ステータスを見ると、1時間だけ能力が向上していた。

なんだろう、この効果は。

うーん、【調味料作成】のレベルが上がってるけど、違和感を覚える。

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【調味料作成:Lv.4 】

思い描くように料理調味料お菓子調味料を作成することができる。

生成した調味料で料理を作ると、素材の味を引き出し、あらゆる効果を産み出す。

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前から気になってたけど『あらゆる効果を産みだす』って、ステータス上昇するって意味かな。

状態もMP回復速度上昇って書いてあるし。

MP0の僕には関係ないけどね。

1時間って時間制限もあるし、【調味料作成】の影響を受けたクッキーが原因だろう。

腐った卵の異常なニオイも、知力が上がって魔法攻撃力が高くなったからだと思う。

そもそも調味料が魔法扱いになっているのかわからないけど。

まぁ、能力アップは嬉しいからいいけどね。

しばらくゴブリン狩りで時間を潰して、ギルドへ戻ろう。

この臭い卵を以前助けた女の子にぶつけたら、めちゃくちゃ怒られるだろうなー。

引っ越し依頼の報告をするため、ギルドへ向かっていく。

ギルドに着くと、受付カウンターはすべて埋まっていた。

待つのは好きじゃないけど、仕方がないからリーンベルさんの受付に並ぶ。

すると、前から不可解な会話が聞こえてきた。

リーンベルさんの受付にいる男が「君は美しいね!」とか言っているんだ。

完全に口説いてるとしか思えないんだよね。

依頼の受付・報告に関係ない話ばかりしているよ。

リーンベルさんを奪われたような気持ちになって、だんだん腹が立ってきた。

いったい彼は冒険者ギルドをなんだと思っているんだろうか。

出会いの場でも、可愛い受付嬢と仲良く話す場所でもないんだぞ。

リーンベルさん目当てで受付に来るなんて、失礼な奴だな。

……すっごいブーメランが返ってきた気がする。

そんなことを考えていると、マールさんの受付仕事が終わっていた。

マールさんが手招きして、『こっちにおいで』と呼んでくれていた。

名残惜しい気持ちのままリーンベルさんの受付を離れ、マールさんの元へ向かう。

「今日はベル先輩ダメだよ」

他の人に聞かれたくないのか、小声で話しかけてきた。

「ま、まさか、あの人彼氏ですか?」

「違う違う。ベル先輩が相手をしてる人は、伯爵様のボンボン息子で下手に追い出せないんだよ。

見て、先輩の笑顔が引きつってる」

確かに全てを癒す天使スマイルじゃなくて、ぎこちなくて困っているような作り笑いだ。

僕は心の中でガッツポーズをした。

「先輩って可愛いし、しっかりしてるから人気あるんだよ。

アカネ先輩も色っぽくて人気あるけど、ベル先輩はこのギルドのアイドルだからね。

ボクは全然モテないけど」

「えっ? マールさんモテないんですか?

そんなに可愛いのに」

思わず言ってしまった。

「ふぇ?! も、もう。からかわないでよ」

マールさんは顔赤く染めて照れている。

「からかってませんよ。

アカネさんとリーンベルさんと違った可愛さで魅力的ですよ。

ボクっ子なんて最高に可愛いじゃないですか」

あっ、また思わず言ってしまった。

マールさんは褒められ慣れていないのか、顔が真っ赤になっていた。

そういう恥ずかしそうにしてるとこも可愛いと思ってしまう。

今日はそんな恥じらいマールさんに依頼報告をして、宿へ帰ることにした。

- 翌日 -

異世界に来て、初めて寝坊した。

寝坊したからダメってことはない。

何も依頼を受けていないからね。

でも、早朝にギルドへ行ってリーンベルさん達と話をする時間がなくなってしまったんだ。

僕の心のオアシスが………。

ギルドに着くと、朝の依頼受付ラッシュで大混雑だった。

僕は毎日人が少ない時間帯を選んでいるから、こんなに人が多いのは初めて。

ところどころ獣人がいる姿も見えて、新鮮でよかったけど。

猫・羊・犬・ウサギまでは確認できたよ。

猫のしっぽがユラユラ揺れて、触りたい衝動を抑えるのに必死だった。

中でも1番気になったのは、3人の猫耳パーティだ。

3人とも猫耳とか最強じゃない?

いつか仲良くなってモフモフしたい。

もし僕が獣人だったら、リーンベルさんに優しくモフモフされた後で、マールさんに激しくモフモフされて、最後にアカネさんにねっとりモフモフされて、たらい回しにされたい。

……そんな妄想してる場合じゃないよね、リーンベルさんの列に並ぼう。

僕より遅く来る人はいなかったため、依頼を受けた人からギルドを離れ、どんどん人が減っていく。

20分待ってようやく僕の番になったと思ったら、

「なんだぁ~、このガキは!

てめぇみたいなガキが来る場所じゃねぇーんだよ!」

3人組の山賊みたいな男たちが、いきなり声をかけてきた。

ちょっと遅いテンプレがやってきたことに、少しワクワクしてしまう。

「僕もEランク冒険者なので、依頼を受けに来ただけです」

「てめぇみたいなガキが冒険者だ?

ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ!

