「えい!やぁ!」

緑髪の男の子が小さな木刀で必死に素振りをしている。それを見ながら俺は声をかける。

「そうだ、その構えを忘れるな。疲れてきたら一度基本の構えを取れ」

「はい!」

男の子・・・俺の教え子であるビクテール侯爵家のマスク・ビクテールはその言葉を微塵も疑わず木刀を振る。

本日はビクテール侯爵家へと来ていた。目的はビクテール侯爵の子供であるマスクに剣術を教えるためだ。まあ、自分からしょいこんだ厄介事とはいえ投げだすのも違う気がしたので律儀にこうして教えにきたのだ。

いやー頭にきてやったことではあるけど、他人に剣術を教えるというのは結構難しいと心から思う。知識はあるとはいえ、まだ体が成長しきらない子供にどこまで無理をさせずに稽古をつければいいのか?それを考えて考えてとりあえず形から入ることにした。まあ何事も基礎や見た目から入ることが近道。地道にコツコツかな?

基礎的な知識を簡単に仕込んでから体を作る。最初は無理をさせずに出来ることをさせる。そういう方針に決めたのだ。

「ししょう」

「ん?どうかした?」

しばらくして休憩を取らせるとマスクは俺にそう呼びかけてきた。ちなみに師匠と呼んでいるのは俺が最初に冗談半分で「師匠と呼べ!」みたいなことを言ったから律儀に守っているのだろ。いや、特に深い意味はないんだけど、なんとなく『先生』より『師匠』の方が剣術を教えるにはふさわしい気がしたからだ。ちなみに俺はこの子のことを名前で呼んでいる。教え子なので流石に"くん"とか"さん"つけは違う気がしたからだ。まあ、他の貴族はいないのでこの子が問題ないなら大丈夫だろう。

「ぼくもししょうみたいにつよくなれますか?」

「それはマスクの努力しだいだよ」

「ぼくの・・・」

「そう、強くなりたいなら自分が頑張るしかない。マスクには大切なものはある?」

そう聞くとマスクは首を横に降って言った。

「・・・わからない」

「そうか。じゃあ、マスクは仲が良い人はいるかい?」

「えっと・・・じじょのめりーとはなかよし」

ちゃんと仲良くしている人がいることに少しほっとする。しかし侍女のメリーか。

「もしかしてそこにいる人かい?」

俺が指さす先にマスク用のタオルを持ってきた女性がいるのでそう聞くとマスクは頷いて言った。

「うん!めりーはむかしからなかよし!」

「マスク様・・・光栄です!」

マスクを見て頬を染めながらその言葉に感激する侍女のメリーさん。年齢は多分10才くらいだろうか?俺の視線を受けて彼女は気を取り直したのか淑女の礼を取って言った。

「お初にお目に掛かります。ランドル子爵家のメリー・ランドルです。今はマスク様の専属侍女をさせていただいております」

「ランドル子爵のご息女でしたか。はじめましてフォール公爵家のカリス・フォールです」

貴族の中には社会勉強のために奉公として格上の貴族の家に行き、侍女などをするところもあるそうだが、おそらく彼女のランドル子爵家がそうなのだろう。

「存じております。それとありがとうございます」

俺の挨拶にそう頭を下げるメリー。俺は特に思い当たることがないので首を傾げて聞いた。

「お礼を言われることは何もしてないと思うのですが?」

「いいえ、言わせてください。あなたはマスク様を救ってくださいました」

そこできゅっと唇を噛みしめながら彼女は言った。

「この家の者は誰もマスク様を助けようとはしませんでした。あの忌々しい下衆の行いをよしとしてマスク様を見棄ててました。私にもっと力があればこんなにマスク様を苦しめずに済んだのに」

「めりー・・・」

その言葉にマスクはメリーの手を握ってから言った。

「めりーはなにもわるくないよ。ぼくがよわいからだめだったんだ」

「そんなこと!マスク様はお優しいから・・・」

「ううん、ちがうよ。ぼくがわるいんだ。だからこんどはめりーをぼくがまもれるようになる!」

「マスク様・・・素敵です!」

何やらイチャイチャしはじめた子供達に俺は若干苦笑してから言った。

「いい雰囲気を壊したくはないが、そのためには私の授業をしっかりと受けないとね」

「うん!やります!」

「マスク様!頑張ってください!」

何やらマスクにラブコールを送るメリー。ショタコンというほどの年の差はないがメリーからマスクへの感情はあきらかに主従愛を超越しており、明らかに男女のそれなのできっと遠くないうちのこの二人は結ばれそうだなと他人事ながら思ったのだった。まあ、攻略対象だからというわけではないが、この子が誰かと幸せになれるならそれはいいことだと思うので、応援しよう。