「皆さん、とても楽しみにしていますものね」

「ああ、だからこそ、いい思い出になるように東奔西走しているわけさ」

生徒たちの期待を一身に背負って、生徒会の人たちはこうして毎年やつれながら頑張っているのね。それは確かに回復魔法だってかけて欲しいところかも知れない。

「もしかして、それで調べ物を?」

レオさんの腕に山と積まれていた本を思い出す。私に負けず劣らずのその量は、普通に本を読んだり勉強したりするには異常な量だったから。

「ああ、今日は提供する料理について調べてたんだ」

「料理! 毎年とても豪華ですものね。紅月祭はまだ三か月も先ですのに、カーラさん達ったらお食事は何だろうって今から楽しみで仕方ないみたいですわ」

思わず彼女たちの期待に満ちた目が思い出されて、一人、ふふっと笑みを溢してしまった。

「メインのお料理も楽しみみたいですけれど、女性陣はとりわけスイーツのお話になるともう、止まらないくらいに盛り上がるんです」

ケーキがいい、フォンデュがいい、コンポートがいい、いやいや会場は熱気が凄いからアイスがいいともう好き放題に話しては期待に満ち溢れた目で夢見るようにふんわりした顔をしていた。

重たいくらい、期待っぷりだと言える。

「うわ、それは一層頑張らなきゃだな。男連中は酒にうるさいし、ホントに頭が痛いよ。ただ俺は会計担当だからね、いいものだからってあまり金をかけすぎるわけにもいかない」

「そうですわね。会場の設営にも見世物を呼ぶにもコストがかかりますものね」

その上この学園の全生徒数は三百人を優に超える。その人数を賄えるだけの食事をただ用意することだって大変なはずだ。

「実際、毎年一番金がかかるのは食事なんだよな。でも、貴族でもない一般生徒は滅多に食えない豪華な食事やデザートが一番の楽しみだからな」

珍しい、うまいものを食わせてやりたいんだよ、と笑うレオさんの気持ち、痛いほどわかる。

レオさんには身分性別問わずでお友達がたくさんいらっしゃるから、特にそういう気持ちが大きいんだろう。もちろん個人的にも食事だけは手を抜いて欲しくない。

テールズで食事を届ける度に、クタクタでよろよろしながら入ってくるお客様達がおいしいご飯を食べるだけで元気になって酒を酌み交わし、笑顔になるのが嬉しかった。

カーラさん達とケーキを食べた時、たった僅かな仕掛けがあるだけで、食べたケーキが何倍も美味しく感じた。

きっと、パーティーで出る食事が楽しくて美味しくて心に残るものならば、記憶にだって一生残るに違いない。

「レオ様、実は」

私は、レオ様にブルーフォルカのケーキの事や、テールズで見た変わった食材の事を一生懸命にお話しした。

あれは滅多に手に入らないものだと言っていたし、流通にも時間がかかる。という事はコストもかかる。紅月祭の時期に手に入れるのは無理かも知れないけれど、人を楽しませるアイディアや珍しい食材のヒントくらいにはなるだろう。

わずかでも、考える参考になれば。

そんな気持ちだった。

なのに、相槌を打ちながら聞いてくれていたレオ様の顔が、段々と眉根がより、真顔になっていく。

こんなに真剣な表情、かつて見たことがない。

訪れた沈黙に、私は徐々に焦ってきた。