Status Meister
Lesson 56, Marie.
朝、いつも通りに朝食を食べ、出掛ける。
前日と同じく、魔法の練習を行いながら移動していると、夕方にはザクゼルに到着した。
「ミリア、先にギルドに寄って、換金したいんだけど、良いかな?」
「はい! もちろんです!」
場所が分からなかったが、鎧を着た人が多い方に向かうと、ギルドを見つけることができた。
「そういえば、エストルでミリア一人に換金してもらった時、ミリアだけランクが上がってたんだよな。あれって何で?」
「カードを出したのが、私だけだったからですね!」
「あ、そっか。そういえばそうだな」
「はい! そうです!」
報告の際には一緒にカードを出さないといけないのか。面倒だ。
そんな初歩的な話をしながら、掲示板でビーとエレメントの依頼を受けてからカウンターに移動する。
依頼があって良かった……。
「換金をお願いしたいんですが」
「はい、それではこちらに依頼のアイテムをお願いします」
カウンターにビーの針とエレメントを出す。三人それぞれ合わせるとエレメントが42個、針が164個あった。
「うわ……これは……すごい数ですね……。少々お待ちください。あ、カードをお預かりしてよろしいですか?」
受付のお姉さんが何往復かして、アイテムを全て奥に運ぶ。
奥では違う職員がアイテムを見たり数えたりしている間に、お姉さんがカードだけ戻してきた。
「えっと、あの数、3人で集めたのですか?」
「ビエグ? の近くにあったダンジョンに入っていたので、そこでコツコツ集めたんですよ」
「ダンジョン……道理で。ということは、既に攻略されたんですね」
「え、あぁ、はい。出られたので、そうみたいですね」
三人で集めたとも、自分たちが攻略したとも返答せず、無難に受け答えておく。
そこで奥の職員が報酬を持ってきた。
「あぁ、お待たせしました。1白と、19金、40銀、はい。今回の報酬はこのようになっております」
「はい、確かに。どうもです」
「ダンジョンから出たとはいえ、あまり無理はなさらないように」
「ご心配ありがとうございます。それでは」
報酬を受け取った後、お礼を言いギルドを出る。
偽装していた二人のメインジョブを、それぞれ魔術士から元に戻す為ステータスを確認すると、ランクはBに上がっていた。
「お? 皆ランクBになってるぞ。あれだけビーを倒しただけはあるな」
「ビーを沢山狩ったからBなんですね!」
「ん」
ビーだけにBってか? やかましいわ!
というか、さっきから何なんだこのミリアのテンションは……。
朝からずっと頬が緩んでいる。やっぱりミリアには笑顔が似合うな。こっちまで元気が出てくるし。
「タカシさん、これからどうしますか?」
「うーん、装備も欲しいし、奴隷商にも寄りたいな」
「新しいパーティーメンバーですね! じゃあ、その人の分も揃えないといけないし、武具屋は後の方が良いかもですね!」
「そうだね。じゃあ先に奴隷商に寄ろうか」
二人とも上位ジョブに就けたし、そろそろ次のメンバーを補充したい。
早く協会に行きたいミリアには悪いけど、先に奴隷商のところに寄らせてもらおう。
周りにいた商人風の男に道を尋ね、奴隷商の館に向かう。
中に入ると、すぐに主人に迎え入れられた。
「ようこそおいでくださいました。私、この館を任されておりますアステル・マトロと申します。本日はどのようなご用件でしょう」
「どうも、タカシです。えっと、パーティーメンバーを増やそうかと思いまして」
「これはこれは。当店をお選びいただきありがとうございます。パーティーメンバーとのことですが、どのような者をお探しでしょうか」
「そうですね……。女性であれば特に指定はないです」
ジョブはこちらでどうとでもなるから、戦闘の出来る人であれば問題ない。
アステルは、ふむふむと言いながら顎に手を当て、わざとらしい仕草をした後、一瞬ニヤっとして手をポンと叩く。
「なるほどなるほど、では条件に合いそうな者をご紹介させていただきますので、今しばらくお待ちください」
応接間に案内され、飲み物を出された。ここで待てということなのだろう。
アステルはそのまま部屋を出て行ったので、しばらく待つ。
「お待たせいたしました。おい、入りなさい」
アステルが十人ほど連れて戻ってきた。
ファラの時みたいに別の部屋に行くのかと思っていたら、ここで紹介されるのか。部屋が広いわけだ。
「タカシ様、彼女達が当店の商品となります。どうぞご覧ください」
部屋に入ってきた子達を見る。獣人が三人、エルフが二人、人間が五、いや、一人は耳の形が違うから魔族か?
