Status Meister

Lesson 78: Regret

ミリアに聞いた話では、エルフの国――首都スワルトまでは二日掛かるらしい。

長いな……。

それまでモンスターもあまり狩れないし、魔法の練習は飽きたし、やることがない。

ミリアやファラ、マリーは魔法を教えると、教えた分だけ吸収するから面白いというのはあるが、ランが……な。

ランは近接職だし、練習という練習ができない。

折角仲間になったのに、育たないというのは勿体ないよな。

城に居る頃は毎日アバンと稽古をしていたと言っていたが、今は移動しながらということもあって、稽古をつけてあげることもできない。

そもそも、俺は攻撃力と防御力が高いだけで技術がないから、稽古をつけてあげられるだけの技量がないし。

エルフの国に行った後は、ダンジョンにでも入って一気にレベルを上げてやろう。それまでは何か望む事をさせてあげるのも良いな。

「ラン、何かやりたい事とかないか?」

「うーん。こうやって皆の練習を見ているのも楽しいよ?」

本人が楽しいなら、それはそれで良いが、見ているだけというのもすぐに飽きるだろう。

当分は、俺自身の暇潰しの相手としてランで遊ぶことにしよう。

とりあえず、飛ばせてみよう。

ランを浮かせ、驚かせた後に、ビュンビュンと高速に空中を飛ばしてみる。

「いや、わああああっ、きゃあっ、んーっ、すご、すごい!」

最初驚いていたが、飛んでいる内に慣れたようで笑顔になったので、そのまま数分間飛ばし続けてやる。

「なにこれ、なにこれー、すごーっ! やばいやばい!」

表現力というか何というか、教養のある姫とは全く思えないな。

そんな事を考えつつ、空中でバタバタやっている股の間から、たまに見えるパンツを覗いていたが、飽きたので下ろしてやる。

「はぁ、タカシくんすごいよ! 感動した!」

「そうか。良かったな」

「またやって!」

「もう、お前のその下着を見飽きたから、また違う下着の時にな」

「えぇ!?」

ランがハッとなったあと、ババッと股間を押さえている。

興奮していたので、見えていることに気付かなかったのだろう。

「えっち……」

「おう」

全裸で一緒に風呂に入って体まで洗ってあげた仲なのに、今更パンツ如きで何を言うか。

でも、普段の猪突猛進元気娘であるランらしからぬ、上目遣いの小声えっちは破壊力があるな。目に焼き付けておこう。

そうやってランを飛ばしたり、瞬間移動させたり遊んでいる時に技を思い付いた。

神口でランを敵の後ろに飛ばして、背後から先制攻撃するという連携技だ。

でも、正確な位置に飛ばすことが難しいので、この技はまだまだ微調整が必要だな。よし、明日もこれの練習をしよう。

「よし、練習はそのくらいにして、そろそろ家に戻ろうか」

「はい!」

「ん」

「はいです!」

「はーい」

現在地に目印を作って、四人をまとめて家に戻ることにする。

「家があると、わざわざ小屋を作らなくて良いから楽だよな」

「そうですね」

「飯だけど、オスルムで買った食材でまだ足りるか?」

「はい、まだ数日は持つと思います」

「そうか。俺はちょっと用事があるから任せるな」

「はい!」

一度エストルに行こうと考えていたので、飯をミリアに任せる。

「タカシ、どこいくの?」

「あぁ、エストルに一度行こうと思ってな」

「私も行きたいです!」

ファラに行先を伝えるとマリーが食いついてきた。

「頼んでいた服を取りに行くだけだ。お前はミリアの手伝いをしておいてくれ。あと、ランに料理を教えてやってくれ」

「はぅ、分かりましたです……」

「それじゃあ、行ってくる。後は頼んだぞ」

「はい!」

今回は一人で移動だ。少し実験をしてみよう。

門の外ではなく、仕立て屋の入口をイメージして飛んでみる。

――シュン

少し心配ではあったが、ちゃんと成功している。良かった。

安心したので、そのまま仕立て屋の中に入る。

「こんばんは」

「あら、こんばんは。もう来たのね。図面も生地も残っていたから、完成しているわよ」

ランの為に頼んでいた服を受け取る。

やはり仕事が早いな。この人――シーラさんに頼んで良かった。

これからの事もある。しっかり名前を憶えておこう。

「本当仕事が早くて助かります。また何か思い付いたら、お願いすると思います。その時はよろしくです」

「えぇ、こちらこそ稼ぎ口が出来て嬉しいわ。またお願いね!」

「はい。それでは」

「またいらしてね」

服を受け取るだけだったので、簡単な挨拶だけで店を出る。

そのまま、鍛冶屋の方へ向かう。

今後の料理やお菓子作りの事を考えて、手動で攪拌できる機械を作ってもらうためだ。

「こんばんは」

「お? お主から来てくれるのは初めてじゃな」

「えぇ。今回は直接お願いしようと思いまして」

「ほほう、また何か面白い物を思い付いたんじゃな?」

「はい。説明しますので、何か描くものありませんか?」

