なんでリーンベルさんがお風呂に入ってきたんだろう。

いや、もはやそこは問題じゃない。

あの天使であるリーンベルさんが、バスタオル姿でいらっしゃるのだから。

もっと別の問題である、美しい見た目について触れたいと思う。

天使のくっきりとした綺麗な鎖骨ラインだけでも、魅力はマックス。

バスタオルに包まれたおっぱいという膨らみも、申し分ない。

普段は見れないピチピチの太ももなんて、暴力という言葉でしか表現できない。

手を胸の前でモジモジさせながら、口を少し尖らせ、チラチラと目線を合わせたり外したりして恥ずかしがっている。

普段見れない体の露出部分に目を奪われてしまうのも、仕方がないだろう。

心の中に眠る欲望という名の妄想が、恐ろしいスピードでエロエピソードを構築していく。

それだけでも、幸せの極みに達している。

本来の僕がバスタオル姿のリーンベルさんを見ていたら、一瞬で死んでいただろう。

僕みたいなひよっこに、こんな強烈な刺激は耐えられるはずがない。

でもね、やっぱりリーンベルさんは天使だから、僕を殺すようなマネはしないんだ。

天使の神聖な波動による慈悲効果を発動してくれたはず。

明らかにおかしな現象が起きてるからね。

『初心(うぶ)な心』の発動が止まった、まではいいんだけど、心臓が動いてないんだ。

うん、脈も……ないな。

間違いなく、心拍数は0。

別名、心停止だ。

天使のバスタオル姿に大興奮しているのに、心臓が止まっているため、ドキドキしないという奇跡が起こっているんだ。

いったいハイエルフって、どうやって生きているんだろうね。

異世界って不思議だよなー。

大興奮してるのに落ち着けるって、不思議な感覚だよ。

「リーンベルさん、ここはお風呂ですよ。

どういう気持ちで入ってきたんですか。

僕が入ってるの、知ってますよね?」

「恥ずかしいに決まってるじゃん……」

照れながらもゆっくり湯船に入ってくるリーンベルさんは、可愛すぎて困る。

僕は『初心(うぶ)な心』が発動していないのに、直視することができなかった。

もしかしたら、おっぱいを2秒以上見れないのは元々の体質だったのかもしれない。

僕は相当女性の体に弱い人間なんだな。

ハニートラップなんてかけられたら瞬殺だよ。

リーンベルさんは湯船に入ると、そのまま僕に近づいてくる。

真正のスーパーヘタレが発覚した僕は、思わず背を背けてしまう。

とてもじゃないけど、正面から向き合うことができない。

「ほらっ、ちゃんとこっち向いて話そうよ」

何について朝からお風呂で話し合うんですか。

体と体の話し合いなら、ベッドでお願いします。

もっと順番に進めていただきたいものですが。

「自分で言うのも情けないですけど、耐えられないんですよ。

リーンベルさんに耳を噛まれて、一瞬で気絶した男ですからね。

お風呂で向き合うなんて、難易度が高すぎます。

わざわざお風呂で話す必要はないと思うんですけど」

「私だって頑張ってるんだから、ちゃんとこっち向いてよ。

倒れたら外に運んであげるから」

「嘘かと思うかもしれませんが、今なぜか心臓が止まっているんです。

でも生きていますから、これ以上は刺激を送りたくないんですよ。

多分、倒れるを通り越して死にますから」

なんで命をかけてお風呂に入っているんだろうか。

天使リーンベルさんとの入浴については、ありがたいけどさ。

「あ、うん、じゃあこのままでいいよ」

それで納得するんだね。

嬉しいのか悲しいのかよくわからない気分になったよ。

「あのね、昨日はごめんね。

本当にずっと心配してたんだよ。

みんなが言いたいこともわかるし、私が悪かったって思うの。

でも、食べ物のことになると制御できなくて……」

「昨日も言いましたけど、僕は気にしてません。

今までずっと食べるところを見てきましたから。

それに、僕の料理が原因なところもありますし。

少しくらいは制御してくれると嬉しいですけどね」

「はい……」

「僕よりもスズのことを心配してあげてください。

スズはリーンベルさんのことが大好きなんですよ。

普段リーンベルさんがいないところでも、気にかけてますから。

最愛の姉の元へ帰ってきたのに、食欲優先にされたら悲しむのは当たり前です。

王都の果物も『アイテムボックスがあればお姉ちゃんと食べられる』って、買うだけ買って食べるの我慢してるんですよ」

「え、果物があるの?! あっ……」

「そういうところは治しましょうね」

「今のは、ずるいと思うんです」

「ずるくないです、スズの気持ちも考えてください。

楽しみにしてフリージアに戻ってきたのに、戻ってこなければよかったって言わせちゃダメですよ」

「はい、すいません……」

「僕とお風呂に入ってる場合じゃありませんよ。

スズ、マールさん、アカネさんと早く仲直りをしてくださいね」

「うん……」

話がうまくまとまってよかった。

顔が見えないように背を向けてるとはいえ、よくこの状態で冷静に話すことができたよね。

自分を褒めてあげたいよ。

と思った、その時だ。

いつの間にか真横に移動して来たリーンベルさんが、可愛い笑顔をしたまま僕の顔を覗き込んできたんだ。

目の前にバスタオル姿の天使が笑顔で降臨されてしまい、僕の興奮は絶頂に達してしまう。

ドゴンッ ドゴンッ

あぁぁぁぁぁ、心臓が動き出したー!