獣人とエルフにそれぞれ一人美人さんが居るけど、他はパッとしない子が多いな。
「いかがでしょうか?」
「そうですね……少し確認したいことがあるんですが、良いですか?」
「確認……ですか。どのようなことでしょうか」
「一人一人パーティーに入れてみたいんですよ。入れてすぐ出しますので。ダメですかね」
「はぁ……パーティーにですか。何か意味があるのでしょうか……?」
そうだよな。他の人からしてみればパーティーに入れても何の意味もないからな。少し警戒されただろうか……。
でも、外見も大事だけど、中身も見ておかないと、美人なだけで戦えないとかなると意味ないしな。
「えぇ、パーティー全体に付与できる強化魔法がありまして。その効果が人によって大きかったり小さかったりするので確認したいんですよ。掛からないと迎え入れる意味がないので」
「おお、タカシ様は魔法を使われるのですか! ふむ。分かりました。そのような理由があるのでしたら、仕方ありません。しかし、商品に傷などはお付けにならないようお願いします」
「ありがとうございます」
嘘だけど主人から許可を得たので、治癒や治療で手先を光らせ、何かやってます的な動作で順にパーティー申請を行い、それぞれのジョブを確認する。
M奴隷Lv.1 村人Lv.2 獣戦士Lv.2 闘士Lv.2
M奴隷Lv.3 村人Lv.2 盗賊Lv.5 獣剣士Lv.2
M奴隷Lv.2 村人Lv.4
M奴隷Lv.1 村人Lv.2 精霊術士Lv.1 射士Lv.1
M奴隷Lv.1 村人Lv.2 射士Lv.2
M奴隷Lv.1 村人Lv.4 神官Lv.1
M奴隷Lv.1 村人Lv.5 盗賊Lv.2
M奴隷Lv.4 村人Lv.3
M奴隷Lv.1 S神官Lv.1 村人Lv.2
M奴隷Lv.1 村人Lv.4 魔術士Lv.1
、ステータスの方は変更できることがわかった。
ただ、ポイントの操作はできるが、ジョブに使徒がない。やはり、奴隷にしないと使徒にはなれないようだ……。
皆のメインジョブは当然奴隷だが、中には見たことのないジョブが混じっている。サブジョブを持っている子も居る。
盗賊二人は除外だな。魔術士を持っている子は、魔族の子か。
交渉に使わせてもらう為、サブジョブがある子と魔術士を持っている子だけ、周りから見て異変を感じる程度に治療の光を大きくしておいた。
ついでに、今後のテストも兼ねて、魔族の子のサブジョブを魔術士にしておく。
「それで……タカシ様、いかがでしょうか?」
「あぁ、失礼。ありがとうございました。えっと、今回はこの子を迎え入れようかと思います」
「おお、マリーですか。それでは取引を……」
「え!? タカシさん、良いんですか……?」
「え、何が?」
エルフの精霊術士とかいう知らないジョブを持っている子を選び、アステルと話を進めようとしたところ、ミリアから意見が入る。
「てっきり、こちらかあちらの方を選ぶものだと思っていたので……」
「……何で?」
「えっと、それは、その……」
美人の獣人と美人のエルフだ。
俺も選びたかったんだよ。でもな、一人は盗賊で、一人は性格がキツそうなんだよ。ほら、今も何か納得いかないみたいな感じで腕組んで睨んでるし……。
それに、今までの街で見たエルフって、どいつもこいつも美男美女ばかりだったのに、あまりパッとしないエルフというのが気になったんだよ。
「ミリアが、俺をどんな目で見てるのかよく分かったよ」
「ひっ……ち、ちがいますよ? べつに、その、ごめんなさい……」
ミリアにはニコニコしながら頭をワシャワシャして、アステルに向き直る。
「アステルさん、取引を進めてもらっていいですか?」
「承知いたしました。マリーお前は残れ。他の者は戻って良いぞ」
マリーを残して九人がそれぞれ部屋から出ていき、ソファーを勧められたので座って話を続ける。
「それではタカシ様。この子をお引き取りいただけるということで、お間違えないでしょうか」
「えぇ、この子で大丈夫です。それで、おいくらですか?」
「そうですね……。エルフの奴隷はあまり居ません。40金ほどでいかがでしょうか」
「そういえば、さっき居た一番小さい子。あの子なんですが、回復魔法の素質がありますよ。メイスを持たせて訓練させてあげると、成人する頃には魔法が使えるようになるかもしれません」
