スキル【調味料作成】についての説明が終わったので、気になるところだけ伝えておく。

「オーガの強化については、僕も気になります。

高ランクモンスターだから耐えたのかもしれませんが、オーガは辛さに耐性がありました。

大量のハバネロが口に入っても、10秒もしないうちに戦闘へ復帰したんです」

それを聞いたギルマスは信じられないような顔で驚き、勢いよく立ち上がる。

「なんだとーーー!!

大量のハバネロを10秒で復帰!?

恐ろしい化け物だな」

どうやらギルマスはハバネロがトラウマになったようだ。

ハバネロを基準に魔物の強さを決めないでほしいよ。

「あの時、オーガは1度のたうち回りました。

辛いものは苦手だったはずです。

数秒で回復したことを考慮すると、回復力を高めていたのかもしれません。

それにファインさんが全力で切りかかっても、お腹に傷は付きませんでした。

強化されていたと考える方が自然だと思います」

「そもそも~、ただの変異種のオーガエリートだったら倒せてるよね~。

魔法はどうだったの~?」

今まで黙っていたシロップさんが問いかけた。

さっきはスリスリして話を聞いていなかった人とは思えない、鋭い質問だ。

「仲間の騎士が魔法を試しているが、ダメだった。

オーガに傷を付けられたのは、弱点である首だけ。

タツヤのように体の内側から破壊してトドメを刺すか、誰かが陽動して首へ強襲を仕掛けるか。

倒す方法は今のところ、この2点しか見つからない」

自分だけ大きく取り乱したことが恥ずかしかったのか、ギルマスは咳払いをした。

「わかった、いったん話をまとめよう」

ギルマスが今までの話を整理して、簡潔にまとめてくれた。

そこで生まれた問題点が3つ。

1つ、何者かによって強化されたオーガが召喚されたこと

2つ、王女の命を狙っていること

3つ、最低でも2人体制で戦わないと勝てないほどの魔物を召喚してくること

「もう1つ気になるのが、王女の行方を知っていたことだ。

城の内部に情報をリークしている者がいる可能性がある。

これらのことはギルドから国へ報告する。

この会議であったことは全て他言無用だ、いいな」

みんながうなずいて、会議は終わった。

ギルマスとリーンベルさんは仕事があるのか、足早に部屋を出ていく。

「タツヤさん、少しよろしいですか?」

スズのところに向かおうとしたら、王女様に呼び止められた。

「どうされましたか?」

「あのクッキーはなんですか?」

スズとリリアさんがサッと現れた。

両手を差し出してくる。

そんなことをされると、昨日の無言の餌付けを思いだすからやめてほしい。

「えっと……企業秘密です」

「ひ、秘密ですか?!

せめて、どこで売っているかだけでも……」

「王女もファインも大丈夫。

だから、私にもクッキーを」

自分が食べたいだけで言わないでね。

僕はスズの付き人だけど、昨日みたいな餌付けはしたくないんだから。

まぁ王女様に与えてしまったことだし、少しだけだよ。

その代わり、みんなで仲良く食べてね。

……これがいけなかった。

僕は両手にクッキーを出し続けることになった。

ファインさん、王女、リリアさん、スズ、シロップさんが無言でクッキーを食べまくる。

鳩にエサをあげている気分だ。

僕の手からクッキーを奪い合っている。

カイルさんとザックさんは肉派なんだろう。

気にせずに外へ出ていった。

昨日心配してくれたシロップさんは、実はクッキー狙いだったのかな。

スズも反省していたと見せかけて、またクッキーを食べるための戦略だったのかな。

リリアさんがスズとリーンベルさんを批難したのは、確実にクッキーを手に入れるための作戦だったのかな。

僕は再び、疑心暗鬼モードになってしまった。

もし本当に心配してたら、こんな感じにならないと思う。

特にスズなんて、昨日の今日だよ?

