The Executed Sage Reincarnates as a Lich and Begins a War of Aggression

Episode 148: The Wise Watch the Battle of Loyalty

「この……ッ!」

グロムが振り向きざまに瘴気の斧を振るう。

漆黒の刃は、亜神の拳と衝突した。

甲高い金属音。

無傷の拳とは対照的に、斧は接触箇所から捩れていく。

空間魔術による攻撃だ。

歪みに巻き込むことで、接触したものを破壊する。

あれで地下の魔術工房の証拠を抹消したのだろう。

実質的に防御が不可能であった。

同等の出力の空間魔術で相殺するのが一番だが、あまり現実的とは言い難い。

回避するのが妥当と思われる。

斧を曲げた拳は、そのまま突き抜けるようにグロムへと迫る。

斧を手放したグロムは、仰け反りながら後退した。

「ぐおおおおっ」

グロムは剣と槍を一閃させる。

軌道上にいた亜神は消失した。

無論、斬り伏せたのではない。

攻撃を受ける前に転移したのである。

亜神はグロムの頭上にいた。

回転した彼は踵落としを繰り出す。

グロムは武器を交差してそれを防いだ。

武器が捩れるのを見つつ、彼は息を吸い込む。

そして、口から瘴気の炎を噴射した。

亜神を包み込む勢いで、黒い火炎が扇状に展開される。

グロムは間を置かずに上空へ飛行した。

その脚を切断され、地面に置き去りにされる。

背後に現れた亜神の仕業だった。

手刀による切断である。

おそらくは空間魔術の応用だろう。

時空の断層を刃に見立てて、脚を狙ったに違いない。

物理的な防御が通じないのも当然だった。

加えて亜神は傷を負っていない。

瘴気の炎も転移で避けられたようだった。

上空を陣取ったグロムは、瘴気の武器を投擲していく。

それらは次々と地面に突き立つと、大規模な爆発を起こした。

亜神はその只中を直進する。

彼は空中を蹴り上がるようにして駆けていった。

瘴気の武器や爆発は通り抜けている。

グロムに接近する亜神は腕を引いた。

刺突の予備動作だ。

それを目にしたグロムは防御の構えを取る。

直後、彼の背中を貫手が抉った。

グロムが前のめりになり、低い声で唸る。

「ぐ、ぐぐうううぅ……」

亜神はグロムの前方にいた。

背後から攻撃できる位置にはいない。

しかし、突き出された亜神の片手は、肘から先が消失していた。

消えた部分だけがグロムの背後に浮かんでおり、背中を潜り込んでいる。

奇妙な光景だが、幻などではない。

間違いなく現実として起こっていた。

(空間の繋がりを弄ったのか)

私は魔力の流れから察する。

転移よりも遥かに高度な術だった。

亜神にとって、距離など関係ないのだ。

どこからでも即座に攻撃ができると見ていい。

もしそれを知らずに挑んでいれば、あえなく騙されていただろう。

こうして事前に攻撃方法を知れたのは大きい。

グロムの献身的な努力は、既に実を結んでいた。

「ガ、ハッ……!?」

観戦しているうちに、グロムの胴体に穴が開いた。

亜神の手が消し飛ばしたのだ。

どれだけ強固な防御魔術が張られていても、やはり貫通できるらしい。

触れられた時点で、致命傷になるようだった。

グロムは身を捻り、胴体を消した手を掴もうとする。

しかし、亜神の手は引っ込んで消えた。

見れば元の位置に戻っている。

空間の繋がりを解除したようだ。

「小癪な真似を……ッ!」

怒るグロムは八種の武器を再生成させた。

それらを縦横無尽に振るいながら、疾風のような速度で亜神に襲いかかる。

しかし、彼は亜神の手前で急停止した。

いや、厳密には止まっていない。

ほんの僅かながらも前進し続けている。

速度が極端に低下したのだ。

「…………」

それを眺める亜神は、ただ手をかざしているだけだった。

グロムは懸命に武器を振るうも、届くことはない。

(あれは……空間を引き伸ばしているのか)

見かけに変化はない。

亜神は互いの間にある距離を、途方もない長さにしているようだった。

本来ならすぐに詰められるほどの間合いだが、それを亜神は強引に拡大しているのだろう。

「もういいだろう。やはり無駄だった」

呟いた亜神が手を振る。

空間の歪みが生じて、グロムの胴体が上下で真っ二つになった。

さらに次々と切断されて、粉微塵にされていく。

ほとんど原形も無くなったところで、彼は落下し始めた。

(圧倒的な実力だ。亜神の名は伊達ではない)

純粋な力では、グロムが勝っていた。

これはひとえに能力の格差である。

空間魔術は、あまりにも理不尽だった。

あれほどまでの術を連発できるなど、人間の領域ではない。

それにも関わらず、亜神はほとんど消耗していなかった。

彼は攻防共に完璧な戦いを見せた。

(やはり私が倒さねばならない)

そう決意した時、私は一つの違和感を覚えた。

意識と視線がグロムの残骸へと向く。

落下する残骸のうち、指先から瘴気が糸状になって伸びていた。

蜘蛛の糸より何百倍も細い。

普通ならまず気付かないだろう。

私も偶然発見したようなものだった。

瘴気に馴染んでいたからこそ、分かったのである。

とにかく感知できないほどに微細な糸だった。

グロムの指が曲がる。

それに従って瘴気の糸が真っ直ぐに張られた。

私はその先を視線で辿っていく。

糸の終わりには、亜神の腕があった。

そこに何重にも巻き付いている。

当然、亜神は気付いていない。

やがて糸は引かれた力に合わせて締まった。

そこで察知したらしく、亜神は顔を下げて目を見開く。

しかし既に手遅れだ。

次の瞬間、彼の片腕は切断されて宙を舞った。