Status Meister
Episode 21 Bath
戻ると、ミリアが釜の前で膝を抱えて丸くなっていた。
「ただいま。どうしたの、ミリア?」
声を掛けるとビクっとして、顔を上げてこちらを見る。どうやら今まで泣いていたようだ。
「くすん、わ、わたしには、出来ないです」
「え? お任せくださいって言ってたよね? 何で出来ないの?」
火の威力が弱かったし、分かってはいたことだけど、少し強めに言ってみることにする。
責任感の強いミリアのことだ。傷付くかもしれないが、厳しく行くと宣言したのだから、我慢だ。
「だっでぇ……ひっぐ、まほーのいりょぐがだりないんでずっ」
「威力が弱いからって、そうやって丸まってるだけなの? 何とかしようとしなかったの? 見た感じ、まだ精神力の半分も使ってないようだけど?」
▼ミリア・ウェール Lv.7 魔術士 Rank.E
HP:104(54+50)
MP:84(99+50)
「ばがりまぜえん……そんなごど言われでも、わがりまぜん」
「泣いてどうにかなるものじゃないよ? 俺厳しく行くって言ったでしょ? ほら。立って」
「うわあああん!」
手を引いて立ち上がらせたら、また泣き始めてしまった。ものすごく心が痛い。でも、経験しないと分からないことなんて、これからいくらでもある。
ひとまず、魔法の使い方を教えてみよう。詠唱なんて知らないから、感覚でしか教えることはできないけど。
そうやって後ろから抱き込む感じで、両手を前に出して、魔法を撃つ恰好を取らせる。
「いいか、ミリア? 目を閉じて、俺の言う事をちゃんと聞くんだよ?」
「うん……」
ガチ泣きしたせいだろうか。いつもなら、はいって答えるのに、受け答え方が変わってる。
本当の素ミリアは、こういう素直なキャラなのかもしれない。
「まずは前に伸ばしている手の指先に意識を集中して、自分の血液の流れを感じるんだ」
「うん、流れてる」
「その血液が腕から指先に行って、また腕に戻るんじゃなく、指先からそのまま前に出るようイメージしてごらん」
「怖いよ……」
「大丈夫。俺がついてるから。ほら、やってごらん? そして、次はその血液を、血ではなく炎としてイメージするんだ」
「本当だ。私の手から炎が出てる」
「そう、その炎はミリアが力を込めると、どんどん大きくなる。そしたら、どう? 炎が釜全体を覆ってないか?」
「釜が炎に包まれてる」
「すごいね。どんどん釜が赤くなって発熱していくよ?」
「ほんとだ。赤い。熱そう」
「手はそのままだよ。いいか、ミリア? 目を開けてごらん?」
「わぁ!」
目を開けたミリアが驚く。
釜が炎に包まれ、真っ赤に加熱され、中に入っていた水は沸々とお湯になっていた。
「これ、わ、私がやったんですか?」
「うん、そうだよ? よくがんばったね」
そのまま後ろから抱きしめて、頭をナデてあげる。
「途中、素のミリアが出て、かわいかったよ」
「だって、タカシさんが怖くなったと思ったら、突然優しくなったんだもん」
「俺はいつだって優しいよ? だから、いつでも素のミリアで接してくれて良いよ。素直ですごくかわいかったから」
「恥ずかしい……それより、お風呂に入るんじゃないんですか?」
おっと、そうだった。ミリアを抱きしめるのに集中してて忘れてた。とりあえず、持ってきた階段を置いて、湯温を確かめよう。
――ドスドスドス。
丸太の階段を上り、釜の中の温度を確かめる。沸々してたから熱すぎないか心配したけど、ミリアを堪能してる間にちょうど良い温度になったようだ。
ついでに中敷きも沈めておこう。
――バシャバシャ。
あとはそうだな。脱衣所が欲しいな。土魔法でも試してみるか。
両手を前に出し、丸太階段を挟んで釜の反対側に固い土で出来た小さな部屋をイメージする。
――ズズズズズズ。
おお。良い感じだな。
さすがに土のドアなんて付けられないから、前と後ろにミリアが通れるくらいの穴を作ったが。
「さぁ、ミリア。風呂に入ろう」
「はい。では待ってますね」
「は? 何言ってんの。ミリアも一緒に入るに決まってるじゃん」
「えぇ!? 嫌ですよ! お風呂なんて入ったことないから、入り方分からないですし!」
お風呂に入ったことがないなんて、知らない人が聞いたら爆弾発言だろう。この世界では普通のようだが。
「大丈夫。俺が教えてあげるから」
「うぅ……それでも裸になるのは嫌です!」
「じゃあ下着で良いよ。はい、こっちにきてね。そうそう。はい、じゃあ紐を解くねー。はい、次は手を上げてねー」
「な、何ですか!? え、ええ!? きゃ、きゃああああ!」
周りに人が居ないことを確認し、ミリアを小屋に引き入れて、服の前にあるボタン代わりの紐を解き、バンザイさせたところで、スカートから一気に捲り上げて脱がす。
「な、なななな、なな!」
上と下を手で隠しながら下着姿でもじもじしてる。そんなミリアを見ながら、俺も鎧を脱いで、パンツ一枚になる。
「さ、行こうか」
「きゃ、きゃあああ! やめて! やめてぇ!」
ミリアをお姫様抱っこをして、小屋から出て、階段を上る。下着姿だからだろうか、前みたいにバタバタしないのは偉い。
湯の中に足先だけ入れて温度を確認してから釜に入り、あうあう言っているミリアをそっと湯船の中に下ろしてあげる。
「ふぃぃ。気持ちいいなぁ」
「うぅぅ……エッチ……」
「特訓をサボって丸まって泣いていたバツだよ」