今すぐやめちまえ!」

朝っぱらから酒臭いし、二日酔いでイライラしてるんだろうか。

だからって、理不尽に八つ当たりしなくてもいいと思うけど。

「大丈夫です、ゴブリンもウルフも倒していますし」

「うるせぇんだよ!

てめぇみてえなガキの相手をしている暇はねぇ!

ブチ殺されてぇのかッ!!」

醤油ビームをお見舞いしてやろうかなと思っていたら、目の前の光景が一瞬で変わる。

誰かが僕の目の前に現れたと思ったら、壁にガンッと当たる音がしたんだ。

パッと壁の方を見ると、さっきまで目の前にいた3人組が壁にめり込んでいる。

目の前に現れた女性が壁の方へ歩いていく。

「君たちは元気だね、少しお話をしようじゃないか」

ハッハッハと笑いながら、笑顔で訓練場へ引きずっていった。

やだ、あの人怖い。助けてくれたと思うけど。

呆気に取られていると、リーンベルさんが『おいでおいで』と手招きしていた。

「ギルド内だったらいいけど、外では気を付けるんだよ?」

「あ、はい。さっきの方はお知り合いですか?」

「まだ見たことなかったんだね。

あの人はサブマスターをしているヴェロニカさん。

ギルマスの奥さんでね、この街のギルドは夫婦で運営してるんだよ」

そういえば、ギルマスが「何かあったらいいに来い」って言ってくれてたっけ。

朝練で「ヌアーーー!」と、言ってるイメージしかないから忘れてたよ。

「じゃあ後で助けてもらったお礼を言いますね」

「それは大丈夫だと思うよ。

むしろ、ヴェロニカさんがお礼を言いに来ると思うわ。

タツヤくんのこと気に入ってるからね」

「え? 初めてお会いしたはずですけど」

「この前のクッキーだよ。

ヴェロニカさんは大のクッキー好きでね。

タツヤくんの作ったクッキー食べてから大変だったんだよ?」

サブマスであるヴェロニカさんについて色々教えてくれた。

・クッキーが食べたくて毎月わざわざ王都から取り寄せていること

・お酒を飲むと「クッキーに殴られて死にたい」「私の人生はクッキーがなければ始まらない」と語ること

・僕の作ったクッキーを食べて「このクッキーは神が作ったのか?!」と泣き始め、クッキーに拝んでいたこと

・元々冒険者で『青鬼のヴェロニカ』と恐れられた、Aランク冒険者だったこと

ちなみに、ギルマスは『赤鬼のジェラルド』と呼ばれている元Sランク冒険者。

夫婦で鬼の異名を持って、恐れられているそうだ。

「だから、このギルドで問題を起こす人なんて滅多にいないの。

さっきみたいな人は、他の地域から来た命知らずで礼儀知らずな冒険者たちね」

「そうなんですね。でもクッキーで助けてもらえるなんてラッキーです」

「私はヴェロニカさんの気持ちがわかるけどなー。

あのクッキーは本当においしかったから。

初めてほっぺたが落ちると思ったよ」

リーンベルさんがクッキーを思いだして、ほっぺたを手で抑えるジェスチャーをした。

落としたい、そのほっぺたとあなたの心を落としたい。

すでに僕は恋に落ちていますが。

「リーンベルさんがそんなに喜んでくれているとは思いませんでした。よかったです」

お世辞かもしれないですけど、僕はすぐ本気にする危険なタイプですからね。

……お世辞じゃないよね? 本気だよね?

真に受けた僕は、もう1度クッキーが100個入った箱を差し出す。

「まだ残ってますから、どうぞ」

「だ、ダメだよ! クッキーって高価なものなんだから」

「高価な材料は使ってませんから。

リーンベルさんに食べてもらいたくて作ったんですよ。

それなのに、食べてくれないんですか?」

おっ、彼女いない歴32年にしては良い言葉を言ったんじゃないか?

こんなことをサラッと言えるようになったなんて、僕も成長したな。

「うぅ……それならいただこう、かな。

またみんなでおいしく食べるね、ありがと♪」

天使の満面の笑顔がいただけるなら安い物ですよ。

いくらでも貢ぎますからね。

ギルドで随分時間を使ってしまったけど、リーンベルさんと話せる時間ができたので良しとしよう。

この日は受ける依頼もなく、いつも通りゴブリンハンターをして過ごした。

ステータスを確認してみると、

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名前:タツヤ

年齢:10歳

性別:男性

種族:ハイエルフ

状態:普通

Lv:1 (MAX)

HP:100/100

MP:0/0

腕力:50

体力:50

知力:90

精神:320000

敏捷:70

運:100(MAX)

【スキル】

アイテムボックス、異世界言語

【ユニークスキル】

調味料作成:Lv.4

(料理調味料:Lv.4 ・お菓子調味料:Lv.4 )

【称号】

悲しみの魔法使い、初心な心、パティシエ、クッキーの神様 new!

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【クッキーの神様】

・クッキーで感動を与え、心から神だと思われた人に与えられる称号

落ち込んだ心を回復させる

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ヴェロニカさん、本当に僕のことをクッキーの神だと思っているんだ……。

今度お会いしたときに、拝まれないように気を付けよう。