Thanks to a Different World Reincarnation

Until 91 stories of "Notice the Screw"

 第2話「念願のVRゲーム」から第91話「出発前」までを、いくつかのブロックに分けています。

 当然ネタバレを含みますので、読了済みの範囲だけお読みください。

『(第2話)念願のVRゲーム ~ (第54話)一つの区切り』

 子供の頃にTVゲームに出会って以来、ゲーム好きとして生きてきた老人がいた。彼は生涯独身であったが、友人や弟妹夫婦の家族等に恵まれ、色々あったが自分は幸せな人生を送って来れたと思っている。

 そんな彼が老人と呼ばれるようになって久しく経った頃、夢であったVRゲームが実用化される。長年夢見てきた装置の実現に老人は狂喜し、早速VRゲームを始める事にした。しかも一番好きなジャンルであるRPGだ。

 せっかくなのでアバターの年齢設定は18歳の若者にし、初期スキルとして『武の才能』『魔力操作補正』『健康』『鑑定』を選ぶ。

 そうして全ての前準備を終えると、老人は嬉々としてゲームを始めた。

 そしてゲームで初めて出会ったのが、ナビゲーター役である『クリス』だ。全身鎧を身に纏った性別不明の人物で、AIなのかそれとも人が演じているのかは定かではない程自然な対応をしてきた。その時老人はAIか人かを気にする事は止め、ゲームで会う全ての人物を生きた人間として対応する事に決めた。

 老人は自らの名前を『ジン』とし、どんどんチュートリアルを進める。しかし選んだ初期スキルに直接戦闘で使えるものが無かったので、残念ながら初期武器や初期鎧も持たない服だけの状況だった。

 そこで救済措置として、『無属性魔法』のスキルと『木剣』という武器をクリスから貰った。どちらも正式な魔法や初期武器に比べると攻撃力も低い使い勝手のあまり良くない代物だったが、ジンは大喜びだった。

 チュートリアルを一通り終えた後にクリス提案のモンスター戦を何度か繰り返し、始まりの街で武器防具を揃えられるだけのお金を貯めたジンは、いよいよ本格的にゲームを始める準備が出来た。

 最後にナビゲーター役のクリスから微弱なHP回復能力を持つ『癒しの指輪』を贈られ、友人としてそれを受け取るジン。そしてクリスと別れた後は、フィールドに設置された門をくぐって本格的にゲームを始めるだけとなった。

 一人残されたチュートリアル専用フィールドで、ジンはこれまでの人生を思い返す。そして猛烈な衝動に突き動かされ、ジンは心のまま素直に感謝を叫んだ。そして我に返り若干気恥ずかしさを覚えたジンは、草原に寝転がり一休みする事にした。

 そうしてジンが目をつぶって少しの後、強い光と共にその場から彼の姿が消えた。それが彼のVRゲームの終わりであり、異世界生活の始まりだった。

 こうして老人はVRゲームの『ジン』というキャラクター設定のまま、18歳の若者として異世界に転生した。ここで言うゲームのままという意味は、スキルや外見だけを意味するのではない。ゲームにつきものであるMAP表示や、インベントリ型の収納に傷つかない体等の仕様もそのままだ。これらスキルとは別の能力ともいえるゲームの仕様は今後もジンを助ける事になるが、ただ一つ痛覚設定に関してだけは、しばらく後に決別する事になる。 

 異世界に降り立ってしばらくはまだゲームだと思っていたジンだったが、ログアウトできない状況やステータスに追加されていた『神々の祝福』の称号などにより、自分が転生した事を理解する事になった。そこにもう元の世界の友人知人に会えない寂しさはあったが、若返って第二の人生を送る機会を与えてもらったことに感謝し、これからその事を忘れないで生きていこうと決める。

 職業として冒険者になる事を決めたジンは、ギルドで受付をしている『アリア』と教官である『グレッグ』という良き理解者と出会う。

 その他にも武器屋の『ガンツ』、神殿長の『クラーク』や、薬屋の『ビーン』、門番の『バーク』とその家族である妻『ベス』に息子『ニルス』など、冒険者の先輩として、年長の友人として、その他様々な形で彼らはジンの人生に関わってくる事になる。

 その後若干のトラブルを乗り越えて無事冒険者となったジンは、魔獣の群れとの想定外の戦闘でこの世界が現実である事を強く理解する事になった。その魔獣――マッドアントとの戦闘は厳しい物だったが、それを乗り越えたジンは多くのスキルと一つの覚悟を得る。

