ウィリディスの戦力――ウィリディス軍は、ヴェリラルド王国東部への遠征準備にかかる。

ちなみにウィリディス軍というのは、便宜上の呼び名であり、実際どう名前をつけるべきかは思案中。トキトモ軍とかトキトモ侯爵軍という案は、全力で回避したい俺である。

さて、ここで遅まきながら、我がウィリディス軍の兵器とその編成について簡単に説明する。

大きく分けると、航空部隊と航空艦隊、そして地上戦闘部隊の三つになる。

まず、航空部隊こと、トルネード航空団。

トロヴァオン、ドラケン、ファルケの各飛行中隊が対空・対地作戦問わず用いられる。ポイニクス、ドラゴンアイで編成される偵察飛行中隊が敵情把握、友軍支援を担当。

ワスプⅠ汎用戦闘ヘリ中隊、ワスプⅡ地上攻撃機中隊が、地上部隊の援護と敵地上軍への攻撃を担う。それら地上部隊支援にヴァイパー揚陸艇が順次配備される。

次に、航空艦隊。

とはいっても、今のところは軽巡『アンバル』と、空母『アウローラ』の2隻のみだ。

この2隻からなる第一戦隊のみで、現在再生修理中の改アンバル級軽巡1隻と同改装強襲揚陸艦が完成次第、第一戦隊を巡洋艦戦隊。第二戦隊を空母戦隊にする予定である。

他にシズネ艇があるが、一隻のみなので航空艦隊に配備するか、はたまたウィリディスでの自家用車よろしく編成外の乗り物になるかは考え中だ。数隻を作って戦力とするなら、航空艦隊配備になるんだけど。

そして地上戦闘部隊。

BVシステム搭載戦闘車両から編成される戦車大隊を主力に、パワードスーツと無人仕様のゴーレム型の混成機動歩兵大隊が主力となる。

戦車大隊は、ブロック換装でその役割を大きく変えるために流動的だが、基本はルプス主力戦車中隊、エクウス歩兵戦車中隊、フェルス輸送車両中隊ないしムース偵察車両中隊を1個ずつということになる。

機動歩兵大隊は、TPS-1ヴァジランティ(無人型)を主力にした第一中隊。TPS-3シルフィードと、空中対応型に改造したヴィジランティの混成である第二中隊をメインにしている。

これに配備が急がれるTPS-5ノームと、現在開発中のTPS-6に改造型ヴィジランティを含めた第三中隊、第四中隊が加わる予定だ。

それとは別に、リアナ直属部隊である特殊コマンド分隊として、TPS-4ウンディーネ。ヴィジランティの有人機型を集めたオリビア隊長の近衛小隊がある。

これに、シェイプシフター兵で構成される歩兵大隊が存在する。

以上が、ウィリディス軍である。

陸上・航空・艦隊と三軍が揃っているように見えるが、実質は海兵隊のようなものである。戦地に素早く移動し、敵に先制して打撃を与えて、友軍の橋頭堡(きょうとうほ)を確保し、あとはお任せするのである。

・  ・  ・

ウィリディス軍は動き出した。

航空巡洋艦アンバルと軽空母アウローラをスカイベースよりウィリディス方面へ移動。こちらからはトロヴァオンとファルケの飛行中隊を出して、空中にて空母と合流した後で王国東部を目指す。

俺は先遣隊として、シズネ艇で先行する。

地上戦力については、シズネ艇で現地に到達した後、ポータルを使って送り込むことにする。

改アンバル級の揚陸艦が完成していないのもあるが、仮にあったとしてもあれで乗りつけるのはどうかと思うわけで……。

それもあって、アンバルとアウローラも、擬装を使った上で空で待機してもらうつもりだ。これらも極力、下からの目に触れない位置で運用したい。

ちなみに今回、ダスカ氏が軽巡アンバルに乗り組んでいる。そこでアウローラ航空隊の報告を取り纏めたり、俺からの命令を伝達する係をやってくれている。そのうち艦長とか、航空艦隊の司令官でもやらせてみようかな……。

