「うーん・・・」

書類を見ながら俺は唸ってしまう。他国の貴族との交流を広げるために他国に赴かなければならないのだが・・・行き帰りの時間を計算するとどうしても時間がかかってしまうのだ。

「よし、見なかったことにしよう」

「よくありませんよ。カリス様」

「ジークよ。家主が長く家を開けるわけにはいかないだろう?」

「何年もかかるわけではないので大丈夫でしょう」

堂々とそんなことを言ってくれるジークさん。良くないの。こんな大事な時期に家を開けるなんて絶対ダメなのだ。

「奥様なら当分は大丈夫でしょう。お嬢様方もとても賢いので問題ありません。そして使用人も皆誇りあるフォール公爵家の使用人にふさわしくなりました。何の問題があるのですか?」

「全部だよ。そもそも私がサーシャ達を残して仕事を優先するなんてあってはならないのだ」

「とはいえ、こちらとしても大切な時期。それに今回はセリュー殿下の護衛という任務があります。簡単には断れないでしょう」

まあ、確かに理屈ではわかるよ。でもさ、わざわざ俺が護衛につく必要あるの?いや、理由はわかるけどさ。

「社交性に、護衛として最高の戦力、そしてセリュー様との親睦も深いカリス様が選ばれるのは当然のことかと」

「普通に騎士団使えばいいのにね」

「まあ、陛下としては不穏分子をこの際一掃したいのでしょう」

「そんなの数えたらきりないのにねぇ」

もはや俺ですら敵と言っても過言ではない。セリュー様が国を変えるならつまりはそういうことだろう。

「とにかく、カリス様でしたら走れば馬車より速いでしょう。お早く片付けてきてください」

「お前は私のことをなんだと思っているんだ?」

流石に馬より速くは・・・出来なくはないのか?トップスピードを維持出来ればもしかしたら速いかもしれないが、そんな真似をすれば間違いなく人としての道を踏み外しそうだから止めておこう。

「はぁ・・・ジーク。エマージェンシーモードだ。屋敷の第二級警戒モード」

「第二級ですか?そこまでしなくても・・・」

「念のためだ。私の留守の間にサーシャやローリエにもしものことがあれば承知しないからな」

「心得ました」

ため息をつきたくなる。出張というのがこんなに嫌なことだとは。まあ、第二級なら100%軍隊が押し寄せても家族は守れるだろう。他の貴族が来てもお引き取り願うので、サーシャやローリエには危険はない。あとはセリュー様のお守りを早く終わらせることだが・・・まあ、あの少年は賢いから用件は手短に済むだろう。

そんな感じで俺は嫌々ながら早く出張を終わらせるために頑張るのだった。