いや、人間としてはとてもありがたいことなんだけど。

でも、この心臓の動き方はおかしい。

強力な魔物が封印を打ち破ろうとしているような感じがするんだ。

僕の心臓には邪神でも封印されているのか?!

強烈な衝撃で破ろうとしてくるから、心臓が弾け飛びそうに痛いよ。

でも、今はそれよりリーンベルさんだ。

これ以上バスタオル姿で近くにいてもらっては、本当に心臓が弾け飛ぶ。

「な、なな、な、なんで隣に来るんですか?!

リーンベルさんは自分の可愛さをわかってますか?

天使みたいな見た目でバスタオル姿を見せてきたら、僕みたいなチョロい男は1秒も持ちませんよ。

本当に死ぬんで、視界に入らないでください」

リーンベルさんは納得してくれたのか、視界から外れてくれた。

「タツヤくんってさ、いくら10歳でも耐性がなさ過ぎるよね。

そこがまぁ、可愛くもあるけど」

可愛いって言わないでくださいよ。

そういう好意的な言葉に弱いんですから。

ほらっ、また心臓の封印が解かれそうになって大暴れしてる。

何が封印されているのか知らないけど。

「私ね、ここまで怒られたことないから、どうしたらいいのかわからないの。

だから、怒ってる3人と仲直りの食事会とか、開けないかな?

お礼は……体でするから」

バスタオル姿で誘惑しておいて、お礼を体でするだと?!

そんなパワーワードを受け取る日が来るとは思わなかった。

この天使は、自分がなにを言っているのかわかっているのか?

普通はワンナイトラブ的なことを想像しちゃうぞ。

リーンベルさんになら遊びでもいいから弄んでもらいたいし、もちろんOKなんだけどさ。

思い出だけでもいいから、魂に刻み込みたい。

「公園で、デートしよう?」

あぁ……そういう感じですか。

いや、それでも僕にとってはハードルが高すぎるだろう。

スズとの初デートだって、浮かれすぎて手汗がヤバかったもん。

実は危うく脱水症状になりかけてたし。

でも、僕はデートするなら一言いっておきたいことがある。

「頭ナデナデのオプションはありますか?」

「……君ってさ、欲望だけすっごい子供っぽいよね。

普通はバスタオル姿の方が喜ぶと思うよ。

なんで頭ナデナデを求めちゃうのかなー」

だ、だって、リーンベルさんの頭ナデナデすごいんだもん。

ナデナデポイント発掘してくるとか、意味がわからないよ。

快感すぎて忘れられないの。

優しい言葉をかけられながら、攻められるのが1番好きなんだ。

僕って近寄っちゃいけない系の変態だから。

「まだ子供だから仕方ないんです。

あと、仕事の時間は大丈夫ですか?」

「え?! ちょ、ちょっと待って!

忘れてた、急いでいかなきゃ。

先にあがるから、着替えるまで出てこないでね」

「わかってますから、早めにお願いします。

正直のぼせてますし」

リーンベルさんはバシャバシャと音を立てて、急いでお風呂から出ていった。

紳士的な僕は彼女に背を向けたまま、風呂場から出ていくまで振り向くことはない。

だって、濡れたバスタオルが肌にペターってなるからね。

そんな姿を見たら、絶対に心臓の封印が解かれるよ。

今は落ち着いてドドドドってしてるけど。

……そもそも、本当に封印されてるのか知らないけど。

しばらく待っていると、脱衣場からドタバタと急ぎ足で離れていく音が聞こえた。

僕はふぅ~とため息をつくと同時に、ポタッポタッと鼻血を垂らす。

「……よかった、リーンベルさんの前で鼻血を出さなくて」

鼻血をタオルで隠しながら、お風呂から上がった。

天使のバスタオル姿に興奮しすぎた上に、のぼせてしまったからね。

全然止まりそうにないよ。

むしろ、だんだんヒートアップしてドバドバ出てくるじゃん。

今まで出てくるの我慢してくれてたのかな。

本当にありがとうね。

服を着替えて脱衣所を出ると、フィオナさんが出るのを待ってくれていた。

「は、鼻血?!

ベルちゃんとそんなに激しいプレイをしていたんですか?!」

「してませんよ、まともに見れませんでしたから。

でも、なんで一緒に入っていたことを知っているんですか?」

「ふふふ、落ち込んでいる女の子を慰めるのは、殿方のお仕事ですよ」

まさか……リーンベルさんがお風呂に入ってきたのって、フィオナさんのせい?