鍛冶屋――ヴァストールは、そのまま奥に行ってペンらしき物と紙を持って来た。

この人の名前もしっかり憶えておこう。

「えっと、小さな歯車を金属で作ることできますか?」

「小ささによるぞ。じゃが、大体の物は作れるはずじゃ」

「では、まずはこういう物を作ってほしいです」

「なんじゃこれは? ジョッキ? いや、違うな。分からん」

箱に取っ手の付いたものを描く。

「この箱は何なのじゃ?」

「この箱の中には、こんな感じで歯車があって、箱の横にハンドルを付けて、ハンドルを回せば、箱の中の歯車が回ります」

「ふむふむ」

「ただ、このハンドルを一回転したら、中の歯車が四回転するように歯車を調整して欲しいです」

「それは歯の数でどうとでもなるわい」

次にホイッパーの図を描く。

「これはホイッパーと言って、調理の際に何かを混ぜたり、泡立てたりするのに使います」

「ほう。して、そのホイッパーと箱は、どう関係するのじゃ?」

「えっとですね、この箱の下に穴を四つ作って、このホイッパーを刺すんです。それでハンドルを回せば、このホイッパーが回るという仕組みです」

「ふむふむ。構造は簡単じゃな。ただ、ワシは料理などせんから、用途が分からん」

そうだろうな。料理やお菓子作りをしない人からしたら、用途なんて分からないよな。

「そうですね……例えばパンですが、パンを作る時、材料を混ぜる必要があります」

「そうじゃな。それくらいは分かる」

「材料が混ざるまでに、百回かき混ぜる必要があるとすれば、どうですか?」

「それは疲れるな」

「ですよね。でも、これを使えば、ハンドルを一回しするだけで四回、更に四本あるので、十六倍かき混ぜることができます」

「なるほど。それは楽じゃな」

通販番組みたいになってしまったが、理解してくれたようだ。

問題は大きさだよな。

「それで、調理に使うので、このホイッパーは取り外しが出来るようにして欲しいです。あと、金属製になるので、可能な限り小型化して欲しいです」

「ふむ。構造は簡単じゃが、小型化が難しそうじゃな」

「小さな女の子が使うと仮定して作っていただければ助かります」

「あい分かった。出来る限りの事はしよう」

主にファラが使うことになるだろうからな。楽をする為に使う機械なのに、重さで疲れてしまったら本末転倒だ。

ヴァストールもプロだし、そこは何とかしてくれるだろう。

「資金はどのくらいで開発できそうですか?」

「そうじゃな。お主には世話になっておるからの。とりあえずは、1金で何とかしてみようかの」

「助かります。では、先にお支払いしておきますね。どうぞ」

「うむ。確かに頂戴した。大きさなどの調整を行いたいので、数日もらっても良いかの?」

「えぇ、もちろんです。また数日後来ますね」

「すまんの」

これでプリンやアイスクリームを作る時に楽ができるな。

依頼が済んだので簡単な挨拶をして、鍛冶屋を後にして、折角街に来たので、ついでにデザートを買ってから家に戻る。

「ただいま」

「あ、タカシさんおかえりなさい!」

居間に行くとミリアしか居なかった。

「あれ? 他の子達は?」

「あぁ、ファラとマリーでお風呂の準備をしてもらってます。ランさんは、その見学だそうです」

「なるほどな。あ、果物買ってきた。食後のデザートにしよう」

「はい!」

ミリアにデザートの果物を渡して、椅子に座ると、三人が風呂から戻ってきた。

「タカシ、おかえり」

「タカシ様、おかえりなさい!」

「おかえりー」

「おう、ただいま」

全員揃ったので、飯にする。

食事中に先程依頼してきた攪拌機の事を、ファラに教えてあげたら喜んでいた。“タカシ好き!”だそうだ。嬉しいなぁ。

ランも色々と魔法の話でミリアやマリーと話していたので、久し振りに今後の予定や反省会などがない会話の弾む食事になった。

そんな食事もすぐに終わり、風呂に入る。

風呂に入った後は魔法の練習を行っていたが、ランとクドラングの事について話し込んでいたら、ミリアとファラが既にMPが尽きて、マリーが介抱しているところだった。

失敗した……今晩は、ランも含めて楽しもうと思っていたのに。

仕方ないので、布団に入ることにする。

今日は既にミリアとファラが寝かされていたので、ランが左、マリーが右だ。

左がファラでないことに違和感がある。でも、これはこれで、たまには良いかもしれない。

とりあえずはマリーを放置して、緊張して体の強張っているランを、揉んだり吸ったりして存分に味わい、準備を整える。

「さて、ラン。後悔させてもらおうか?」

「うぅ……やっぱり覚えてたんだ」

「当たり前だろう?」

ぎこちない動きで何かモゾモゾしている。任せてみるか……。

十分ほど何かされたが、後悔するどころか眠たくなってきた。

「もうだめ……」

案の定、ランを後悔“させて”しまったので、それだけでも非常に満足した。

これで、明日からも楽しめそうだな。おやすみ。