「本当ですか!? ……もしかして、先程の大きな光と何か関係が……?」
食い付いた。
こんなに可愛らしいファラが20と見積もられたんだ、エルフが珍しいとはいえ、さすがに40は高過ぎだろう。
まぁ、ファラは呪いモドキがあったから安かったのもあるが。
「はい、そうです。あの魔法の反応の仕方で色々分かるんですよ。だから、間違いないですね。ウチの子達もそれで判別して購入したので。ほら、ミリア、ファラ、魔法を見せてあげて」
ミリアとファラの指先に火の玉を出すよう指示し、アステルに見せつける。
「た、確かに……しかし、それならば何故、彼女達をお選びにならないのでしょう……?」
「ウチは皆魔術士です。今回は前衛が欲しいということで、ここに来たんですよ」
「なるほど。では、獣人などご希望に添えるかと思うのですが……」
「あの子、盗賊だったでしょ。見れば分かります。それに、獣人は当てがあるので。そうなると、予算と希望を満たしそうなのはこの子だけになります」
「よく見ていらっしゃる……わかりました。それでは36金ほどでいかがでしょうか」
割り引いて欲しいのを理解してくれたらしい。流石商売人だ。
「もう一人の子の気付いた点もあるんですが?」
「……タカシ様はお上手ですね。分かりました、32金でいかがでしょう」
「では、それで」
二割引きか。上出来だ。
「それで、その、お気付きになられました事というのは……?」
「あの魔族の子、魔術士の才能があるみたいですね。さっきの子と同じく、訓練次第で魔法が使えるようになりますよ」
「おぉ、それも喜ばしい情報です。ありがとうございます」
アステルに32金を渡し、奴隷契約を行う。
契約完了後、再度パーティーに入れてステータスを確認すると、使徒があった。やはり、条件は奴隷なのか……。
「タカシ様、ありがとうございました。是非、またお越しいただけることを心よりお待ちしております」
「えぇ、また機会があれば伺いますね」
契約も終わったところで、マリーのサブジョブを使徒にした後、アステルに挨拶をして館を出る。
あの交渉に使った子達、これから魔術士系として扱われると良いな。ただの奴隷より待遇は良いはずだし。
そんな事を考えながら、マリーの冒険者登録を行う為、ギルドへ向かう。
その間に自己紹介をしておこう。
「マリー、俺はタカシ。こっちはミリアで、こっちがファラな」
「私は、その、ま、マリーと言います。これからよ、よよろしくおにゃがしますです」
「よろしくお願いしますね、マリーさん」
「ん。よろしく」
噛み噛みだな……まだ出会ったばかりだし、緊張しているのだろう。
ギルドはすぐに到着したので、マリーの冒険者登録を行う。
登録完了後は、来る途中に見掛けた武具屋に向かい、マリーの防具を購入する。ミリア達とのお揃いはまだお預けだ。
最後に雑貨屋と仕立て屋に入り、生活に必要な物や下着、部屋着などを購入して準備完了。ついでにマナポーションと投げナイフも補充。これらの買い物だけで6金も使ってしまった……。
色々と買い物をしていたら、いつの間にか夕方になっている。魔術協会はまだ開いているだろうか……。
「さて、遅くなってごめんな、ミリア」
「いえ! これから、どうしましょうか!」
分かってるくせに。協会に行きたいんだろう?
そのニヤニヤ、期待しているのがこっちにも伝わってくるぞ?
「さっき場所を尋ねていたの、見てたぞ。魔術協会に行きたいんだろう? 案内してくれるか?」
「えへへ……はい!」
ミリアに案内してもらいながら魔術協会に向かう。
……が、門が閉まっていた……。
「あう……」
「あちゃー……やっぱり閉まってたか……すまん、ミリア!」
「うぅ……ごめんなさいです。私のせいで……」
「う、ううん! いいんです、タカシさん、マリーさん。下着や生活用品は今じゃないと今晩から困りますけど、協会は今じゃなくても良いですから!」
「さすがだ、ミリア。ありがとうな」
ミリアの頭を撫でてあげる。最近忙しかったし、頭を撫でるのは久し振りな気がするな……。
「じゃあ、宿屋にでも泊まって明日に備えようか」
「はい!」
飯か風呂か迷ったが、夕日も隠れ始めているので足早に宿屋へ向かうことにした。