「串になりそうな枝と燃えそうな枝を集めてきたぜ!」

 陸に上がって服を着た後、火魔法で火を浮かべているとトールとアスモが枝を抱えて戻ってきた。

「さすがはアル。早くも火をつけて準備してくれているね」

「勿論だよ。真ん中に燃えそうな枝を置いて」

「わかった」

 俺がそう言うと、アスモは乾燥した枝を火球の下に入れていく。

「アル、水球にいる鮎に串入れていっていいか?」

「うん、お願い。水魔法の水球に移し替えたから適度に洗われてるよ」

「わかった」

 そう言うと、トールとアスモが水球に手を突っ込んでいく。

「へへっ、もう逃げらんねえぜ! 観念しろ!」

「大人しく塩焼きになれ」

 逃げられたことを根に持っていたのか嗜虐的な笑みを浮かばながら捕まえていく二人。

 あんまり鮎を苛めるなよな。

 トールとアスモを眺めていると、火球の下では枝に火が移ったのか微かに煙が出てきた。

 そこに乾燥した葉っぱを寄せながら、風魔法で優しく風を送ると完全に燃え始める。

 炎が安定していることを確認した俺は、火魔法を解除。

 別に火魔法をずっと浮かべながらでも問題ないが、こっちの方が風情があるので魔法なしで焼いていこうと思う。

「よっしゃ、じゃあ焼いていくか!」

「塩は?」

「もうまぶした」

 いざとなったら空間魔法でポケットから塩を出してやろうと思ったが、既にアスモが持参していたようだ。

 そうだな。最初に誘う時もトマトに塩をかけて食べたら美味しいとか魔の誘惑をしていたしな。

 おっ、トマトで思い出したが夏野菜だ。遊ぶ前に川で冷やしていたから結構冷えているだろう。

 俺はテキパキと火の回りに串に刺さった鮎を設置していく二人をしり目に移動。

 俺が夏野菜を置いた場所では、水ナスやトマトがプカプカと浮かんでいた。

 それを手ですくい上げて肌で温度を計ると、確かに冷たくなっている。

「ああ、早く焼けねえかな。腹が減って死にそうだ」

「同感」

 俺が夏野菜を抱えて戻ると、トールとアスモは鮎をじーっと見つめながらだらけていた。

「鮎が焼けるまでの間は夏野菜を食べようよ。ほら、川で冷やしておいたから」

「今は鮎の気分だけど空腹には勝てねえな」

「うん、俺も貰うよ」

 トールとアスモが水ナスとトマトを取ると、俺は適当な大きさの石に腰を下ろす。

 おお、いい感じの大きさだ。ちょうど鮎を眺めることができるし、表面の凹凸も少ないのでお尻も痛くない。

 とりあえず、俺はトマトを一つ取って、残りを籠に置いておく。

 そしてまずは水分補給代わりに齧り付く。

 するとトマトの甘い果汁と果肉が口の中で一気に広がる。

 うーん、この程よい甘みと酸味が堪らない。

 冷たい水の中にいたとはいえ、結構な時間を過ごしていたので渇いていた喉が一気に潤う。

 さて、次は塩をかけて味わおう。

「アスモ、ちょっと塩かけて」

「ほい」

 そう言ってトマトを差し出すと、アスモが小瓶の蓋を開けて、傾ける。

 すると、俺のトマトの上にほんのりと塩がかかった。

 それをまた同じように齧ると、今度は絶妙な塩味が加わった。トマトの甘みと酸味にこれまた塩分が良く合う。

 やはり川の中にいても汗はかいていたのだろう。塩分がとても美味しく感じられる。

 これで鮎の塩焼きなんて食べたらどうなるのか想像するだけで堪らない。

 アスモと塩をかけながらパクパクとかじりつくと、手の中にあるトマトはあっという間になくなってしまった。

 まだ水ナスやトマトが残っているが、何となく食べる気分になれなかったので置いておく。

「「「…………」」」

 気が付けば俺やトール、アスモは夏野菜を食べ終わって、火に炙られる鮎をじーっと眺めていた。

 積み上げた枝がパチパチと音を立てる中、俺達は鮎が焼けるのを待つ。

「何だか今の俺はアルみたいな目をしている気がするぜ」

「あー、わかる」

 確かに鮎を無心で見つめるトールとアスモの目は死んだ魚のようで――と言えば自分に被害がくるので黙っておく。

 しばらく見守っていると、鮎から水分が抜けて茶色い焦げ目がつくと共に、身の焼ける匂いがしてきた。この香ばしい塩の匂いが堪らない。

「そろそろひっくり返そうか」

「そうだね」

 鮎の半面が焼けてきたので串の角度を変えて、反対側を炎で焼いていく。その動作の中でも、鮎の焼ける匂いが漂ってくる。

 お腹が鳴ったのはアスモかトールか。しかし、それを責めることができないくらいに鮎の塩焼きは破壊力のある香りを漂わせていた。

 しっかりと中まで火が通せるように調整し、見守ることしばらく。

 じっくりと中まで火を通されたのか鮎は、茶色い焦げ色を全身につけており実に美味しそうだ。

「おい、これもう焼けただろ! 食おうぜ!」

「そうだね。食べようか」

「うん、問題ない」

 食にうるさいアスモが頷いたところで、俺達は目の前に刺さっている鮎の塩焼きを取る。

 そこからはもう食べるだけ。俺は我慢できないとばかりに早速背中に齧り付く。

 カリッと焼けた表面は塩味がとても効いており、口の中であっさりとした白身がほろりと崩れていく。鮎の淡白な白身の甘みと塩味の相性が絶妙。

「……美味しい。やっぱり鮎は塩焼きが一番だね」

 あまりの美味しさにホッと息を吐きながら呟く。

「この何とも言えねえ魚の旨味が最高だな!」

「塩味との相性も抜群」

 勢いよく齧り付きながらそのような感想を漏らすトールとアスモ。

 俺も負けじと今度は頭を齧る。

 背中にある柔らかい身と違って、ほとんど身がないせいか少し食感は硬い。しかし、この適度な硬さと内臓の苦みがまたいい。

「この苦みもまたいいよね」

「わかる」

「えー、そうかよ? 俺はこの苦みがちょっと苦手だぜ」

 俺の言葉にアスモが同意するように頷いたが、トールは違うよう。

 俺とアスモはお互いに顔を見合わせてフッと笑い、可哀想な奴を見るような目でトールを見る。

「おい、何だよ、その可哀想な奴を見る目は?」

「この苦みの良さをわからないなんてトールは可哀想だなーって」

「鮎はこの苦みがあるからいいのに」

「うるせえ、苦いものは苦いんだよ!」

 俺とアスモがからかうと、トールは鮎に齧り付いて反抗するように頭付近を残した。

 あー、美味しいというのに勿体ないな。

 まあ、好き嫌いは人それぞれだし、子供のうちは苦みに敏感だから仕方がないか。大人になればきっとトールも苦みの良さに気付く時がくるだろう。