Status Meister

Episode 37 Status Points

ミリアに言われた通り森に入ったのは良いが、何だろう? 湿気が多いというか……今までの森と少し雰囲気が違う。

「ミリア。この森は前の森と雰囲気が違うね。やっぱり住んでいるモンスターも違うのか?」

「はい。ここではスネークが出ます。ユニークを倒せる実力があるので言いませんでしたが、普通は麻痺や毒が怖いので、迂回してこの森は通りません」

「スネークか。攻撃力は高く無さそうだな。でもミリアは遭遇したらすぐに障壁を張ること。ファラは必ず俺の傍から離れないこと。あと、少しでも噛まれたら必ず俺に報告するように」

「はい」

「ん」

作戦も伝えたし、大丈夫だろう。

メインを僧侶に戻して進むことにする。

今日の目標は俺とミリアの僧侶がレベル20、ファラの魔術士と使徒がレベル10だ。

現状でINTよりCHAの方が、全体への影響が大きい事が分かっているから、ミリアの僧侶が20になったら、使徒にするつもりだ。

早い話がポイントを割り振ることができるのだから、さっさと振ってしまえば良いのだが、もし取り返しのつかないことになってしまったら怖いので、現状でイケるところまで行こうと思っている。

この世界の先人達は、自分のポイントはどうやっているんだろうか。やっぱり、ある程度戦ったらその練度に応じて、ステータスへ勝手に割り振られるのだろうか? それだと、ポイントを割り振りたいところに割り振られない可能性だってあるわけだから、俺等もそろそろ割り振ることを考えないといけないな。

「……さん、……タカシさん、タ、カ、シ、さん!」

「おわっ! どうしたの、ミリア?」

「もう! 何、ボーっと歩いているんですか。今は森の中なんですよ。さっきから私達しか戦ってないです!」

「タカシ、だいじょぶ?」

ファラにまで心配されてる。ちょっと考え事し過ぎたな。

「ごめんごめん、ちょっと色々考えててさ」

「何なんですか、もう!」

「タカシの代わり、がんばる」

「おう、ファラ。頼むな」

ミリアは怒っている風だけど、まだ大丈夫。ファラもやる気を出してくれているので、もう戦闘は任せてみようかな。

「ごめん。俺は今、ちょっと複雑な事を考えているから、モンスターが出たら二人に任せるよ。風を薄く刃のようにして敵を切る練習をしててくれ。炎だと火事になっちゃうかもだから」

「分かりました」

「わかった」

そうやってまた考え事に戻る。

ポイントを振るのであれば、現状ではCHAしか考えられないんだよな。全体のステータスに影響するみたいだし。現に、魔法系統である魔術士と僧侶のミリアより、CHAが高い使徒にしているファラの方がステータスは倍近く違うし。

あと、ポイントを割り振るにあたって、プラスとマイナスがあるのが気になる。割り振ったポイントを元に戻せるのだろうか?

STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:7(+ -) DEX:4(+ -) CHA:8(+ -) (19)

1ポイントだけ割り振ってテストしてみるのもありだな。ミリアとファラのステータスを勝手に割り振るのは可哀想だから、ひとまず俺自身のCHAに割り振ってみるか。

ステータスを開いて、CHAのプラスのところに意識を集中してみる。

STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:7(+ -) DEX:4(+ -) CHA:9(+ -) (18)

おお、やっぱり割り振る事ができるな。次は戻してみよう。

STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:7(+ -) DEX:4(+ -) CHA:8(+ -) (19)

これもできる。

いつでも自由にポイントを操作できるのであれば良いな。ただ、CHAに全部ポイントを振れている人なんて、この世界に居ないだろうけど。

何か面白くなってきたぞ。ひとまずCHAに全部振って、世界最強になってみるのも面白そうだ! それこそ正にチートだな!

STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:7(+ -) DEX:4(+ -) CHA:18* (9)

「ぐああっ!」

「きゃあああ!」

「ひぅっ!」

ちょっと待て! おい、プラスもマイナスも無くなったぞ! どういうことだ自称神!

