私の動じない姿を不審に思ったらしく、グウェンが顔を顰めた。

彼女は半笑いで確認をする。

「え、もしかして本気で戦うつもりです? あっちはあなたを警戒してますし、さすがに手を組んで仕掛けてきますよ」

「分かっている。その上で勝つ自信がある」

私は断言した。

グウェンはため息を洩らし、がしがしと乱雑に髪を掻く。

「マジですかー。自慢みたいになっちゃいますけど、我々は最上位の存在ですからね? 星によっては神みたいな扱いをしてくるくらいですし」

「各大陸の防御機構は、獣を圧倒していると聞いたが」

「それは下っ端相手だからですよ。本当に強い獣は、しっかりと潜伏しています。他の獣の動向から、この星の戦力を計測しているのですよ」

「お前より強い獣がいるのか」

私が訊くと、グウェンは頷いてみせる。

彼女は肩をすくめて私を見た。

「もちろんですよー。私もそこそこやる方ですが、戦闘特化じゃないですからね。たかが知れてるってやつです」

「それでも問題ない。私と魔王軍で対処できる」

「わお、すごい自信ですねぇ……何か根拠でも?」

「もちろんある」

私は自らの肩を触手に変貌させた。

それを何度かうねらせた後、元に戻す。

グウェンは意外そうな顔で拍手をした。

「おー、私の能力をコントロールできるのですか」

「ある程度は操れるようになった」

触手は獣が相手でも特に有効な力だった。

元の使い手がグウェンだからなのか、魔術が効きにくい獣でも簡単に倒せる。

大陸上の獣を葬る際、非常に役立ってくれた。

一方、グウェンは嘲るような顔で私を一瞥すると、ここぞとばかりに嘆息する。

「しかしハーヴェルトさん。私の能力くらいで安心するなんて見通しが甘いですねぇ。他にも様々な魔術を使えるようですが、それだけでは――」

「誰がお前の能力だけだと言った?」

「……はい?」

グウェンが首を傾げる。

答える代わりに、私は片腕を触手へと変貌させた。

その箇所が瞬時に金属製の帯となり、独特の光沢を帯びるようになる。

やがて帯は木のような質感へと変わって、枝に花を咲かせた。

花は蝶になると、羽ばたいて飛んだ。

私が指を伸ばすとそこに止まる。

蝶は液体のように溶けて、指に浸透して消失した。

それに合わせて、身体の変化は残らず元通りとなる。

「なっ……」

一連の光景を目にしたグウェンは絶句する。

これがどういうことか、彼女は察したようだ。

その上で私は説明する。

「死者の谷に捧げた獣の能力は、限定的ながら掌握した。こうして自在に扱うことができる」

私が獣の異能と呼称するこの力は、最大の特徴として魔術耐性を持つ。

攻撃の場合は防御が困難にさせて、防御は堅牢な守りを発揮する。

魔術による阻害が困難で、能力行使を邪魔されにくい点も見逃せないだろう。

ただし、獣の異能には欠点もある。

まず一点目は、完璧な再現ではないとい点だ。

本来の個体ほどの操作性は期待できない。

二点目として、使用時の反動が大きい。

連発すると精神汚染が誘発される。

便利だが、頼りすぎるのは厳禁だった。

扱いとしては、禁呪を超える最上位の術といった具合だろう。

一見すると使い勝手の悪い異能も、組み合わせることで真価を見せる。

もちろん単体で強力な異能もあった。

どれだけ上位の獣が残っていようと、これだけあれば対処は難くない。

魔術との融合も加味すると、様々な可能性を秘めていた。

私の魔王としての力は、底無しに上がりつつある。

「これが自慢の根拠だ。理解できたか?」

「もう本当に規格外ですね……頭が痛くなってきますよ、本当に。喧嘩を売る相手を、完璧に間違えました」

どこか諦めたような眼差しをするグウェンは、だらりと寝転がってしまった。