「おう!きっちり仕上げて来たぜ!これで完璧だろ!」

今日も朝から元気にやってきたのはここの騎士団司令のランスロットである。昨日指定した衛生に関する案件について話し合いがなされた報告書を持ってくる。昨日もその前の日も話し合いに1日中時間を取られた為、今日は身体を動かす気満々で軽装の鎧姿に背中にはクレイモアがベルトでしっかり固定されている。

「そういえばマサルは武器も作れるんだってな!俺の武器もいっちょ作ってくれ!」

日に日に軽く気安いオッサンになるなこの司令は…まだ3日目だぞ…。

「良いですよ、何かピッタリの物を作っておきましょう。その為にはウェイドさんがまとめた指差呼称の徹底についてと、騎士団内の資材確認等についての資料です。先日同様、議会室にて検討と実施の手筈を宜しくお願いします。はい、今日もいってらっしゃい。」

泣きそうな顔でこちらを見るがオッサンが泣きそうな顔でこちらを見ても少しも響くものは無い。むしろ気持ち悪さに仕事を倍くらいに増やしたい思いが沸々と沸いてくる。

「さぁ、仕事だ仕事!早く終わらせて鍛練するぞ!」

何かを察したのか逃げる様に部屋を出ていくランスロット。頑張って仕事して欲しいものだ。今朝、街中を歩いてみると計画書の通り手の空いている人を可能な限り使い街中の汚物等が表面上は除去されていた。今日からは力のある者達による穴堀が行われるのでだろう。適当に報告書を読み今日も鍛冶場へと向かう。

「さて、今日も頑張って色々するか!」

「今日は何を作る気なんでしょうか?」

ウェイドさんが遊ばないで下さいねと目で訴えている。昨日の武器を何個も作って遊んでいたのを見て司令と同様の好きな事しかしたくない人種に思われたのかも知れない。

「昨日は色々と遊びも兼ねてテストしたので今日は井戸での水汲みを楽にするポンプと穴堀りを楽にする為の道具を作っていこうと思います。やはり生活や仕事は楽に安全に出来た方が良いと思いますので。時間があれば手押し車の改良も手掛けていきたいと思ってます。」

「次々と色々な案が出て来ますね、とても良い事です。しかし、そんなに技術を安売りしても良いのですか?」

文官である彼にはよく分かっている様でタダより高いモノはないという事を感覚的に知っている。

「獣人たちの安全などには十分気を使って頂けているのですよね?あとは可能ならある程度の資材を彼らの解放時に頂ければと思いまして、その分くらいは働いておかないとね。」

「生活に支障のない資材でしたら幾らかはご都合つけますよ。本来技術とは金額が付けられない物が多いですからね。」

「具体的にはここでは過剰在庫になっている鉱石がわたしにとっては嬉しいのですが。」

「問題ありません。当分は過剰在庫というより不良在庫ですし。ごっそり持っていって下さい、どうせ直ぐに増えます。」

口約束ながら交渉を終わらせ今日は遊ばないで物作りに励むと言質をとったウェイドは自分の仕事をしに鍛冶場をあとにした。

「確か銅が6割、錫が1割、亜鉛と少しの鉛が3割で青銅になるんだっけ。よしやってみるか!……………ほいっ!出来た!ほら【鑑定】っと…。」

******

【青銅のインゴット】

青銅のインゴット。扱いやすく錆にくい安価な合金硬さと強度では鉄に劣るが加工性に優れている。

******

「とりあえず、これを大まかなポンプのパーツに成形して…組み立てはウェイドとドワーフ二人組が来てから仕組みを教えながらやるかな。取り敢えず10個くらい作って半分くらいパクろう。獣人たちの住む場所の水源確保に要るしな…。普通ならそれ以上に技術向上にテストやらなんやらで駄目になる資材出るだろうしな。誤差だよな誤差…。」

自分にそう言い聞かせてポンプのパーツ作りを始める。何とか目標の10個を仕上げ5個をアイテムボックスへ…内部のピストンになる木材も貰ってきて加工していく。昼前になるとやっと一息つけたらウェイドとドワーフの二人が入ってきた。

「なんだこりゃ!?これは何に使うんだ?」

えっと、こっちはコグスワースだったかな?

「めっちゃ細かいんだがどうやってこんな物を…朝にはなかったぞ!?」

こっちがガストンだっけ?逆だったかな?深い髭面と同じ服似た体格のせいで見分けがつかない。

「これは水汲みを楽にする為の道具でポンプといいます。小さな子供や女性でも簡単に水が大量に井戸から組み上げる事が可能になります。仕組みは後で説明しますので二人はこのポンプの仕組みを覚えて貰いますので宜しくお願いします。」

「こんな物で水がねぇ…すぐには使えねぇのか?」

「そうですね。組み立てると使える様にはなりますけど…あっ、井戸から汲み上げるにはパイプか何か作らないと駄目だな…。実演は夕方にしましょう。足りない部品を思い出したので。」

「じゃあ、オレ達も手伝うぜ!」

「2人はまず片付けが全部終わってからですよ。」

落ち込む二人をどうにかウェイドがなだめて4人で昼食を食べてから今度は鉄でシャベル作りを開始する。この世界のシャベルは木製で先だけを金属で覆うタイプだ。重く力が必要になり壊れやすい重労働になる危険な作業だ。固い地面を掘るには手でやるよりは余程マシだがやはり作業員の負担が大きすぎる。その為今穴を掘っている人達に早く届けてあげたい。何故、朝にシャベルをしなかったのかって?朝のうちに出来たら手洗いなどが楽に十分に出来ると思ったんだよ!

「ほいっ!炭素調整〜そしてそのまま形成!出来た!何個出来るかなぁ〜♪」

本人は気にしてもいないが彼は称号にある通り《無類の生産好き》だったのだ。3時間程がたった頃マサルの目の前には37本の大小様々なシャベルが積み重なっていた。気がついた時には後の祭りでそっと15本を残し17本のシャベルを着服するのだった。当然15本でも多過ぎるのだが彼の多少働いている善意がそれ以上の着服を思いとどめさせたのだった。あとは黙々と廃材などの金属を集め少しでも取り戻そうとリサイクルでパイプを作り防水対策に亜鉛メッキをするのだった。

「ポンプの設置は明日の朝に人気(ひとけ)の多い時間帯にして利便性なんかのアピールをしながらやるにして…今日はシャベル届けて休むかな。調子に乗りすぎて魔力が少ないしな。」

1人作業をする事が多いマサルはもうすっかり身体に独り言が染み付いていた。