Tensei Shite Inaka de Slowlife wo Okuritai
Egal's advice
俺とルーナさんの戦いが終わると、その次はエリックとシルヴィオ兄さん、エリノラ姉さんとルーナさんというように総当たりで打ち合い稽古をしていく。
それをやっていく中で、やっぱり一番強いのはエリノラ姉さん。その次にルーナさん、シルヴィオ兄さん、エリック、俺という予想通りの結末だった。
まずエリノラ姉さんは圧倒的だった。二番手にあげられるルーナさんであっても、数合打ち合うと剣を弾き飛ばされたのだ。
これには普段からルーナさんの実力を知っているエリックも目を大きく見開き、ようやくエリノラ姉さんの強さというものを理解し始めたようだ。
でも、それは強いという一部分なだけで理不尽さなどは見えていない。それを知るのはもう少し後だろう。
次に、エリックとシルヴィオ兄さん。この二人が実に拮抗した戦いをしてくれたのだが、エリックの剣術でシルヴィオ兄さんの防御を突破することができずに、最後には必殺シルヴィオバッシュで見事にやられていた。
あの時のエリックのやられようと言ったら、今でも思い出すだけで笑える。
「貴様、なに俺を見て笑っているのだ」
「いやー、シルヴィオ兄さんにやられた時のことを思い出して」
「くっ! シルヴィオ殿の防御力が異常なのだ! 何なのだあの防御力は! どこを攻めても勝てる気がしないぞ!」
シルヴィオ兄さんに負けたことが悔しかったのか、エリックが地団太を踏みながら言う。
あはは、あの時のエリックの慌てぶりと言ったら面白いものだった。
呑気にエリックを見て笑っていると、エリックはこちらを見て意地の悪い笑みを浮かべる。
「貴様も人のことを笑えるのか? エリノラ嬢とやる時、一合はもって見せると豪語していたというのに」
「ぐぬぬぬ、あれはちょっと、エリノラ姉さんが思ったよりも力を出してきたから……」
エリックにそう言われて俺は思わず歯噛みする。
総当たりということで、一応俺はエリノラ姉さんと打ち合いをすることになったのだ。
その時にエリックに負けたくない一心で一合は持ってみせると大声で会話していたのが間違いだった。
それを聞いていたエリノラ姉さんが、意地の悪いことにいつもよりも力を出してきたのである。
結果的に俺はエリックと同じように一合だけで終わった。
打ち合ったと思った時には、天地がひっくり返っていたのである。
「つまり、貴様は実の姉の力を知りながら油断したと?」
「そうっちゃ、そうだけど、そうでもないような」
「何だ? 見苦しい言い訳か?」
「だって、そもそもエリノラ姉さんの本気の実力なんて俺に計ることも、引き出させることも不可能だもん」
「……確かに」
俺をバカにしていたエリックだが、最もな言葉を聞いたから神妙な顔つきになる。
俺やシルヴィオ兄さん、エリックなどは手加減されてなお、あっさりと負ける程の実力の差。それで本気を出させるというのも無理な話だ。
おかしなことに、いつも一緒にいながらエリノラ姉さんの本当の実力など全く知らない。
かろうじてルーナさんならば推し量れるくらいで、完全に把握しているのはルンバやノルド父さん、エルナ母さんだろうな。でも、あの辺は人外なので正しい返答がくるかは期待できないけど。
「よーし、各々の大体の実力はわかった。俺とノルド殿でアドバイスをしていく! 集合だ!」
俺とエリックが神妙な顔つきで考え込んでいると、エーガルさんが声を上げた。
その声に反応して、各自休憩していた皆がエーガルさんとノルド父さんのいる場所に集まる。俺はゆっくり歩いていこうとしたのだが、俺以外の全員が走ったことによって合わせざるを得なくなった。
「じゃあ、まずは課題の多いアルフリート君からいこうか」
エーガルさんの言葉により、最初に俺がつるし上げられることが決まった。
一番なってない奴からいびられるという訳か。
「ノルド殿から聞く限りだとアルフリート君は魔法の方が得意のようだな?」
「はい。ですので、剣で相手を倒し切ることを前提に考えておらず、相手の攻撃をできるだけ避けて生き残るようなスタイルです」
自分のスタイルの確立。というのはノルド父さんから口を酸っぱくして言われるので、スラスラと答えることができる。
そもそも俺は魔法使いであって、エリノラ姉さんのように剣でなぎ倒すようなスタイルではない。魔法使いの俺が剣を使うことはよっぽど追い込まれていたり、急を要する場合だけなのだ。
例えば咄嗟に詠唱する暇もなかったり、魔力が底を尽きてしまったりなど。
