「サーシャ、頑張ってくれ・・・!」
サーシャの手を握りながら俺は根気強くそう言葉をかける。流石に2回目の出産となると屋敷の人間も色々手慣れているし、サーシャも前の出産よりは楽ではあるが、やはりひとつの命を産み出すというのはかなり精神的にも体力的にもくるものがあるのだろう。
分娩用に作ってあった部屋をサーシャのためにさらに改装したので前より寝心地は悪くないだろうが、それでもサーシャは痛みに耐えながら健気に笑顔を浮かべて頷いた。
「大丈夫です・・・前より痛みはありませんし、旦那様が側にいてくださるので安心してます」
「サーシャ・・・大丈夫。私は側にいるからね」
「はい・・・」
前世の記憶でも、カリスさんの記憶でも出産の立ち会いの記憶はない。だからこれが俺にとってはじめての出産になるが、少しでもサーシャの助けになるなら俺は何でもするつもりだ。
国よっては夫でも出産の立ち会いをマナー違反とする国もあるようだが、この国にはそういったものはない。だから俺はサーシャの側に張り付いていられるのだ。仕事は後でも片付けられる。ローリエも先ほどまではここにいたが、授業の時間なのでそちらに向かわせた。まあ、母上もこちらとローリエを交互に見ててくれるので俺は安心してサーシャに集中できる。
そうして何時間かサーシャが粘っていると、ふいにこわばったサーシャの体から力が抜けて見ればそこには赤ん坊を抱えた専門医のばあさんがいた。
「産まれましたよ。女の子です」
「よしーーー」
俺はその言葉にサーシャの手を握りつつ内心でガッツポーズをとるが、その前にもう一人の専門医が言った。
「あ、まだもう一人いますね」
「は?も、もう一人?」
「ええ、双子みたいですねー」
はっはっはーと笑う専門医。え?双子?マジで?確かに双子ってこの時代レベルじゃ産まれてこないとわからないけど・・・えっ?マジで?双子なの?
混乱する気持ちをなんとか整理して俺はサーシャの手を握ってから言った。
「サーシャ、もう少しだけ頑張ってくれ・・・!」
「はい・・・」
健気に笑うサーシャの手を優しく握りつつ俺はそれからも何度もサーシャを励ます。やがて二人目も無事に産まれてきてから専門医の先生は笑顔で言った。
「おめでとうございます!双子の女の子と男の子ですね」
そこには専門医に抱っこされた産まれたての俺の子供が二人いた。そう、俺の子供だ。ローリエももちろん俺の子供だが、俺が俺の体験ではじめての自覚する俺の子供。自分でも何を考えているのかわからなくなるが俺は思わず涙ぐみながらサーシャの手を握って言った。
「ありがとうサーシャ・・・私達に新しい家族をもたらしてくれて本当にありがとう・・・!」
「はい・・・」
そこでサーシャも涙ぐんでいることに気がつく。思わず抱きしめたくなるが、まだサーシャはやることが残っているので俺は大人しくサーシャの手を握ってこの幸せを味わうのだった。