Shinario-dōri ni Taijō Shita no ni, Imasara Nan no Goyōdesu ka?
I knew you hadn't noticed.
馬車の窓から入る灯りすら辛いのかもしれない。
狭くて足を折っている体勢が苦しそうにも見えるけれど、それでも体を横たえるほうが、まだ体調が悪い時にはマシかもしれないし。
大丈夫かしら……心配で、レオさんの額にそっと触れてみようとした時だった。
「ごめん、本当は体調が悪いってわけじゃないんだ」
目のあたりを左腕で隠したまま、レオさんが気まずそうに告げる。
「クリスちゃんがあんまりコーティ様、コーティ様って言うから、ちょっと悔しくてさ。なんか甘えたくなっちゃった」
「ええ!?」
「後でしっかり怒られるから、もうちょっとだけこのままでいさせて」
「な、なんですか、もう……心配させて」
「ごめん」
心配していただけに、拍子抜け感が激しかったけれど、こんなに素直に謝られてしまっては眦をつりあげて怒るわけにもいかない。
所在なくレオさんの顔を見下ろせば、腕の下の頬は少し赤くほてっていた。
「……出会った頃からしたらクリスちゃん、考えられないくらい活動的になったし……市井官を目指して色々と活動の幅を広げてるのは、すごくいいことだと思ってはいるんだけどさ」
珍しく歯切れ悪く、レオさんが小さな声で語り始める。
「クリスちゃんの周りには今、すごくたくさんの人が溢れててさ、正直クリスちゃんに気があるんじゃないかと思えるヤツも結構いるんだよ。気が付いてないかも知れないけど」
「絶対にないですって、そんなこと」
力強く言い切ったら、レオさんは急にバッと起き上がって、私のほうにズイッと詰め寄って来た。
「ほら、やっぱり気づいてない。クリスちゃんはさ、そういう部分での警戒心がめっちゃ薄いからさ、俺はもう気が気じゃないわけ」
「ち、近いです……!」
「心配なのに遠征が多くて傍にいられないしさ。やっと帰って来て城まで探しに行ってみれば、クリスちゃんはコーティさんとめっちゃ仲良さそうだし」
「だから、そんなに仲良くないんですってば」
「オーズさんもこの前話したとき、しきりにクリスちゃんのこと褒めてて、『うちの息子の嫁に欲しい』って言ってたし」
「そんなの、私、聞いたこともないですもの。レオさん、からかわれてるだけなんじゃ」
そういえばコーティ様も意地悪したくなるって言っていたような。
レオさん、テールズのお客様にもよくからかわれてるし、オーズさんたら余計なこと言うのやめて欲しい。
「そうかも知れないけど……さっきも言ったけど、クリスちゃんは警戒心が薄すぎる。世の中、悪いやつもクリスちゃんを狙ってるやつもいっぱいいるんだからね? ちゃんと気を付けてね」