なぜこんなに夢中で食べられるんだろう。

誰も僕の顔を見ず、手元にあるクッキーを黙々と食べ続けている。

プツンッ

頭の中で何かが切れる音がした。

みんな結局僕を見てくれないんだ。

僕のことなんか心配してくれない。

料理のことだけが心配だったんだ。

そんなに料理が好きなら、みんな料理でぶっ倒してやろう!

そうだ! そうしよう!

今までだって何度も布石はあった。

から揚げを食べただけで泣く者がいた。

ニンジンで光る者もいた。

料理を見ただけで反省する者もいた。

とんかつのおいしさを想像して倒れる者もいた。

今だって、周りが見えなくなるほどクッキーを貪り食べている。

アイテムボックスの中には大量の料理が用意されているし、全員が集まる機会もある。

僕が倒れて延期になった、とんかつ親睦会だ!

いける、いけるぞ!

こいつら全員料理でぶっ飛ばしてやる!!

僕は疑心暗鬼を通り越して、ヤケクソになってしまった。

「皆さん、よければ今日『とんかつ親睦会』をやりませんか?

準備はできているので」

シロップさん、リリアさん、スズは言葉を発しない。

首がとれそうな勢いで何度もうなずいている。

「なんですか? とんかつ親睦会というのは」

「来ないと後悔する、来るべき。

死んでも来るべき。

ゾンビになっても来るべき!」

「おい。こいつのこんな積極的なところを始めてみたぞ」

スズの猛プッシュにファインさんは引いている。

だが、その援護射撃に感謝をしよう。

「スズはいつもこんな感じですよ。

それに、このクッキーも【調味料作成】で僕が作ったものです。

クッキーをおいしく食べてもらえたのであれば、他の料理もおいしいと思いますよ。

夜になったらギルドの裏庭で開催しますから、ぜひ来てください」

「わかりました、ギルドの裏庭なら大丈夫ですね。

私は参加させていただきます」

「お、おう、俺も参加しよう」

「わかりました。

ではシロップさん、カイルさん達にも伝えておいてください」

「は~い!」

こうして『とんかつ親睦会』の開催が決まった。

誰も僕の企みに気付かないまま……。

帰り際、リーンベルさんに開催のお知らせをする。

他の冒険者やマールさん達もいるので、小声で伝えることにした。

「リーンベルさん、今夜とんかつ親睦会をすることになりました」

リーンベルさんは立ち上がって握手を求めてきた。

僕はしっかりと握手に応じる。

「今回は王女様とファインさんも参加します。

かなり多めに作りましたので、お腹いっぱいになるまで食べてくださいね」

「ありがとうごうざいます!!」

リーンベルさんは大きな声でお礼をいって、最敬礼のお辞儀をした。

小声で言った意味がなく、ギルド中の注目を浴びる。

でも、ヤケクソになっている僕には関係ない。

さらに追い打ちをかけていく。

「から揚げも用意しておきましたよ」

「「ありがとうごうざいます!!!!」」

近くにいたスズとリーンベルさんが大声でお礼を言い、再度最敬礼をしてきた。

冒険者ギルド内は異様な雰囲気に包まれる。

普段なら恥ずかしいと思うけど、今はギルド中の視線すらも快感に感じるよ。

どうやら僕は狂い始めたようだ。

「お腹、空かせておいてくださいね」

そう言った僕は、スズと一緒にギルドを後にする。

家に戻る途中、すごい勢いでカイルさんとザックさんが走ってきた。

「話は聞いたぞ! 今夜やるんだってな!

俺たちは、腹を最大まで空かせるために依頼を受けようと思う」

ザックさんも『うんうん』とうなずいている。

どんな理由で依頼をやるんだよ。

依頼主も複雑な気分になると思うよ。

だが、それでいい。

空腹は最大の調味料(スパイス)だからね。

僕はこの2人もぶっ倒そうと思っているため、ガンガン煽っていく。

「ホットドッグもありますから、安心して下さいね。

あっ、そうだ。肉が溶ける料理って知ってます?」

「何言ってるんだ。

柔らかいオークエリートの肉でも溶けることはないぞ。

……ちょ、ちょっと待て!