ステータスは確かにインフレしたかのようにおかしな数字になってるが、おい! ……マジで!?

遊びでやるんじゃなかった……。

「あぁぁ……」

「な、なな、何ですか!? どうしたんですか!?」

「タカシ、だいじょうぶ?」

……そうだ。いきなりの出来事だったから思わず声に出して、頭抱えて座り込んでしまったんだった。

「ごめん。何でもない」

「何でもないわけないじゃないですか! 何か攻撃でも受けたんですか!?」

「タカシ、なにがあった? びっくりした」

「あぁ、本当に何でもないんだよ。ちょっと色々と考えすぎて、頭の中で実験してたら失敗しちゃっただけ」

間違いは言っていない。但し、この一瞬で二人を小指一本で殺せそうなくらい強くなっただけだ。

いや、何でもないわけじゃないな。数時間歩いていただけで、モンスターも二人に任せっきりなのに、腕力も魔力も数倍に強くなるとか、異常だろ。どんな有酸素運動だよ。

「何ですか。頭の中の実験て……」

「タカシは頭が良い?」

頭はそんなに悪くないとは思うけど、何で疑問形なんだよ。ファラの言ってることがたまに分からない。

「何でもない何でもない。ごめんごめん。さぁ、先に行こう」

「もう! またそうやってはぐらかす! 何でも言ってくれるって約束はどうなったんですか!」

約束を破るつもりは無いんだけど、この強さを二人に教えるのはなぁ。どうしたもんか。

▼タカシ・ワタナベ Lv.16 僧侶 Rank.C

HP:486(486+0)

MP:644(594+50)

ATK:231(216+15)

MAG:400(378+22)

DEF:323(270+53)

AGI:216(216+0)

STR:4(+ -) VIT:5(+ -) INT:7(+ -) DEX:4(+ -) CHA:18* (9)

「うーん……。俺がこの森に入ってから今までの間に、二人を小指一本で殺せるくらい強くなったって言ったら信じてくれる?」

「え……、戦ってないのに……? 何を言っているんですか……?」

「信じる」

「ファラは即答なんだね。嬉しいよ。でも、ミリアは信じてくれないでしょ?」

「えぅ……」

そりゃあそうだよな。ファラには悪いけど、信じる方がおかしい。森に入って数時間歩いただけだ。モンスターと戦っていたのは二人だけだ。それで強くなれるはずがない。普通なら。

「ミリア。じゃあさ、その武器で俺を思いっきり殴ってみてよ」

「え!? 嫌ですよ。怖いです」

「いいから。大丈夫。俺治癒も使えるからさ、ほら」

「うぅ……一回だけですよ……」

恐る恐る武器を振りかぶって、俺の肩目掛けて殴ってくる。

――ガッ

攻撃が当たる部分に意識を集中していたからか、全然痛くない。

でも、HPを見てみたら1だけ減っていた。ミリアの攻撃力と俺の防御力は13倍くらい差があるんだけど、1は食らうのか……。

「痛くないよ? 本気だった?」

「え……本気ですよ? ……タカシさん……何なんですか? 障壁……?」

「何って障壁も覚えてない、普通の人間だけど?」

「タカシ、すごい」

ステッキとはいえ、木刀のような物だ。それで本気で殴られたら普通は怪我する。でも怪我どころか痛くもなかった。

普通って言ったけど、どう見ても普通じゃないよな。

「まぁ、そんなわけだよ。頭の中で実験してたら、こんな事になっちゃったわけ。だから失敗したことに声を出しちゃったのだ」

「のだ……じゃないです! 変ですよ! 頭の中で考えるだけで強くなれるなんて! 人として、おかしいです!」

「うーん……ちょっと傷付くけど、俺、人以外に見える?」

「人……です。ごめんなさい。言いすぎました」

さっきまでの強気のミリアがしょんぼりしてる。悪い事を言ったという自覚があって反省したのだろう。

「さぁ、先に進もう。俺、もうちょっとボケーっとしちゃうかもだけど、二人に任せるね?」

「わかった」

「うぅ……何なんですか……やっぱりおかしいですよ……」

「大丈夫。俺が二人の事を好きな事に変わりはないから」

ミリアとファラの頭をナデナデしつつ、また先に進むことにした。

二人はばっさばっさモンスターを倒してくれている。

……それよりも、何なんだ。これ……。

CHAは10ポイントでカンストするってこと……? でもそれだったら、他のステータスも10までしか振れないのか?

