(術式を刻んだ砲弾か)

飛んでくる物体を凝視した私は、その正体を識別する。

軌道を安定させつつも、弾を加速させるための工夫が随所に施されていた。

おまけに強力な聖属性が付与されている。

かなり高度な兵器だ。

帝国はこのようなものを複数設置できるだけの状態らしい。

密偵からの情報にはなかった。

やはり存在を秘匿されていたようである。

配下達が気付けないほどとは、よほど入念に情報管理が為されていたのだろう。

私は迫る砲弾を観察し、その構成術式を暴いていく。

刹那の間に、大まかな効果と破壊力を導き出した。

この辺りは生前から得意としていたため、着弾までの時間だけでも可能である。

結果、下手な防御魔術だと破られかねないことが判明した。

加えて回避困難な飛来速度だ。

相手に防御を強いて、そのまま貫くのが目的なのだろう。

なかなかに悪辣なやり方でありながらも、設計思想は理に適っている。

並みの魔術師だと、反応する前に砲弾を受けて即死する。

周辺がやけに荒れているのは、グロムが奮闘した痕跡に違いない。

私の場合は転移で躱せる。

魔術の出力を上げれば防ぐこともできるが、そこまですることもあるまい。

ちょうどいいので、あの砲の性能を確かめることにした。

向こうが秘密兵器を隠し持っていたのは揺るぎない事実だ。

他にもまだ何かを隠している可能性がある。

今のうちに砲の特性や脆弱性を知っておけば、別の場面で役に立つかもしれない。

(とりあえず、どうにかするか)

砲弾は眼前まで迫りつつあった。

瞬きの間にこの身を打ち砕けるだろう。

私は前方に魔力を展開し、より合わせて数十万本の糸にした。

その際、弾性を持たせるように意識する。

作り出した糸の束を網目状に編み、接近する砲弾を遮る位置に浮かべた。

直後、砲弾がまとめて魔力の網に飛び込む。

位置を固定した網は、その勢いと衝撃に押し込まれて伸びた。

砲弾は火花を散らしながら高速回転する。

激しく軋みながらも、魔力の網は破損しない。

そうして網の伸びが限界に達した時、強い弾性によって砲弾が跳ね返された。

縦回転する複数の砲弾は、逆行して帝都へ飛んでいく。

散らばったそれらが外壁に炸裂し、外壁の一部が爆発と共に崩落した。

不運にも弾が直撃した砲は炎上する。

火だるまになった兵士が中から転がり出るのが見えた。

あの砲は、内部に操縦者がいるようだ。

「さすが魔王様ですな! 素晴らしい反撃ですっ!」

グロムは地面の亀裂から顔を覗かせて私を称賛する。

骨なので表情は変えられないが、いたく尊敬されているのは伝わってきた。

下っ端じみたその姿になんとも言えない気分になりつつ、私は反撃の成果を確かめる。

射撃を終えた砲は、赤熱して白煙を上げていた。

術式が機能しておらず、充填された魔力が乱れている。

あの状態を見るに、連射はできない様子だ。

だから砲の数を増やしているのだろう。

単発式という欠点を設置数で補填している。

初撃で稼働しなかった砲は、駆動せずに沈黙したままである。

術式は正常に作動しているので、いつでも砲弾を撃てるはずだった。

それをしないのは、先ほどのように跳ね返されるのを恐れているためだと思われる。

今頃は被害を受けて動揺している頃だろうか。

反射に使った魔力の網は破損していた。

所々が千切れて術式が安定しない。

同じ砲撃を防ごうとすれば、きっと耐えられずに打ち破られる。

(大した威力だ。そこは認める他ない)

帝国があのような兵器を備えているとは予想外だ。

聖属性を纏う砲弾による高速射撃は、明らかに私の殺害を想定したものであった。

結果的に防げたとは言え、着眼点はとてもいい。

私が魔王として君臨してから、まだ数ヶ月しか経っていないが、まさかこの短期間で開発したのだろうか。

それにしては、性能の高さに違和感を覚える。

連射性能を除けば、あの砲は十分に兵器として機能していた。

仮に幹部抜きの魔王軍が立ち向かう場合、外壁に辿り着くまでに多大な被害を強いられるだろう。

それほどまでに強力無比な兵器である。

それほどの代物を簡単に製造できるとは思えない。

(以前から開発を進めていた魔術式の砲を、対魔王の兵器として改良したのか?)

分かり得る範囲の情報を統合すると、その流れが無難かと思われる。

歴史を遡れば侵略戦争で成り上がってきた国だ。

世界樹の森にも攻め込んでいたことを加味すると、現在でも戦いに熱心なのは言うに及ばない。

数年前から新兵器の開発を行っていたとしても、何ら不思議なことではなかった。

実際の経緯については、帝都内を調べて明かすつもりだ。

重要施設を漁れば、関連資料くらい出てくるだろう。

他国との繋がり等も分かるはずである。

(……このまま魔王軍を帝都に送るのは、危険かもしれない)

私は砲に注目しながら考える。

あれ以外にも、帝国が未知の兵器を保有している恐れがあった。

連戦連勝を根拠に突っ込むと、少なくない被害が出るだろう。

かと言って、私が大規模魔術で帝都を消し飛ばすのは論外だ。

人類側への損害が大きすぎる上に何も残らない。

魔王の脅威を知らしめることはできるものの、長期的に見ると悪手だろう。

帝国を滅ぼしてはいけない。

此度の侵攻で適度に力を削いで、他国との連携を促すだけに留める。

私が為すのは世界滅亡ではないのだ。

以上の理由から、帝都への侵入はひとまず私だけで実行する。

魔王軍は占領済みの都市で待機させて、その後に新たな国境を築いてもらう。

そうして新たな領土を徴収するのだ。

戦略的にも経済的にも重要な地帯を失うことになるため、帝国をほどよく衰退させられる。

ついでに外壁の砲も奪い取らせてもらう。

あれは面白い兵器だ。

是非とも鹵獲して王都で研究したい。

私達にとっても有用だろう。

考えをまとめた私は、グロムに指示を送る。

「私が単独で帝都を攻撃する。お前は王都の守護にあたれ」

「はっ! かしこまりました! 後方の魔王軍は如何しましょうか」

「待機だ。気を抜かないように伝えてくれ」

「承知しました!」

グロムはきびきびとした動作で亀裂から這い上がった。

彼は足裏から炎を噴出すると、猛速で彼方へと飛んでいく。

私はそれを見届けて、帝都の方角を見る。

依然として静かで、これといった動きはなかった。

軍が姿を現さず、砲弾も発射されない。

不気味なほどに落ち着いている。

様子を窺っているのだろうか。

砲撃が効かないため、籠城戦に持ち込むつもりなのかもしれない。

案の定、外壁を軸に多数の防御魔術が張られ始めた。

帝都は磐石の態勢を整えていく。

(引きこもるつもりならば、こちらから遠慮なく行かせてもらおうか)

私は全身に瘴気と魔力を巡らせる。

本来なら魔王軍という組織で侵攻したかったが、少し事情が変わった。

ここは万全を期して、配下の命を優先する方針でいこうと思う。

多少の手間は増えるものの、これで自軍の安全が確保されるのなら安いものだ。

決して配下が弱いせいではない。

的確な戦況把握と命令ができなかった私の責任である。

故にここで挽回させてもらう。

砲の動きに注意しつつ、私は転移魔術で帝都へ向かった。