お、お前、ま、まさか!!」

おやおやおや、思ったよりも扱いやすい人達ですね。

だが、それでいい。

「今日の親睦会が本番です。

とんかつだけじゃなくて、色々な物を用意しています。

史上最強に柔らか~い肉料理も」

近くにいるスズも含めて、3人は驚愕の表情をしている。

早くも体が震え、ゴクリッと唾を飲み込むほどに。

「ぜひ、お腹を空かせて来てくださいね」

「お、おう! ま、まま、任せておけ!」

2人は喜びという恐怖を感じ、ギルドへ向かって走りだした。

僕とスズは、そのままリーンベルさんの家へ向かう。

家に着く頃には、午前中が終わろうとしていた。

会議が思ったより長かったからね。

スズと一緒に早めのお昼ごはんを食べようとしたら、「私はいらない、夜まで何も食べない」と拒否された。

だが、それでいい。

君とは全力でぶつかって決着を付けるべきだと思っているよ。

なぜなら、僕たちは両想いだからね。

君には1番心配してほしいんだ。

だから、クッキーばかりに夢中になるなんて許せない!

もう2度とこんな悲劇を起こしてはいけないんだ!!

- 7時間後 親睦会開催まで残り10分 -

「スズ、もうそろそろ戦場へ行くよ」

「戦場……?」

「親睦会という名の、戦場へ行くんだよ」

僕はもうテンションがおかしくなっている。

中二病が目覚め始めているんだ。

いつもと違う僕の雰囲気に、スズは何かを悟ったように顔付きが変わる。

「これから……Sランクの戦場へ向かう気がする。

ごはんを食べに行くだけなのに。

なぜ武者震いが止まらない。

いったい、何が起こるというの?」

「……生き残れ! それだけ君に伝えよう」

スズは自分では歩き出せないほど混乱している。

僕はスズの手を取り、ギルドへ向かっていく。

一歩また一歩と、ゆっくりギルドへ向かって歩き進める。

そこに会話など存在しない。

だが、それでいい。

今から楽しい親睦会が始まるわけじゃない。

戦場へ向かっているんだから。

ギルドに着くと、すでに4人の猛獣……いや、戦士がいた。

「不死鳥(フェニックス)のみなさん、良い感じでお腹ペコペコになってますね」

「……昼飯を抜いてきた。

俺達は、食うぞ?」

「吐かなければいいですよ。

今日は動けなくなるまで食べてくださいね。

その代わり……、冒険者が戦場で倒れないでくださいね」

不死鳥(フェニックス)の4人も『今日は何かが違う』と感じたのか、顔付きが変わる。

スズと合流した不死鳥(フェニックス)は、一足先に裏庭へ向かった。

僕はリーンベルさんの元へ行く。

「今日は本当にいっぱい食べてもいいんだよね?

今さらお預けは嫌だよ。

お昼ごはんも抜いたんだから……」

あなたは抜いても抜かなくても変わらないでしょう。

なぜそんな自殺行為をしたんですか。

禁断症状で手が震えてるじゃないですか。

だが、それでいい。

「大丈夫ですよ、思いっきり食べてください。

むしろ、最後まで生き残ってくださいね」

「………生き残る? え?

今日の親睦会ってそれほどのレベルなの?」

「僕の故郷では、親睦会のことを戦場と呼ぶ人がいます。

戦場では弱肉強食。

弱いものは倒れ、強者のみが生き残ります。

……期待していますよ、リーンベルさん」

リーンベルさんは激しく震えだす。

もしかしたら、後悔しているのかもしれない。

頭を抱えて「何が起こるの?」とパニックになっている。

でも、もう遅いんだ。

もう止められないんだよ。

この戦いは、避けられない。

次に会うときは戦場です。

お互いに持てる力を出し尽くしましょう。

僕は全力で潰しに行きますから。

そして、ギルドが閉まった………。

リーンベルさんがフィオナ王女とファイン騎士団長を呼びに行き、舞台が整う。

さぁ、おいしい食事の時間、親睦会(たたかい)を始めようじゃないか。