それは古く、忘れた記憶。

古く、錆びつき、開けることすら叶わなくなった記憶。

「愛しい妹」

遠くで声がする。

それが、姉の声であることを知っている。

頬に触れる手がある。母ではない手。

それが、姉の手であることを知っている。

「私にはね、弟がいたの」

姉が語る。姉の話。

「覚えておいて、私の妹。何を忘れても。自身の名すら忘れても。……どうか、きっと、忘れないでいて」

姉の声が、知らぬ未来のことを語る。

まるで必ず起きる出来事であるかのように。

「忘れないで、私の妹。いつか未来に、必ずやあなたを助ける、私の弟の名を」

姉の腕が、体を抱く。

いずれ必ず訪れる未来に、必ずや打ち克つと信じているかのように。

「……弟の名は」

* * *

「よう、嬢ちゃん」

「……わたし、は」

すべてを忘れた少女のもとに、残ったものがただ一つ。