世の世界では、この『反射撃』のせいで、剣に付与するタイプの魔法が軽視されていた時代すらある。

だが、それだけ強力な魔法が、何の代償もなしに使える訳がない。

この『反射撃』は大量の魔力の圧力で剣を吹き飛ばす、ある意味単純な魔法だ。

だからこそ他の魔法の影響を受けにくい訳だが――その代償として、この魔法は瞬間的に大量の魔力を放つことを必要とする。

『反射撃』に必要な魔力を瞬間的に放出することができる者は、失格紋を持った剣士の中でも、特に頑丈な魔力回路を持つ者か、ザリディアスすらはるかに超える力を持つ、超高位の魔族だけだ。

それ以外の者がどうするのかというと、あらかじめ剣に魔力を溜めておいて、必要な時に放出することになる。

その魔力を溜めるための魔法負荷が大きいせいで、『反射撃』の使い手は、平行して他の魔法を発動できなくなるという訳だ。

それに対して俺は、『反射撃』に比べればはるかに発動の簡単な『共振剣』の魔法負荷だけで戦える。

つまり、余力で攻撃魔法を撃てるという訳だ。

「……これも避けるか……」

攻撃魔法を織り交ぜながら『共振剣』で攻める俺の攻撃を、ザドキルギアスが何とかさばく。

『反射撃』を使わざるを得ない状況で、その負荷に耐えながら攻撃をさばくのは難しいはずだが――上手く避けるものだな。

そう考えていると、ザドキルギアスが俺の剣を弾き返しながら口を開いた。

「貴様……技術だけなら、前世の私を殺した奴より上だな」

前世のザドキルギアスを殺した奴って……俺のことか。

確かに、あの頃よりも今の俺は、だいぶ魔法技術が上がっているからな。

今考えてみれば、あの頃の俺はなかなかお粗末な戦闘をしていたものだ。

……とはいえ、当時でも俺はすでに80歳くらいだったので、魔力や魔力回路は今とは比べものにならないほど強かった訳だが。

そう考えつつ俺は答える。

「そうか。じゃあ今回も、お前は死ぬんじゃないか?」

「そうはならない。いくら技があろうとも、絶対的な力の差というのは覆しがたいものだよ。……実際、これだけやって貴様が私に傷を与えられたのは、最初の――『共振剣』の不意打ちだけだ」

そう話しつつ、ザドキルギアスは反撃の隙を窺っている。

いまザドキルギアスが話をしているのも、俺の戦闘のペースを乱すためだろう。

戦闘慣れしていない者だと、言葉を発する時に呼吸のペースがわずかに乱れ、隙ができることがある。

それを狙っているのだろうが――残念ながら、俺には無意味だ。

もしかしたら、前世の80歳の頃の俺には通じたかもしれないが。

「……貴様、何歳だ? その魔法技術に、底知れぬ剣技の腕――子供とは思えんな。私と同じ『転生者』だったとしても驚かないくらいだ」

俺に隙ができないのを見て、ザドキルギアスがそう呟いた。

どうやら、正体を当てられてしまったようだ。

まあ正体を知られたところで、対処などしようがないのだが。