- クリスマス・イブの前日 -

フリージアの街では、冒険者ギルドに特別依頼が設置された。

『街を魔石で飾り付けして、魔石イルミネーションを作り出せ』と。

こんなクソリア充イベントに率先して参加する冒険者は少ない……と、普通は思うだろう。

男だけでパーティを組んでいるところもあるし、パーティに女性がいても両想いとは限らない。

初心者冒険者が多い街ということもあって、装備の見栄えが良いとは言い難く、モテない男の方が多いと思う。

そのため、大半の冒険者はクリスマスなんてどうでもいいと思っている。

しかし、冒険者ギルドもバカではない。

依頼報酬額は、1人あたり金貨3枚(3万円)である。

オークも狩れない初心者冒険者の日給は、金貨1枚にも満たない。

パーティを組んでいれば、当然のように取り分も減る。

それなのに、1日飾り付けをするだけで1人あたり金貨3枚も出るんだ。

なんて太っ腹なんだよ、冒険者ギルドめ!

リア充イベントを開催するために、そこまでやるのか!

今年に関しては、本当にありがとうございます!!

楽しい思い出ができそうで何よりです!

そう、今年の僕はクリスマスを一緒に過ごす相手がいる。

32年間の人生で、初めて誰かと過ごす聖なる夜。

思い返せば、クリスマスなんて良いことが1度もなかった。

去年までの僕は……、

仕事帰りにコンビニへ寄って、「チキンを1つ……あぁ、今日は2つでした」と、普段買わないのに謎のリア充オーラを出すために2つのチキンを購入。

ついでに2つ入りのケーキを買い、誰も待っていない家へ1人で帰る。

この日だけは自分で料理を作ることが億劫になり、非常食のカップラーメンと共に買ってきたものを食べて、寂しくテレビを眺めて寝るだけ。

人生で1番【悲しみの魔法使い】であることを自覚する、憂鬱な日だった。

だが、今年はどうだろうか。

聖なる夜にふさわしい天使、リーンベルさんがいる。

無駄にAランク冒険者の凄さを見せ付けるように魔石の飾り付けをする、スズがいる。

ルンルン気分で家の庭を掃除する、フィオナさんがいる。

どうしよう……、逆に誰と一緒に過ごせばいいのかわからない。

初めて異性と過ごすクリスマスなのに、なぜ僕はモテ男のように悩んでいるんだろうか。

1人の好感度は上がったとしても、2人の好感度が下がってしまう。

ここは仲良くみんなで一緒に過ごして……いや、そんなことではダメだ!

クリスマスという聖なる夜ぐらい、好きな女性と2人きりで過ごすべきだろう!

クリスマスムードに押し流され、2人の関係が深まる最高のイベントなんだぞ!

人生初のクリスマスデートで、僕は子供から大人へと生まれ変わる!

そうと決まれば、自分らしさを大切にしたいと思う。

僕らしく待ち続け、最初に声をかけてもらった人と一緒に過ごそう。

女性を誘うなんて男らしいことをしてはならない。

待つ専門である僕は、誘いを待ち続けなければいけないのだ!

自分から誘う勇気がない、というわけではない。

予定がある、と断られるのが怖いわけでもない。

実は両想いじゃなかった、という可能性に怯えているわけでもない。

……本当だよ? 本当だからね?

そわそわした気持ちで落ち着かないまま、僕はクリスマスのお誘いを待ち続けた。

誰に誘われたとしても、最高のクリスマスを過ごすことができるだろう。

もし、誘われなかったらどうしよう……と思っていると、1人の女性が僕に近付いてきた。

それは……、