「も、もう! でも! ちゃんとお湯にしたじゃないですか!」
「水を用意したのは俺だし、魔法がうまく使えなくて泣いているミリアに、ちゃんとした使い方を教えてあげたのも俺だよね?」
「いじわる……」
そうやってミリアを後ろ向きに抱っこし、俺が背もたれになるよう体重を掛けさせる。
「ふぁぁぁ」
「ね? こうやると体が伸ばせて気持ちが良いでしょ?」
「え? あ、あぁ、はい。変な声出ちゃいました。ものすごく恥ずかしいですが、確かに気持ち良いですね」
「やっぱりお風呂は良いね。一日の疲れが吹き飛ぶよ。次からは石鹸とかも用意しないとなぁ」
「また石鹸とか贅沢品を……思ったんですが、風呂といい、石鹸といい、タカシさんは貴族なんですか?」
「違うよ? 普通な両親の下に生まれて、平凡な人生を歩んでいた、エッチなだけの男だよ」
平均より少し少ない年収の親の元に生まれた、ごく普通の一般人なのは間違いない。
「歩んでいた。って過去の話で、今は違うっていうんですか?」
「うん。だってこうやって、好きな人と一緒に風呂に入れるなんて、まるで夢のよう話が実現しちゃったからね。もう普通の男じゃない。羨まれる男になっちゃった」
「またそうやって歯の浮くようなことを言う……でも少しだけ分かる気がします」
いつもみたいに、うぅとかあぅとか言わないな……しかも分かる気がするって、つまりそういうことだよな。
「お? ミリアとの心の距離がまた少し近づいたのかな?」
「もう! 慣れただけです。でも、そうだといいですね。ふふ」
石鹸などがないので体を洗うのは明日以降にすることにして、そんな他愛のない話をしながら、お風呂のみを楽しむ。
「そうだ、ミリア。さっき教えた魔法の使い方、ちゃんと覚えた?」
「何となくですが、覚えました」
「どんな魔法で、威力はどの程度か、それを使うとどんな効果があるか、要はね、イメージすることが大事みたいなんだよ」
「はい。イメージイメージ」
――ボウッ!
ミリアの指先に小さな炎が出る。
「こんな感じですね!」
「そうそう。でもこの方法は正規の方法じゃないかもしれないから、人に言っちゃダメだよ? 後、時間を見つけて練習すること」
「はい、分かりました。イメージイメージ」
――ピューッ!
今度は水鉄砲のように水が前方に飛んでいく。
――サーッ!
今度は涼しい風だ。風呂にはぴったりだな。
あ、そうだ。1つ確認しておかないといけないことがあったんだよな。
MPが尽きたら魔法がキャンセルされるのか、そもそも使えないのか。ちょうどミリアのMPが少ないし、試してもらうか。
MP:8(99+50)
「ミリア、今の風気持ち良かったよ。もう一度長めに使ってくれる?」
「はい! どうですか? きもちっ……」
――ヒュッ!
風は出たけど、ミリアが気を失った。MPを確認すると赤い文字でゼロになってる。MPが切れるとこうなるのか、注意しておこう。
MP:0(99+50)
溺れないようにミリアを抱き留めて、しばらく目を覚ますのを待つが、呼び掛けても、うぅと言うだけで目を覚まさない。
仕方ない。目を覚ますまで体を洗っておくか。
ミリアの肌着を全て脱がせ、今日貰ったタオルをインベントリから出し、耳や鼻や口にお湯が入らないように優しくごしごし洗ってあげる。
何か子供の体を洗ってあげているようだ。体が小さいだけに。
それにしても、ミリアの肌プニプニでツルツルだな。
色んなところが。
全身余すところなく洗ってあげたあと、気を失っているミリアにお湯を掛けてあげつつ、俺も体を洗う。
洗い終わって少し待ったが、やはり目を覚まさない。
とりあえず、ミリアを抱き上げ釜から出て、小屋に戻る。
さすがに裸のままだと風邪を引いてしまうので、貰った下着を穿かせてあげ、ゴスロリではなく部屋着を着せることにする。
俺も鎧ではなく貰った服に着替える。
ミリアは拾ってきた葉っぱを敷いて、その上で寝かせたまま、風呂場の解体作業に移る。
小屋は土魔法で崩し、元の土に返す。釜は地面を盛り上げ、倒すことで中のお湯を捨て、全体を水魔法で洗い、インベントリに戻す。
丸太階段は土魔法で代用が利くことが分かったので、そのまま放置して、作業完了だ。
そして、ミリアをおんぶして街へと向けて歩き出す。
街に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっており、カッシュに挨拶をしてすぐ宿に戻る。
「おや、ミリアはどうしたんだい?」
「ちょっと疲れちゃったみたいで、途中で寝ちゃいました」
「あはは、人前で寝るなんて、あんたの事本当に気に入っちゃってるみたいだね」
今朝に比べたら、大分仲良くなったと思うが、まだまだだな。
「そうだと嬉しいです。それじゃミリアを寝かせてあげたいので、部屋に戻りますね」
「あいよ。ミリアの事よろしく頼むよ」
ミーアに鍵を貰って部屋に戻るが、室内は真っ暗だ。
指先に小さな火の玉を出しつつ、蝋燭の位置を確認。出していた火を直接蝋燭に近づけ火を灯す。
本当、魔法って便利だな。
明日の予定を立てたいけど、ミリアはこんなだし、今日は色々ありすぎて本気で疲れた。
風呂にも入ったし、かなり早いけど、もう寝るか!
服を脱いで、脱がせ、同じ布団に入る。
今日も一日お疲れ様でしたっと。おやすみりあ。
挨拶をしてもミリアから返ってくるわけがないので、こちらからキスをして寝ることにした。