「きゃぁ〜〜〜〜っ!!」

「なんて物を………っ!!」

「頭狂ってる………ついにイカれたか!?」

ある日の夕食時、ヴィンターリアの一部にて悲鳴をきっかけにある騒乱が起き始めていた。

「何事っ!!って…またマサルなの?」

「あっ、アデリナ………食う?」

マサルが差し出したのは炭火でバーベキュー式に焼かれた赤い一本の棒が刺さった串焼きである。その赤い棒は先端に向かって少しずつ細くなっていて、白い丸の何かが根元から先まで列をなしてくっついている。

「なんか気持ち悪いわね…食べられるの?」

「めっちゃ旨いよ?」

そう言われて手渡されたけれどアデリナはそれを口にするのが躊躇われるのか、じっと見つめて動かない。そこに救世主が現れる。

「おっ、良い匂いがすると思っていたらタコじゃないですか!マサルさん僕にもありますかね?」

「おう!勿論あるぜ!何せコイツ俺の身長くらいのビックサイズだったからな!」

そう、赤い棒とはタコの足で、現れたのはミコトである。マサルと同郷なだけあってタコの旨さを知っていて堪らないと言った顔で手渡されたタコ足に塩を少しふってかぶり付く。

「………タコって言うんだ?本当に美味しいの?」

「美味しいですよ!僕とマサルさんの故郷ではポピュラーな食材で、酒の肴にしたり、お祭りの時の屋台ではこれを使った料理がとても人気なんですよ。タコ焼きって言いましてね?」

「タコ焼き…これがお祭りの人気メニュー…。」

「アデリナ…それはタコ焼きじゃないぞ?タコを焼いただけだ。タコ焼きは別の料理だからな。」

えっ?違うの?と驚きの表情を見せた後、また考え込むアデリナ。

「くっ…女は度胸よ!いくわっ!」

ガブリと噛み付くアデリナ。なかなか噛みきれず暫く格闘していたが…みるみるうちに表情が輝きだす。

「おひぃひぃいあ!ん…はひみれはひへど、ふぁふぁはふほどあひが!」

口いっぱいにタコが含まれたアデリナの言葉は誰も理解出来ず周囲は微笑ましい顔で見ているか、正体不明の物体を美味しそうに食べているアデリナにドン引きしているかの二択となっていた。

「くっ!遅かったか…。」

汗だくで駆けてきたザーグは絶望した表情でアデリナの顔を見て足を止める。

「はーふ?」

首を傾げるアデリナにザーグは哀れな者を見る表情になり、一歩下がる。

「…アデリナ。そのタコとやら…調理される前の姿見たか?」

「ふぃてなふぃ………んぐっ!ふぅ、やっと飲み込めた………見てないけど何かヤバいの!?えっ?マサル………貴方………わたしに何を食べさせたの!?」

「原材料が見たいのか?………じゃあ、ミコト手伝え!」

ごそごそと木箱の中をあさるマサルとミコト…何故かこの時点でミコトも表情を強ばらせている。

「ちょっと…デカイとこんなに怖いんですか?ヤバいッスねぇ…って、重っ!!」

「じゃあ、持ち上げるぞ?…せ〜の!」

そうして持ち上げられたのは見た目は普通のタコ…しかしデカイだけでミコトのいう通り火星人?的な意味不明な風格を持ち初見のアデリナたちを恐怖の奈落に突き落とした。

「「「「「「きゃぁあぁぁぁぁあ!!」」」」」」

人々は逃げ惑い押し合って転ける者、恐怖のあまり座り込む者、樽に頭から飛び込んで気を失う者とヴィンターリア始まって以来、過去最大級のパニックとなって街に広がっていく。

「ちょっとマサル………初心者にタコはキツいわよ。もう少し気遣い出来る様にならないと駄目よ?」

突然現れてマサルを叱るビクティニアスに硬直する残されたミコトだったが、見覚えのある物体をビクティニアスの手の中に見付け我にかえる。

「ビクティニアス様…それはまさか!」

「あっ、そうよ!醤油とワサビよ!ヘラ様から頂いたの!」

「怒ってたんじゃないのかよ………まぁ、良い!今夜はタコパーティーだ!刺身にしゃぶしゃぶに唐揚げと嫌になるまで楽しむぞ!」

その日、マサルたちが楽しくタコパを行う中、住民たちは家の中にこもり、誰も姿を現さなかったという。日本人のような食への飽くなき探求心はヴィンターリアでは育たないのか…と少し残念に思うマサルであった。