 激しい戦闘を乗り越えられた理由を本人は正確には理解していなかったが、普通なら死んで当たり前の状況だった。それを覆した要因の一つに戦闘中に覚えた各種スキルに代表される成長速度の速さが挙げられるが、それはこの世界の常識としては有り得ないものだった。

 後に判明するが、ジンがゲーム時代に取得していたスキルは、転生と共に変化していた。

 スキルレベルがないスキルにはMAXと追記されており、その文字が意味するまま最大限の効果を発揮するようになっていた。『武の才能』を例にとって説明すると、このスキルの様に効果が武芸全般に及ぶので汎用性が高い為、あえて弱い効果に抑えて設定されていたものが、万能さはそのままに最大限に強化された効果を持つスキルに変化したのだ。

 また、この世界に持ち込んだ『ポーション』や『木剣』等も同様に変化し、破壊不能属性や状態保持の効果等、同じくこの世界にはあり得ない品々となっていた。

 この辺り、自身の異常性や知っておくべき常識を、周囲の理解者に助けられて学んでいくジンだった。

 マッドアントとの戦いから数日後、ジンはかねてから予定していた初心者講習に参加した。

 ギルドからの引率メンバーとしてグレッグとエルフ女性の『メリンダ』、その他にもラジオ体操を通じて知り合ったDランクの『エルザ』という獣人女性や、Cランクパーティの『風を求める者達』から『ゲイン』、『エイブ』、『ムース』の3人が参加した。

 そして指導を受ける側はジン以外にも6人の新人が参加した。

 火魔法使いの『ダン』と回復魔法を使う『メグ』、剣術スキルを持つ『シェリー』の幼馴染グループ。

 少し傲慢な所のある『アルバート』や、そのフォローをすることの多い『カイン』の二人は同じ剣術道場の出身だ。

 そして神官でもあり回復魔法と槌術を使いこなす『レイチェル』だ。

 変異種という予想外のトラブルはあったものの初心者講習は無事終了し、その中でジンは同期ともいえる彼らや先輩達と冒険者仲間という確かな絆を得る事になった。

 特に『エルザ』と『レイチェル』とは、その後しばらくしてパーティを組むことになる。

 こうしてジンの冒険者として過ごす日々が始まった。その日々の中でさまざまな出来事があった。

 女性当主として家を継ぐために冒険者を辞める事になった『エルザ』の相棒『シーリン』との別れに立ち会ったり、『エルザ』と『レイチェル』と共に組んだ臨時パーティで変異種に遭遇したりもした。

 他にも新しい出会いとして迷子の幼子『アイリス』を保護し、その父親で『ガルディン商会リエンツ支店』の店長である『オルト』、その妻である『イリス』とも知り合う事になった。また、後にそれが縁でオルトから借家を紹介してもらったジンは、宿屋暮らしを止めて一軒家を借りる事にした。

 ただその過程で誤解が生じ、その少し前に正式にパーティを組んだ『エルザ』や『レイチェル』と想定外に同居する事になったり、『鍛冶』や『調合』等の修行を始めたり、『アリア』の過去や『バーク』一家との関係に関わったりと、ジンは異世界ではなく現実としてこの世界に馴染んでいく。

『(第55話)自分達に出来る事 ~ (第80話)告白』

 自分は恵まれているなと周囲に感謝して毎日を過ごすジンだったが、ここで一つの事件が起きる。

 ジン達に懐いていた『アイリス』が、原因不明の病にかかったのだ。その病はリエンツの街全体で流行っており、ジンはその病が『魔力熱』と呼ばれるものである事をレベル5まで必死に上げた『鑑定』で確かめる。

 病に耐えて頑張るアイリスの為に、ジンは薬屋の『ビーン』や神官長の『クラーク』らの力を借りてその解決策を突き止める。そしてギルドのグレッグらの協力の元、特効薬の材料となる『マドレンの花びら』を得るために旅立った。

 この時、エルザとレイチェル以外にもう一人ギルドから同行する者がいた。

 それはCランク昇格試験の監督官という名目で参加する、元Cランク冒険者であるギルド受付の『アリア』だ。

 彼ら四人はマドレンの花を求める旅の中でより絆を深め、後にアリアはこれを切っ掛けとしてギルドを辞めてジンのパーティに参加することになる。

 当初は魔力熱の対処法として『マドレンの花』を求める旅だったが、神獣『ペルグリューン』との出会いにより、『魔力熱』の根本原因とその治療法が判明した。その内容は魔力通信を使ってリエンツの街に速やかに伝えられ、これにより魔力熱で苦しむアイリスを始めとした子供達は救われる事になった。