でも、長年の魔法の訓練によって、それすらもあり得ない事態になってしまったので、剣をやる意味もないのでは? という疑問がでてきたが、それは深く考え過ぎずに健康のためということになっている。
「……ふむ、それは見ていて俺も察することができた。しかし、ルーナが言うようにやはり惜しい。あれほどの柔軟な発想と間合い取りは中々できることではない。それらの動きに身体が追いつき、何か一つだけ
得意な技があればもっと高い実力へといけるだろう」
つまり、もっと素晴らしい動きをできるように身体の基本能力を鍛えろ。相手へ有効な一撃を何か見つけろということだ。
エリックの突きのように、何か突出したものが一つあると相手へのプレッシャーになるからな。
「……あれが柔軟な発想か」
俺の小手先の技が気に入らなかったのか、エリックが複雑そうな表情で呟く。
「エリックは考え方が硬すぎる。だから、剣筋も硬くなって容易に読まれるのだ。お前には、もう少し柔軟な発想をして相手の嫌なことをするべきだ。そうすることでお前の剣もルーナのように幅が広がる」
「……そう、エリックは真面目過ぎ」
さすがに身内だけとあって、エリックに対して容赦のない二人。
確かにエリックの剣は鋭く速く、しっかりしているがそこまで恐ろしくは感じない。何故ならば型のような綺麗な剣を放ってくるからだ。
効率化された剣技を放つのも有効であるが、それを知っている相手にやると簡単に読まれるものだ。
「ぐぬぬぬ、俺にこいつを見習えと?」
「そこまでは言ってないが、もう少し相手の嫌なことを考えるべきだな。フェイントやリズムを変えるだけでも十分効果的だ」
「なるほど」
具体的な嫌なことをエーガルさんが挙げると、エリックは納得したのか落ち着いて頷く。
「……元より、エリックにアル君の真似なんて無理」
ルーナさん、それは俺のことを褒めているの? それとも性格が悪いと貶しているのだろうか。ちょっと疑問である。
「次はシルヴィオ君だな。盾や剣で防御し、相手が崩れる瞬間を狙ったり、カウンター狙いのスタイルだろう」
「はい、そうです」
「防御の方はもう少し盾を上手く使えるはずだ。例えば相手の剣を盾で滑らせて自らが懐に入るなどだ。後で騎士の盾術を少し教えてあげよう」
「はい、お願いします!」
攻撃の苦手なシルヴィオ兄さんでも、それを会得して使えば容易に攻めることができるようになるだろ
う。
何とも嫌な攻守一体の技だ。シルヴィオ兄さんへの勝率がドンドンと遠のいていく気がする。
「それと砂地での効率的な動き方も改めて教えるので、アルフリート君とシルヴィオ君は俺のところに来るように」
「「はい!」」
もうちょっとネチネチ言われるかと思ったが、さっぱりと纏められていた。
途中でエリックが口を挟んでくれたお陰で俺への指摘が大分緩和された気がする。ちょっとだけ感謝してやろう。
「次にルーナだが状況判断が遅いのが問題だ。お前の戦闘スタイルは自分から攻めて、攪乱し、短期で相手を無力化するものだ。シルヴィオ君やアルフリート君へ仕掛けるのが遅すぎる。いつもの自分の手が通じないと思ったら、いくつものパターンを即興で組み上げて、変化させて柔軟に対応しろ」
「……わかった」
「特にシルヴィオ君とアルフリート君のスタイルは、お前の苦手とするところだから、そこをどう早く無力化できるかだ。どんどんと経験を積んでいけ」
「……うん」
ということは俺とシルヴィオ兄さんは、これからドンドンとルーナさんの相手をやらされるのか。あー、嫌だなー。
俺がそんなことを思っていると、ルーナさんへのアドバイスは終わったらしくエーガルさんがエリノラ姉さんの方を向く。
「そして最後にエリノラ嬢だが、もはや俺には……」
「アドバイスお願いします!」
もはや何も言う事がないと、エーガルさんは言おうとしたのだろう。
しかし、エリノラ姉さんが頭を下げた元気な声に見事遮られた。
「「…………」」
エーガルさんが苦しい表情を浮かべるが、エリノラ姉さんはそれに気付かずに期待に満ちた視線を向けている。
きっと今までのアドバイスを聞いていて、自分にも何かいいアドバイスを貰えるはずだと期待している目だ。
あのような真っ直ぐな視線を向けられたら、期待に応えなければいけないと思うのが大人というもの。
エーガルさんは視線を少し右往左往させて、考え込んだ後、一つの言葉を絞り出す。
「……そ、そうだな。せっかく砂地で稽古しているのだ。余裕がある時は、色々な体術を試してみてはどうだろうか? ここは普通の場所と違って投げ飛ばされても砂がクッションになる」
「そうですね。今日は剣だけでなく、色々な体術を試してみようかと思います!」
今日一日、俺達が砂地を転がり回るのが決定した瞬間だった。