マールさんとヒソヒソ話している間に、スズが依頼を選んでくれている。

前もリーンベルさんにお任せだったからね。

パーティになった今はスズにお任せだよ。

しばらく経つと、スズが依頼書を持ってきてくれた。

〇『Cランクモンスター』シルバーウルフ3体討伐

1週間前から明け方にやって来て、畑を荒らしている。

人が襲われ被害が出ているので、早めに対処してほしい。

シルバーウルフは単体でもCランクモンスターになる。

※パーティ推奨

ここから半日ほど歩いたところにある、『エンレイ村』の討伐依頼だ。

Bランク冒険者のスズがCランク依頼を持ってきたのは、僕に気を使ってくれたのかな。

リーンベルさんの元へ向かい、スズと一緒に受付処理をしてもらう。

僕とスズのパーティ『ショコラ』の初依頼だ。

「スズがいるから問題ないけど、くれぐれも無理しないようにね」

「大丈夫ですよ。ウルフ系は得意ですから」

ウルフには腐った卵最強説があるからね。

「「あのステータスなのに?」」

2人でぼやかなくてもいいじゃないですか。

低すぎてネタにするしかない的な雰囲気はやめてください。

依頼受付を終えたら、宿へ戻って依頼で離れることを伝える。

宿の夫婦はすごく心配してくれたよ。

クッキーが逃げると思ったんだろうね。

だって「クッキーを少し置いてってくれ」って頼まれたから。断ったけど。

エンレイ村には『行きは馬車、帰りは徒歩』の予定だ。

田舎の村へ向かう馬車は少ないため、1週間に1回しか出ていない。

偶然にも今日、馬車が出発する日だったから、急いでスズと飛び乗ったよ。

- そのまま馬車で揺られること、約半日 -

途中で馬を休ませるために、何回か休憩を挟んで進んでいった。

何も問題のない順調な旅で、ギリギリ明るいうちにエンレイ村へ辿り着いた。

スズは村に着くと、迷わず村長さんの元を訪ねる。

出てきた村長さんにギルドカードを見せながら、

「Bランク冒険者、火猫のスズです。

依頼を受けてきました」

と、Bランク冒険者であることを伝えた。

Cランク依頼でこんな子供が来たら、正直ガッカリするだろう。

僕とスズは互いに身長が低く、見た目は二人とも子供。

それなのに、村長は「あの火猫様が!」と歓喜をしていた。

それを聞いた村人も「あれが噂の火猫様か!」「火猫様だって?」「猫神様か!」と、次々に集まり始める。

『火猫のスズ』のネームバリューが半端ない。

僕の付き人感も半端ない。

村長とスズは固い握手をして、村長宅で依頼の話をする。

僕に握手がなかったけど気にしない。

付き人だと思われてるだろうからね。

あながち間違ってもないし。

シルバーウルフの目撃者と村長から現状と被害について話を聞く。

「約1週間前から突如シルバーウルフが現れて、毎日のように畑を荒らしております。

そればかりか家まで襲ってくるようになりまして……」

村長と目撃者たちの話が長かったので、まとめようと思う。

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・毎朝シルバーウルフ3体が北側、もしくは東側からやってくる

・村の4割の畑が壊滅状態

・貯蓄していた食糧庫が襲われ始めている

・人的被害も出ている

・シルバーウルフが怖くて身動きが取れず、狩りに行けない

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村に着いてから1時間ほど話が続いた。

辺りはすでに真っ暗。

この世界は娯楽が少ないため、夜に活動するのは酒飲みぐらいだ。

でもシルバーウルフの被害が大きい状態で、酒を飲もうとする人はいない。

家に灯りが付いていても、かなり静かな夜だった。

依頼の話が終わって解散かと思ったら、スズが耳打ちをしてきた。

「肉、20キロ出して」

スズの言う通り、僕は目の前に20キロのオーク肉を取り出す。

ドンッと肉の塊がいきなり現れたため、村人たちは驚く。

「話を聞いて疲れた。

代わりに料理してほしい。

余った肉はあげる」

狩りにいけない村人のために肉をわけてあげたいんだろう。

やっぱりスズさんはイケメンだな。

「こ、こんなにですか!?

ありがたい申し出ですが、いただくことはできません。

料理はお作りいたしますから、残りはお返しいたします」

「持ってても腐る、処分するしかない。

有効活用するべき」

アイテムボックスに入れてあるから、腐らないけどね。

僕は空気を読める男だから口に出さないけど。

苦しんでいる村人に食べてもらいたいんだろう。

村長は涙を流しながら、オーク肉を受け取ってくれた。

僕が思っているより被害が大きいのかもしれない。

あまりにもスズがイケメン過ぎるから、僕の存在がますます付き人になってしまった。

誰も僕を見ちゃいない、ちょっと悔しい。

ここはスズの存在に負けてはいけない気がする。

対抗心が芽生えた僕は、【調味料作成】で唐突に塩を作り出す。

いきなり現れた岩塩の塊に、村人と村長は驚いている。

「この前3トン見つけて腐りそうだから」

よくわからない嘘をついてしまった。

だが仕方ない、対抗したいんだ。

「はぁ~~~!! ありがとうございます!」

ようやく村人が僕のことを認知してくれたようだ。

スズみたいに崇められたよ、やったね。

きっとスズのポイントも上がったと思うんだ。いい付き人でしょ?