 後はリエンツの街に帰るだけだったが、ここでまた一つの出会いがあった。ただそれは決して喜ばしい物ではなく、仲間を失った悲しみの余り盗賊に身を堕とした元冒険者、凶人『ゲルド』の襲撃であった。

 ジン達が彼に遭遇する前、彼が最初に襲ったのは、ジン達が立ち寄ったトロンの街所属のBランクパーティ『巨人の両腕』だった。

 そのメンバーは酒癖が悪い遊撃手『ザック』、リーダーで戦士の『ヒギンズ』と『ガストン』、魔術師の『メリー』に神官の『アシュリー』の5人だ。彼らはゲルドとは浅からぬ関係にあったのだが、ゲルドはそんな事は気にせず彼らを壊滅寸前に追い込む。そして今にもその命が絶たれようとした時、彼らを救うべくジン達が現れた。

 その後の戦いは正に死闘と言うべきものだった。ゲルドはBランクだったが、Aランク間近と言われた実力の持ち主だった。それは同じBランクである『巨人の両腕』のメンバーを、たった一人で圧倒した事実からもわかる。

 そのゲルドに結果としてたった一人で立ち向かったジンは、死闘の末、実力差を覆して勝利を拾う。

 ただ、その結果としてジンはゲルドを殺すという経験をする事になる。

 後にジンは仲間を失ったゲルドの豹変と最後を戒めとし、自分の周りの誰も失う事がないように強くなる事を決意した。そしてジンの戦いをただ見ているしかなかった3人も、各々が誓いを心に刻んだ。

 リエンツの街に戻ると、彼ら4人は正式にパーティを組み、その名を『フィーレンダンク(たくさんの感謝)』と決めた。

 ギルドでも有名な美女3人に男一人のパーティという事でジンに対する風当たりは強かったが、図らずも広まってしまった魔力熱解決の立役者という噂がそれらを緩和した。

 結果色々な意味でジンは有名になってしまったが、周囲の人々に恵まれた彼は変わらずリエンツの街に愛着を持ち続けた。

 そしてとうとうジンはアリア、エルザ、レイチェルの3人に自分が異世界人であることを告白した。だが、そんな事は彼女達にとって大した問題ではなく、もうずっと以前からジンは彼女達に受け入れられていたのだった。

『(第81話)異変 ~ (第85話)久々の依頼』

 騒動も落ち着き、4人パーティとなったジン達に日常が戻ってきたと思われたが、突然リエンツの街を地震が襲った。たった一度だけ大きく揺れたその特異な地震が告げたのは、迷宮の誕生だった。

 リエンツの直近に生まれたその迷宮は、魔力熱を引き起こした魔力異常の原因だった。迷宮は魔獣の大暴走の原因とも言われており、それを防ぐ為にジン達は迷宮探索をメインに進めていく事になった。

 ジンが持つ『地図』等の力もあって、迷宮探索は順調に進んでいた。しかし、途中迷宮にかかりきりで通常依頼が滞っている事を反省した彼らは、迷宮と依頼を半々の割合で進めていくように変えた。

『(第81話)久しぶりの…… ~ (第91話)出発前』

 そうして迷宮がある事が日常になった頃、リエンツの街に現役のAランク冒険者である『オズワルド』と、その教え子『ジェイド』が現れた。

 その出会いは必ずしも良好なものとは言えなかったが、ジンはオズワルドの態度に感じ入るものがあった。後にグレッグやガンツの後輩に当るオズワルドと知り合う事が出来たジンは、話の流れでそのオズワルドと模擬戦を行う事になった。

 かつて戦ったゲルドを上回る実力を持つオズワルド相手ではあったが、『木剣』の破壊不能属性の助けもあってジンは身内の期待以上に善戦することが出来た。その結果ジンは自らの戦闘力の高さを知らしめ、この後彼の『木剣』を侮るものはいなくなった。また『木剣』は『剛剣』と共に、彼の字名の一つとしてリエンツの街に広く知られる様になった。

 その後、オズワルドは探索の傍らギルドの臨時教官としてジンを始めとしたリエンツにいる見どころのある冒険者を鍛えるようになり、その教えを受けたジン達4人は大きく成長することが出来た。

 そんなある日、『ガルディン商会リエンツ支店』を営むオルトの悩みを切っ掛けに、ジン達はリエンツの街を離れて王都に向かう事になる。