「今なんと・・・?」

セレナ様の言葉に俺は思わずもう一度訪ねていた。

あの花壇にいた金髪の少年がこの姫様の弟で、乙女ゲームのメインの攻略対象?マジで?

確かにどこかで見たことがある容姿に思っていたが・・・

「弟があなたにお礼を言いたいと言っていたのを聞いて驚きましたわ。もしかして攻略対象と分かって優しく接したのかと思いましたが・・・完全なお節介だったのですね」

「王子の顔を今一つ覚えてませんでしたので・・・確かに城にいるから貴族の子供ではあるだろうとは思いましたが・・・にしても、何故お礼を?」

特に何かした覚えもないのでそう聞くとセレナ様はどこか優しい表情で言った。

「あなたに貰った言葉のお陰で自分に出来ることが見つけられたと言ってましたわ。弟はずっと、優秀な兄である第1王子と比べられて育ってきましたから。にしても、あなたは本当に意図せずにあの子を慰めたのですか?」

「いや・・・まあ、悩める若人を導くのが先人の役目ですから」

「一体あなたは何歳なのよ・・・」

クスリと笑いながらそう言った彼女。にしても、あれが攻略対象の王子だったとは・・・いや、なんとなく成長した立ち絵を知ってはいるけど、マジで気づきませんでしたよ。

「まあ、私としては大人として当然のことをしたのでお礼は不要ですよ。子供を見守って導くのが私達大人ですからね」

「ふふ・・・ますます、私好みです。どうです?奥さんと別れて私の旦那になるというのは?」

「はは、冗談でも無理ですな。私は妻一筋ですので」

「あらそう・・・残念ですわ」

ちっとも残念そうではない表情のセレナ様。まあ、本気ではないのだろうが・・・この雰囲気から察するにこの子もなかなか前世で年齢を重ねたのだろうと思えた。

「要件が以上なら早めに娘の元に戻った方がいいですよ。ローリエに心配をかけるのあなたとしても心苦しいでしょう?」

「そうですね・・・まあ、他にも話がないわけではありませんが、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「あなたは・・・乙女ゲームのシナリオを知っても、娘を・・・悪役令嬢を守りますか?」

そう問いかけるセレナ様の目は真剣だったが・・・俺はそんな当たり前の質問にクスリと笑ってから言った。

「娘の幸せを願わない父親がいると思いますか?」

「場合によっているでしょう?」

「まあ、否定はしませんが・・・少なくとも私は一人の父親として娘の破滅を願うことはしませんよ。娘が心から好きな人と一緒になって、笑顔で幸せだと言えるようにする・・・まあ、家族を愛するのに理由はいりませんからね」

そう言うとセレナ様は満足げに微笑んだ。

「なるほど・・・わかりましたわ。では、また詳しくお話をできる機会を楽しみにして本日は失礼させていただきます」

「ええ。娘とは今後も仲良くしてくださると幸いです」

「ふふ・・・ローリエさんは優しくて可愛いので、もちろんですわ。あ、そうだ・・・今度、私の家族のためにお菓子を作ってくれませんか?」

「構いませんが・・・あなたも前世の知識があるなら多少は作れるのでは?」

そう聞くとセレナ様は首をふって言った。

「残念ながら、その手のことは不得手でして・・・裁縫などでは知識チートを使えても料理となると全くなのです。今度奥さんとローリエさんのために服を作ることと交換条件でもいいのでどうでしょう?」

「・・・まあ、構いませんが。この世界で作れるものは限られるのであまり期待はしないでくださいね」

「前のお茶会レベルのお菓子を作れるだけでも十分ですわ。ではお願いしますね」

そう言ってからセレナ様は今度こそ部屋を出ていった。

なんだか奇妙な話になったが・・・服のセンスに自信がないので、セレナ様がどのくらいのレベルで服を作れるのかはわからないが、少なくとも前世の知識をいかせるならそこそこ期待できるだろう。

可愛い二人に似合うドレスの対価として俺のお菓子で済むなら安いものだろう。

まあ・・・少なくとも今のところは、俺の家族の障害にはならなそうなので、とりあえず放置しても問題ないだろうと、思いつつ俺は仕事に戻ったのだった。

途中で、サーシャとローリエの着飾った姿を想像してニヤニヤしていたのは傍目から見たら気持ち悪いことこの上ないだろうけど・・・想像してみてそういう微笑ましい気持ちになるのは夫として、親として当然だろう。