シズネ艇は、試験中のミラージュ・スクリーン――光学式の擬装魔法を展開して、その姿を視認しづらくした上で東へ飛んでいた。

2機のトロヴァオン戦闘攻撃機が護衛として随伴(ずいはん)している。操縦しているのはマルカスとリアナだ。

シズネ艇には、俺の他にアーリィー、ディーシー、ベルさん、ユナ、サキリス、リーレが搭乗している。なお橿原(かしはら)とエリサは後続組としてウィリディスで待機である。

操縦室では、艇長席に座る俺の膝の上に何故かディーシーがいた。……いや、何故かはわかっている。他に座る場所がないからだ。

クレニエールからの使者であるシャルールは、側面の窓にへばりつく勢いで顔を近づけて流れゆく景色に感嘆していた。最初は、古代文明時代の遺産に乗って混乱の極みにあったが、だいぶ落ち着いてきたようだった。

聞けば、彼は飛行魔法が使え、それゆえに伝令役として文字通り王都まで飛んできたという。だからこそ、シズネ艇のスピードに驚嘆し、なおかつ安全に飛べることに目を丸くするのだった。

本来はシェイプシフター乗組員に操艦を任せるのだが、うちの連中は案の定、その役割を志願してやっていた。ま、暇だったのだろう。

アーリィーが操縦席に座り、リーレがそのすぐそばで操縦の仕方を覚えようとしている。これはちょっと意外。

「リーレ、君は操縦に興味があるのか?」

「まあ、ちょっとな……」

眼帯の女戦士が、どこか女海賊のように見えたが、それについては黙っておく。

「正直、こんなデカい船が飛ぶってのも驚きだけどよ。これくらい大きいなら、落ちても壊れないんじゃないかなって思ってさ」

ほら、戦闘機とか墜落したらヤバいじゃん――と、リーレはシートに肘をつきながら言うのだ。なるほどね、と思ったが、そもそもこの女戦士、不死身だから機体が墜落した程度では死なない。

ユナはレーダー席についている。こちらからではほぼ見えないが、まあ職務は果たしているだろう。

サキリスは操縦室にいない。おそらく休憩室か後部の格納庫にいる。ベルさんの姿もないから、一緒かもしれない。

「お師匠」

一段低い位置になっているレーダー席からユナの声がした。

「地図によると、まもなくクレニエール領に進入します」

陸路では何日かかるかわからない距離ではあるが、空を飛ぶシズネ艇と戦闘機にとっては数時間もかからないフライトである。

シャルールが振り返り、目を見開いた。

「もう、着いてしまうのですか!?」

「まあ、古代文明時代の艦(ふね)ですから」

そう答えるしかない俺である。実際、嘘はついていない。その時、通信席のSS通信士が声をあげた。

『艇長、偵察飛行隊より通信です。クレニエール領西部にて、東進する所属不明集団を発見』

「所属不明集団……」

例の敵か? 操縦するアーリィー以外の視線が通信士に集まる。シャルールが青ざめる。

「西部から東進ということは……!? 敵はクレニエール城を挟撃(きょうげき)しようという魂胆か!」

挟み撃ち、か。それはあまりよろしくない展開だろうな。

「通信士、偵察機から敵の情報を送れと伝えろ」

『了解』

「ジン、針路は?」

操縦席のアーリィーが視線を寄越した。

「たぶんこちらから近いだろうから、ひとつ様子を見にいこう」

『偵察隊より返信。不明集団、シズネ1より東北東、距離60(キロ)の位置」

「アーリィー、聞こえたな。針路変更だ」

ということで、俺は膝の上のディーシーの腰をつかんで下ろした。見た目、少女なのだが驚くほど軽い。

「主《あるじ)!」

ダンジョンコア・ロッドの抗議を無視。シズネ艇は発見された敵集団へと艦首を向けた。