そうなると、レベルが51くらいでカンストしてしまうことになるが……。中途半端すぎるだろう……。

今はレベル20だから10ポイントまでしか振れないのか、それとも、上位ジョブになったら10ポイント以上にできるのか、まさか、アンノウンの別スキルで上限解放できるのか?

ミリアは同じレベル20だから、実験しても同じになる可能性がある。ただ原因は分からない。同じになるだけなのだから。それに、本人の許可無しに実験台にするのも気が引ける。

ファラはジョブの最大がレベル5だから、サンプルになるが……親から実験台にされた過去がある。俺も同じ事をするのはな……。

どうしたものか……。考えてもキリがない。こうなってしまった原因を探るには、どう足掻いてもレベルを上げるしかないってことなのは確かなのだが、やっぱりすっきりしない……。

「タカシ、またむずかしい顔してる」

「……あぁ、ごめんよ。ちょっと分からない事があってね」

「タカシさん。私は、タカシさんの奴隷です。奴隷に相談するのは嫌かもしれないですけど、一人で悩んでないで、気軽に相談してくれると嬉しいです」

「ありがとう、ミリア。ファラも心配してくれてありがとう」

「ん」

相談してみるか。ただ、この森の中ではゆっくり話せない。

さっさとレベルを上げて小屋でも作って、風呂にでも入りながら二人に正直に話してみるか。

「分かったよ。二人に相談する。だけど、森の中じゃ危険だから、さっさと森を抜けよう。ここからは俺も戦闘に参加するから」

「分かりました」

「ん」

そうやって更にまっすぐ森を進むこと数時間。先の方には木がなく、平原と左右に山が見える。あそこが出口なのだろう。

でも、ファラは先にレベル10を超えたが、俺とミリアがもう少しだ。

「もうちょっとだけ狩りをしよう」

「分かりました」

「ん」

日も落ちかけてきたところで、ようやく俺とミリアの僧侶がレベル20になった。

「よし、日も落ちてきたし、そろそろ森を出て、小屋を作ろうか」

そう言って野宿場所を探しつつ、薪などを集める。

「タカシさん、ここら辺なんか森から離れててすぐそこに川もあるし、ちょうど良さそうです」

「お、良さそうだね。じゃあ、ここにするか。二人ともちょっと下がってて」

「はい」

「ん」

魔力がかなり強化されているので、少し豪華な小屋が作れそうだが、どんな小屋にしようか頭の中でイメージをする。

風呂釜を置ける場所を作って、リビングには明かりが欲しいから、薪を燃やせるところ。飯を囲んで食える囲炉裏か。薪を燃やすなら通気口……煙突だな。あと、暑いだろうから窓。最後に寝室とトイレ。このくらいだろうか……。

イメージが完成したところで、魔力を地面に向けて放つ。

――ゴゴゴゴゴッ!

モンスターがぶつかっても大丈夫な小屋……というには大きすぎるな。これはもう、一軒屋だ。煙突付きの立派な家が完成した。

「わわ、すごい。昨日や一昨日の小屋とは全然違うじゃないですか!」

「タカシ、すごい」

ただ、トイレがうまくイメージできなかったんだよな。水洗なんてイメージできないし、ただのポットン便所になってしまった。でもまぁ、今日だけだと思えば。

「さぁ、中に入ろうか」

「はい!」

「ん!」

二人共お気に召していただけたようで良かった。